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正義と魔法の在り処  作者: 水城
第四章 正義とは  七月十七日
11/15

収束する物語

 音無と赤井沢は、既に雨天の飛行を後悔し始めていた。

 五分しか経過していないのに諦めが早すぎる、と思うかもしれないが、しかしこの状況を体感すれば、誰もがこう思うはずだ。「よく五分も続ける気になったな」と。

 まずは視界の悪さが一因として挙げられるが、それ以外にも飛行を断念したい理由はある。一つは、音無の手の掴む場所についてだ。おぶられる側の音無は当然、赤井沢の背中から手をまわしているのだが、掴む場所がない。ただでさえ流動的なラインで構成されている部位が多い鎧なのに、その上からレインコートのビニール素材が被されば、もう手が滑ることを前提で掴むしかなくなる。しかし、唯一掴める鎧の凹凸と言えば首周りか胸部ぐらいのもので、首周りを下手に掴めば赤井沢の首を絞めかねないし、いくら鎧とコートの上からとはいえ異性の胸部を鷲掴みして命綱とする程、人間性を捨ててもいない。

 結果、赤井沢の胸部より少し上くらいで己の両手を掴み、不安定なバランスで何とか飛行についてきている、という姿勢だった。まあ命と人間性どっちを取るんだと言われれば即答で命な音無は、止むを得ない事態に発展すれば胸部だろうと掴みかねないのだろう。

 問題はむしろ、赤井沢だった。

 先ほどから調子が悪いのか、荒い呼吸がこの雨の中でも聞こえてくる。その度に音無は休憩を提案するのだが、赤井沢は「そんな暇はない」の一点張りだ。

(けど、ここで無理をしても後々体調を崩されたら嫌だしなぁ……。……仕方ない)

 心中でごめんなさい、と呟くと、音無はすぐさま赤井沢の胸部に手を当てた。

「赤井沢さん、休憩しませんか!?」

「え、うわ、ちょ、お、おおおおっおおおお音無君!? 手、手! どこ掴んでんのそこ駄目だって!」

 敢えて大声で提案した音無だったが、それに返す形で赤井沢も大声で慌て始めた。だが、音無の狙いはここにある。

「え!? すいません、自分でもどこ掴んでるか分からなくて! 視界が凄く悪いんです、どこか建物の中にいけませんか!?」

 自分で言っていて何とも白々しい台詞だが、しかし赤井沢の連続飛行を停止させるにはこれしかない。飛行して五分とは言うが、それは赤井沢のほぼ全力飛行での五分という意味でもある為、そこそこの距離を稼いでいる。ならばこそ、ここで建物の中へ入り、空から確認できない場所で落ち着くのも悪くないという打算もあった。

「いや、でも……ああもう、わかったからそこのビルの駐車場いくから! だからそこから手ぇどけてお願い!」

「本当にわかんないんですけど……もしかして俺、何かまずい場所触ったりしてますか?」

 音無がそう言った瞬間、一瞬にして赤井沢の飛行の軌跡が直角に折れ曲がり、地上へと降下を始めた。それはもはや降下というよりも墜落というスピードだったが、赤井沢は見事なカーブを描きながらもそのスピードを維持しつつ、手近なビルの地下駐車場へと侵入した。

 途轍もない圧力の急ブレーキがかかり、音無は一瞬意識を手放しそうになるも何とか耐え抜き、ぎゅっと瞑っていた目を開ける。取り敢えずここからどうするかな、と音無がぼんやりと考え始めるその直前、赤井沢の金切り声にも近い声が木霊した。

「さあ降りたから! どけて早く早く早く!」

「え、ちょ、…………あ、す、すみません!」

 まるで今更気が付いたかのような声を上げ、音無は慌てて手をどけた。赤井沢の顔はそれこそ茹蛸のように赤く染まっており、コートの下から僅かに覗く鎧と同色になっている。殴る蹴るだのの荒事では平然としているその顔も、今は軽く涙目になっていた。

