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ぐーたら乙女の異世界移住生活  作者: 永田すず
第一章 ぐーたら乙女と異世界
2/5

02. ぐーたら乙女、確認する

 トンネルを抜けるとそこは一面の銀世界……でははく、目を開けると道の真ん中に突っ立ってました。

 どうも、ちょっと状況が理解できていない飯田里奈です。良かった、自分の名前は覚えている。


 混乱した頭のまま何となく上を見上げれば、憎らしいくらい晴れ渡った青空が確認できた。

 洗濯日和なので溜めていた衣類を洗いたいと考えたのだけど、どうにも自分の置かれている状況が正常でないことだけは分かった。よし、ようやく頭が回るようになってきたようだ。

 確か私はフリーズしたパソコンを強制終了させていたはずだ。その時、画面が真っ暗になる直前に新作ゲームの設定画面に変化が起こって……。

 突然意識が途切れたと思ったら、次の瞬間にはこうして道? 街道? の真ん中で茫然と突っ立っていたというわけなのだけど。


「え、まさか本当に異世界って所に移動したの?」


 思わずそう口にしても、誰もその疑問に答えてくれる人はいない。

 しかし私の脳裏にはパソコンの画面に浮かび上がっていた『異世界イルレオーネへようこそ。魔法使い、飯田里奈を歓迎します』という文字がしっかり記憶されているのだ。

 あの申請画面にアクセスしていた時間は一時間ほどだったと思う。上機嫌でキャラ設定の項目を選択したり要望を入力したりしたが、これだけは確かだと言える。私は自分の名前を打ち込んでいない、と。