 赤井沢は体をプルプルと奮わせながら、音無をその潤んだ瞳で睨みつける。

「……音無君」

「……すいません」

「…………………………まあ、間違いは誰にでもあるから良いんだけどさ」

 その言葉にホッと安堵の息を漏らす音無だったが、そこから一瞬で赤井沢は笑みを浮かべる。しかし、その目は笑っていないどころか……仕事中のそれだ。

「次、間違えたら……食べちゃうからね?」

「た、食べ……っ!!?」

 とても可愛らしい声で言われ、何だか本当に食べられそうな気がしてきた。

 しかも実際に人をブロック肉に変えるなんて簡単に出来るであろう赤井沢なだけに、余計笑えない。

 音無の本能がこれ以上この話を続けてはいけないと警告を始め、話題を変えろと訴えてくる。音無は素直にそれに従い、そういえば、と話題を逸らした。

「ここ、何のビルなんでしょうね」

「わかんないよ、適当に入っただけだし……」

「もう日付も変わってますし、誰かがいるということはなさそうですけど……」

 見渡すと、そこは鉄筋にコンクリートで構成された支柱が何本も立ち並ぶ、よくあるタイプの地下駐車場だった。特撮の撮影などでよく使われるものを想像すれば、寸分狂わずそれと合致するだろう。今は車とバイクが数台しか停まっていない。

 どこかにはあるだろう監視カメラのことが気になる音無ではあったが、それはすぐに頭の隅に追いやった。監視カメラをいちいち気にしている余裕はないし、魔法少女の存在自体が完全にトップシークレットとなっている以上、いくらカメラに映ろうとその映像が一般的な場所へと流出することはないのだろう。そうでなければ、流石に都市伝説程度には噂になっていなければおかしいのだ。

(まあ、噂に疎いのは俺に友達がいないからかもしれないけど……)

 そこを探れば埒が明かない。とにかく音無は、赤井沢にこう提案した。

「赤井沢さん、とにかく支柱にでも隠れましょう。ナインは別に、ハッキングとかが出来る訳ではないんですよね?」

「多分、そういう真似は無理だと思う……。なんていうか、普通の女の子のパラメータを全部戦闘とかに持ってってるからね、魔法少女は。一般教養もない人の方が多いんじゃないかな」

「ちなみに、赤井沢さんは学校とかどうしてたんですか?」

「まったく行ってないよ。この仕事に就く前も、通信教育だったし」

「小学校からずっとですか? それはまた……」

 お金持ちの一人娘みたいですね、と言いかけて、音無は反射的に口を噤んだ。お金持ちというと、どうしても脳裏にあの「強制彼女」のことをちらつかせてしまう自分がいる。

 そんな音無の様子を知ってか知らずか、赤井沢は少しだけ顔を伏せると呟いた。

「……まあ、親が色々あってね。もういないんだ、どっちとも」

 それは恐らく場所的な意味ではなく、この世とかあの世とか、概念的な話だろう。

「それは、その……さっきの、宗教のことと関係があるんですか?」

「……………………ない、とは言えないね。むしろ、それが発端」

 だが、そこで赤井沢の言葉は一度中断された。

 何故か、と問われれば答えるのは簡単だ。銃撃され、足元のコンクリートが砕けたから。

 しかしここで、ある疑問が浮上する。ここは地下駐車場で、空からの目は届かない。それは良い。実際問題、ここで銃撃していたのはナインではなく黒い防弾のアーマーを身に纏った男だ。しかしそれ以上に、どうしてこの場所でいきなり銃撃されたか、という疑問が残る。

 ナインですら追跡出来ないほどのスピードで飛行した。その後急激なブレーキをかけてここへ侵入してから、恐らくまだ二分と経過していない。それなのに、その僅か約二分の間でナインから連絡が周り、「ハラキリ」とやらの構成員が探し回り、音無や赤井沢を見つけ、銃撃するなんてことが可能なのだろうか。確実ではないが、答えはノーだ。

 そして次の瞬間、音無は知る。ここがどういうビルで、どうして目の前の男はこうも早く自分たちを襲撃出来たのか。

 地下駐車場にある、ビルへの入口。ガラス張りの自動ドアで構成されたそれを破壊しながらも、ビル内部からこちらへと向かってくる大量の人影があった。

 黒い、ひたすら黒い、物々しい雰囲気を醸し出すアーマー。暗視ゴーグルと一体化している、漆黒のヘルメット。そして手にしているのは、見たこともないサブマシンガン。

 先ほどの男の生き写しのような五十を越える軍勢が、雪崩のように地下駐車場へと集結する。恐らく、いや確実に、この男達は「ハラキリ」の構成員だ。

 つまり、この建物は。

「……ねえ音無君、私達って運悪過ぎない?」

「……奇遇ですね、俺もそう思ってました」

 ナインが所属する「ハラキリ」の本拠地か、それに準ずる何らかの施設だ。

 物騒な音を立てながら、サブマシンガンの銃口が一斉にこちらへと向く。

『確認だが、マジックナンバー5だな?』

 マジックナンバー云々は知らないが、恐らくは魔法少女の呼称を仰々しくしただけだろう。赤井沢はそれに頷くでもなく首を横に振るでもなく、行動を起こそうともしない。

『……再確認だ。マジックナンバー5、魔法少女ファイブだな?』

「あ、赤井沢さん……」

 心配げな声音で呟く音無だったが、しかし赤井沢はこれを片手で制した。

「大丈夫だよ」

 そして、優しい声音で返事をする。

「あんな銃器オモチャに、負ける魔法少女じゃないって」

 その言葉が相手の逆鱗に触れたのか、それとも銃口を向けられて会話をしている赤井沢や音無に寒気を感じたのかは分からないが、ほぼ同時に全てのサブマシンガンの引き金が引かれる。

 直前、音無は一瞬だけ、目の前から赤井沢が消失したかのように錯覚した。

 実際には、視認出来る速度を遥かに凌駕した音速で跳躍しただけなのだが、それでも常人には瞬間移動と大差ないだろう。

 そして赤井沢の、魔法少女の「殺戮」が始まった。

 

 無論、音速だ。羽織っていた肥満体型用の黒いレインコートは、一瞬にして燃え盛る。

「ハラキリ」構成員全てが引き金を引くという動作を完了させるまでには、まだ僅かに時間が足りない。そして赤井沢からしてみれば、その時間は欠伸が出るほどに長かった。

 まず、目の前の構成員へと飛び込み踏み潰す。この行為だけで構成員が身に着けていたアーマーは砕け散り、四散したアーマーはそれだけで凶弾と化した。取り敢えず周囲の二、三人はこれで巻き込めると踏んだ赤井沢は、すぐさま次の行動に移る。

 先ほど四散したアーマーの破片が、数十センチ脇にいる別の構成員に直撃するよりも早く跳躍した赤井沢は、アーマーの破片だけでは片付けられない範囲の構成員に向かって、どこから取り出したのか自らのステッキをぶち当てた。完全に生き物の骨格ではない曲がり方をした構成員をそのまま蹴り飛ばし、背後にいた五人の構成員も巻き込んでおく。

(あとはたったの――――四十人!)

 この時点で音無には、空中で何かが燃えたと思ったら構成員の何人かが吹き飛んでいたという風にしか見えていない。しかしそれでも、四十人も残りがいれば当然、サブマシンガンの引き金を引く者も存在した。

 それを察知した赤井沢は左方向へと上半身だけ向けると、右手首のスナップのみで持っていたステッキを投げる。それはもう投擲というよりは、射出と言ったほうが正しいような速度と鋭さだった。

 それとほぼ同時、赤井沢は右手首のスナップで生まれた力の向きに抗うことなく左へ半回転し、ステッキを「射出」した方向とは真逆の向きへと駆ける。駆けると言うが、ほとんど一歩で生き残りの構成員のもとへ辿り着いてしまった。

 駆けた衝撃をそのままに、右手で手近な構成員を薙ぐ。それを更に別の構成員に激突させ、音速を超えたドミノ倒しを発生させた。それは巨大な圧力となって、構成員達を纏めて絶命させる。

 一方、後方へ投げたステッキはあと二十名いるかいないかの生き残りが射出した弾丸を全てそのフォルムに受け、あらぬ方向へと弾き返していた。これは他の魔法少女でも簡単に出来る芸当ではなく、長年遠距離とはいえ射撃をしていた赤井沢だからこそ、弾道が予測出来たのだ。しかし、弾道が予測出来たからと言って、その弾道全てに一回の投擲で重なり、加えて音無に当たらないよう弾き返す力加減というのは、やはり魔法少女の身体能力があってこそなのだが。

 弾いた弾丸はいくつか構成員の体を貫いていたらしく、残りは十数名となっていた。

 しかし、そこから赤井沢は特別ダイナミックな動きをするでもなく、足元に転がっていた死体を四つ蹴り飛ばし、それを生き残っている構成員に正面衝突させた。あまりにも凄まじい威力だったからか、近くに停車していた車のドアが不自然な方向へ凹み、構成員の幾つかは上半身が吹き飛ばされ、下半身のみがそのまま直立している。が、それもすぐにバランスも失い、崩れた。

 赤井沢は少しだけ血が付着してしまった頬を拭いつつ、音無に告げる。

 満面の笑みで、まるでテストで満点を取った子供のように、告げる。

「終わったよ、音無君っ」

 その笑みを天真爛漫と取るか、それとも別の何かと取るかは、個人の自由だろう。

 