 知らない間にパソコンから個人情報を抜き取られているという可能性も否めないが、名乗ってもいない名前が勝手に浮かび上がるなんて軽くホラーだ。

 まぁ、空にある太陽の位置を見る限りでは夜には程遠い時間帯のようだけど。


 とりあえず、他に何か判断材料となるものがないか探さなくては。

 そう思った私は辺りを見回し、自分の立っている街道に見慣れない跡が残っていることに気付いた。

 車のタイヤ跡とは違い、何か細くて硬い車輪のようなものが走った跡だ。こんな痕跡は見覚えがないと考えながら、該当しそうな乗り物を頭の中に思い浮かべていく。

 そこでピンと来たのが、外国の田舎を旅をしているような番組に映っていた乗り物だった。


「もしかして、馬車……とか?」


 のどかな田園風景の中、パカパカと馬が荷物や人を乗せて運ぶ様子が脳裏に浮かぶ。

 日本では馴染みのないシーンだが、この街道の跡が馬車によるものだと考えれば妙に納得ができたのだ。

 これはいよいよ本格的に、異世界とやらが確定に近づいてきたのではなかろうか。今まで何度か小説でこういった展開のものを読んだことがある。

 その小説は王子様やお姫様に勇者として召喚され、魔王やら魔族やらを倒す王道ファンタジーに近いものだったけど。 

 私の周りには召喚の儀式に必要な魔方陣もなければ、召喚魔法を使った魔法使いもいない。一緒にするなんておこがましいと言われそうだ。


「……魔法使い?」


 そうだ、魔法使いだ。

 あの怪しさが半端ないサイトで入力した申請画面で、職業を魔法使いにしたじゃないか。

 もしかすると、あのキャラ設定は私が操作するキャラクターのことではなく自身のことだったのかもしれない。

 その仮説が正しければ、私はこの地に下り立った時点で魔法使いにジョブチェンジしているはず。

 ふおおお、これは夢にまで見た魔法っ子デビューの瞬間! ドキドキと逸る気持ちを何とか抑え、全神経を自分の右手に集中した。

 キャラ設定をした時にセットした、初級攻撃魔法には火・水・風の三種類の魔法が使えると書かれていたような気がする。

 火は何となく怖いし、風は目で分かりづらいかもしれないので、消去法で試すのは水魔法にした。

 そして私は、心の中で水魔法が使いたいと念じながら指をパチンと鳴らしてみた。すると……。


 ――バシャッ。

「うえっぷ!」


 顔面にコップ一杯分くらいの水が直撃した。

 なるほど、確かに魔法が使えたようだ。でも何故私の顔に? 何かこう……釈然としない。攻撃魔法としても役に立たない感がプンプンしてきた。

 上がりすぎたテンションを下げるための措置のような、何か見えない力が働いてそうな感じがして手放しでは喜べなかった。

 が、魔法が使えたという事実は変わりない。指パッチンは備考欄に書いた要望だったのだが、叶えてくれているようだ。

 服の袖で顔を拭きながら、くふふと含んだ笑い声を出す。ところで今着用している衣類なのだけど、実は私が自宅で身に着けていたルームウェアではなくなっているのだ。

 姿見がないので全身を確認するに至らないが、少なくとも目で見える範囲のものは私が所有している衣服とは別物だった。

 徐々に機嫌を戻しつつある私は、次にファンタジーでお約束のアレをやってみることにした。アレとはもちろん、ステータス確認である。


「す、すてーたすぅ」


 ちょっと口籠ってしまったけれど、私の予想通りその言葉に反応して背景色が目に優しい緑の半透明な、B5サイズほどの横長のウィンドウが目の前に現れた。

 魔法とは違い、一気に近未来的なそれに再びテンションが急上昇していく。

 よく見ると、それには左上から右上にかけてタブがいくつかあり、ページが複数に分かれていることを示している。

 今現在表示されているのは一番左の「能力・装備」と書かれているタブだった。他のタブが選択できるか気になったのでタップしてみたが、残念ながら無反応だった。

 何か条件を満たせば観覧できるようになるのかな、と思いながら私は「能力・装備」のタブの内容に視線を戻した。

 そこに表示されていたのは次の通りだ。


【能力・装備】

==========

◆Lv:1

◆職業:魔法使い

◆装備:

 武器<魔法使いの杖>

 頭<魔力貯蓄ピアス>

 体<ローブ>

 足<ブーツ>

 装飾<指輪>

◆能力値 

 HP:100/100

 MP:299/300

◆スキル

 <鑑定>

 <探索・索敵>

 <初級攻撃魔法>

 <スキル創造> ※特殊スキルのため隠蔽中

◆所持金 0G

==========


 申請画面で設定した職業や装備品、スキルの他に新しくレベルや能力値、所持金という項目が増えている。

 私の感覚では能力値と言えばHPやMPの他に、攻撃力やすばやさといった物もあるイメージだったのだけど、このステータス画面を見る限りでは表示されていないようだ。

 まぁ、危険なことは極力避けたいので物騒な能力は私には必要ない。生活に苦労しない程度に魔法を有効活用できれば良いので、私にとって重要なのはMPの方になるからだ。レベルを上げるのは、MP量が気鳴った時だろう。

 ――で、その肝心のMPなのだけど現在は最大値の300から1減っているようだ。原因は、さっき使った水魔法のせいだろう。

 でも指輪に魔力回復量UPの効果が付いていたはずなので、それが発動した後の可能性もある。また今度その辺りは検証することにしよう。


「お~、装備品はちゃんと身に着けてるんだね。本当に翻訳機能が有効になっているかは分からないけど」


 いつの間にか右手の中指に嵌っているシンプルな銀の指輪を見ながら、感心したように独り言を紡ぐ。

 ステータス画面に表示されている通り、私が設定した装備品はちゃんと身に着けられているようだ。耳たぶに軽く触れると、確かにピアスもある。

 ちなみに体や足の装備品だけど、それだけを着用しているというわけではない。

 ローブの下には安っぽい長そでのシャツと膝丈のスカートを着用しているし、下着だってちゃんと身に着けている。

 ブーツもちゃんと膝下までの靴下を履いてから装備しているのだ。冬や春先によく出没する、コートの下は裸という変態さんにはなっていない。

 着替えの方法だが、これもMP回復の件と同じように少し検証する必要があると思った。

 体<ローブ>と書かれた部分を一度タップすれば装備品の説明が表示され、もう一度タップすると▽印が現われて装備品を変更できるシステムのようだ。

 今はこのローブ以外に装備品を持っていないので着替えはできないけれど、一瞬で服装が変わるのかどうか試してみたいとも思う。

 誤タップのせいで町中で素っ裸とか、笑えないからだ。


 スキルについても、水魔法を使ったので四つ目の<スキル創造>が解放されている。

 指パッチン以上に無茶な要望だったのに、隠蔽機能まで付けて叶えてくれるなんて感謝感謝だ。

 今思えば、私のように鑑定のスキル持ちの人が私のステータスを覗く可能性だってある。それなのに反則技である四つ目のスキルが解除されているなんて、大事になり兼ねない。

 隠蔽という機能の有り難さを痛感しつつ、新しいスキルを創造する時に隠蔽に似たものを作ろうと心に決めた。


 そんなわけで、何はともあれ確かに私がいるのは異世界で間違いないらしい。

 どうせ一人で寂しく生きていくだけの余生だったのだから、この移住権利とやらは幸運だったと前向きに考えよう。

 そう、まず私がやらなければならないのが――。


「所持金ゼロという現実を、何とかすることだよね」


 今日の生活もままならない状態を脱すべく、街道のどの方向へ進めば良いか考えながら一人ごちたのだった。


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