 音無はその笑みを受けながら、僅かに頬を引きつらせつつもこう返した。

「ありがとうございます。やっぱり強いんですね、赤井沢さん」

「そりゃ、相手が音速で動いたりしなけりゃ楽勝だって!」

 音無からしてみれば、シックスを逃がす口実に使ったのが目の前の死体だったため、何とも複雑な気分ではある。が、命の保障と内心の葛藤なら命の保障が欲しい。

 言いたいことは色々とあるが、音無は細かい事にぐちぐちと口出しはせず、赤井沢のこれからの指示を待とうと思った。

 思っただけで、それを実際にすることは出来なかったのだが。

 二人が何か言うよりも先に、地下駐車場のどこかにあるスピーカーからノイズのような音が響き渡ったのだ。思わず苦悶に似た表情を浮かべる音無だったが、すぐにそれは声となって出力される。

『やあやあこんにちは、正義の味方さん』

「……?」

 しかしそれは、どう聞いても人間が発しているとは思えない声だった。いや、言葉の間にある息遣いやイントネーションは自然なのだが、肝心の声自体は完全に人間のものではない。巷で話題の合成音声ソフトを聞き取りやすくしたような、機械が人間を真似して喋っているかのような、ちぐはぐな印象を受ける。

 しかし赤井沢はそんなことに興味は微塵も抱かなかったようで、すぐさま音無の手を掴むと地下駐車場の出入り口へと歩を進める。

「関係ないし。行くよ、音無君。追いかけてくる張本人が所属してる団体の根城なんて、間違っても休憩していい場所じゃない」

「は、はあ……」

 何だか釈然としない気分に襲われる音無だったが、それでも確かに、赤井沢が戦うのではなく逃げると選択した相手が迫ってきているこの状況で、好奇心に負けて話を聞いている暇なんてものは存在しない。的確な判断だった。

 しかし、その歩みを再びあの声が阻害する。

『無視は酷いよ、赤井沢朱音。それに……ああ、キミは音無隆盛か』

「……っ!」瞬間、音無の脳裏に何がちらついた。「――赤井沢さん、待ってください!」

「なに? 何度も言ってるでしょ、こんなのを聞いてる暇は――、」

「今!」

 遮るように、音無は言う。

「あの放送は、あなたを赤井沢朱音と呼びました! けどそれはおかしいんですよ!」

「何がおかしいの? 私が依頼の標的なんだから、名前を把握してないなんてこと有り得ないよ……」

「この件に限っては有り得ます。シックスの言質もあるんですよ、俺には。……シックスは確かに、依頼内容は『正義の味方である魔法少女ファイブの暗殺』と言っていました。通常の依頼では標的の本名は必要不可欠でしょうが、こういう裏の業界であまりにも知名度のある魔法少女に限っては、コードナンバーだけで通じてしまうのかもしれません」

 そこから一拍開けて、音無は再び口を開いた。

「つまり、今この放送を行っている人物は、あなたの素性を確実に知っている。それもごく最近のことです。俺の名前までフルネームで言い当てるということは、俺と赤井沢さんの接点が生まれた二日前ぐらいからあなたを観察していた可能性があります」

「……それって…………依頼人……? いやでも、そんな……依頼人はこんな危険な真似をする見返りがないよ」

『見返りならあるさ、赤井沢朱音。キミの持つそのデバイスだよ』

「「!」」

 二人は同時に目を見開く。このタイミングで的確な会話が成立している、ということはつまり、これが予め容易された音声であるという可能性が消えたことも証明していた。

 この音声は間違いなく、どこか音無達の声が聞こえる環境で、誰かがリアルタイムで発しているもの。

『それにしても、何だね。まさかシックスを殺したのが赤井沢朱音ではなく音無隆盛だったとは、まったく恐れ入るよ。こんなパワフルな高校生が溢れてるなんて、世も末だね』

「………………………………ぇ、」

 一瞬、音無は素の声で驚きの声を上げるところだった。

 明らかにおかしい。赤井沢には誤魔化したが、音無は結局のところシックスを殺してなどいないのだ。それなのにこの音声は今、間違いなく、音無がシックスを殺したと言った。

 シックスの逃亡を知っているはずの依頼人(?)であるはずなのに――何故。

 しかしここで、相手に合わせない手はない。折角赤井沢に誤魔化しているものを、ここで発覚なんてしたら関係に亀裂が入りかねない。将来的には亀裂が入ってもまあいいのだが、今だけは何としても回避したいものだ。

 数秒押し黙ると、音無は赤井沢へ向けて呟いた。

「……赤井沢さん。例えば、依頼人が依頼未達成時に死んだりしたら、どうなるんですか?」

「そりゃ、組織の方針にもよるだろうけど…………基本的に、依頼は依頼人の私利私欲が結果となって現れる。その欲の根源がいなくれば、そりゃ依頼自体やる意味がなくなるね」

 それはつまりナイン……追跡のプロと謳われる魔法少女から逃げ続けるまでもなく、依頼人を殺せば、それでこの件は解決するんじゃないのか?

 魔法少女と無意味に争わなくても、この追跡から逃れられるんじゃないのか?

 目的の為に相手の刺客と戦う、どころか、その刺客を動かす大本さえ消せれば……。

 依頼の期限切れなど待たずに、それで終わる。

「赤井沢さん」

「ちょいストップ。キミが今、何を言おうとしてるのかはよく分かるよ。でも話はそんな簡単じゃないでしょ? 音無君という一般人が魔法少女と行動を共にした、この事実だけでキミは命を狙われかねない。だとすれば、やっぱり私とこのまま逃げたほうが……」

「…………その時は、……その、赤井沢さん。また、俺のことを守ってくださいよ」

「勿論、この件が終わったからさようなら、なんて気はないよ。でも、それでもこの街からは一時的にでも離れないと、やっぱり駄目だよ」

 追い討ちのように、ここから一刻も早く離れるべき不安材料を並べていく赤井沢。だが不思議と、音無はここを離れるのが正解とは思えなくなってきた。決して不正解でもないのだが、それは多分、妥協点だ。満点ではない。

「……でも。それでも俺は、やっぱりまだ駄目なんです。すいません、こんなこといきなり言い出しちゃって。でも…………塩山さんのお墓は、きちんと建ててあげたいんです」

「―――――――――――――――――――――え?」

 満点を取るには、こうするしかない。

 自分が隠した、大きな嘘を正直に話す。最大級の信頼の証として、偽りをなくす。

 最後の布石だ。

「………………すみません、黙ってて。でも俺、赤井沢さんにはやっぱり、元気でいてほしいというか……その…………。――――俺をシックスから庇って、それで……」

 珍しく、音無は狼狽していた。そんな様子を見た赤井沢は、すっかり毒気が抜かれたような、どこか間の抜けた表情を浮かべ、次第に口元をゆがめた。

 笑っているのか泣いているのか、よくわからない表情だ。それでも赤井沢は言葉を紡ぐ。

「……ばーか。そんなこと、気にしないで話してくれれば良かったのに」

「…………ぇ、」

「そっかそっか、そういう理由なら仕方ないか。うん、そうだね、仕方ない仕方ない。私だって、今までお世話になってた人のお墓も建てずこの街を離れたくはないしね」

 よーし、と赤井沢は掛け声のように大きく言うと、

「いっちょやりますか!」

 叫び、ぎゅっと目を瞑った。そしてその場で、まるで活動を停止したかのように微動だにしなくなる。眉間に皺を寄せ集中しているような表情だった為、声をかけるのも憚れた。

 そしてたっぷり二十秒後、赤井沢は目を一気に見開くと、息も止めていたのか瞬間的に「ふあぁぁー……!」とたっぷり息を吐き出す。が、そんな呼吸も束の間、すぐさまもう一度音無の手を掴むと同時、こう叫んだ。

「音無君っ、もう一回駅前行くよ!」

「え、駅前ですか!?」

「あの放送、ノイズとか周囲の環境音は入ってた癖に、雨の音が一切しなかったからね。まだ時間的に、ギリギリ雨が降ってないのはあっちぐらいだし……それに、あの音の響き方はすごく聞き覚えがある」

「駅前で聞き覚え……って、まさか」

 音無が言わんとしていることを代弁するかのように、赤井沢は言う。

「立体駐車場の隠れ家。あそこに今、この放送を流していたヤツはいる!」

 始まりの場所、と呼んでも過言ではないようなそこに、全ての物語は収束する。

 ある少年と、魔法少女の物語。

 けれどこれは多分、そこまで爽やかなエンディングも、胸糞悪い終わりも用意されていない。これの終わりは多分、あっけない幕切れとか、そういうシビアなものだ。

 魔法少女が闊歩する戦場に立つ人間など、その命が零れるのを待つだけなのだから。

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