09
でも、今回は行かなくてはいけない。
なにせ大好きなロイお兄様に贈るプレゼントなのだ。
怖がりの自分とはおさらばするのよ、アリエル!
固く決意を結んだアリエルだったが、すぐに不安そうな顔をしてリードを見上げた。
「リードお兄様は…その"まじょ"に会った事ある?」
「いや、僕はないけど。でもリューなら行った事あるよ」
「うそ!?あのリューイお兄様が!?」
アリエルの8番目の兄であるリューイは、泣く子も黙る喧嘩大将。
よく分からない連中とつるんでいて、家に帰ってくる事はほとんどない。
三度の飯より喧嘩、という、生粋のガキ大将である彼がなぜ"まじょ"の所に行く必要があるのだろうか?
まさか"まじょ"を殴りに…!?
アリエルが生まれたときからずっとアリエルを見ていたリードには、アリエルの考えていることが手に取るように分かり、そのちょっと変わった思考回路に笑いだしそうになるのを堪えながら、顔を青くしているアリエルに優しく告げた。
「大丈夫、アリエルが考えているような事はしてないよ」
「よ、良かったぁ。あ、だったらなんで?なんでリュー兄は"まじょ"の所に行ったの?」
「…ま、そこは知らなくてもいいよ」
「なんで!?教えちゃまずいの!?」
「まずいというか…(精力増進の薬をもらいに行った、なんて言えないよね…)」
「…ふーん。ま、いいや。とりあえずその"まじょ"って所に行けば いいのね?」
「そうだね。それが確実かもしれない」
「分かった!ありがとう、リードお兄様!」
本当に嬉しそうにしているアリエルを見送って、リードはその小さな幸せにしばらく浸っていた。
◇
一旦自分の部屋に戻ってきて、少しのお菓子と宝石を巾着に入れると、アリエルは魔女の住んでいる"デフォルトの森"に向かった。
暗闇の中を通ってきたのは怖かったが、優しい魚達のおかげでなんとか魔女のいる森という場所に辿り着いた。
しばらく森の中を散策していると、ぼんやりと小さな灯かりが森の木々の隙間から見え、アリエルはそっと近づいた。
小さな家が一軒、ポツンと寂しげに立っている。
そこから漏れる灯かりの中で、確かに気配を感じた。
ゴクリと唾を飲み、意を決してアリエルは木でできた扉をノックしようと腕を伸ばした―が。
「え?」
アリエルがノックするよりも先に、まるでアリエルが来るのを分かっていたかのようにひとりでに扉が開いた。
驚くアリエルを他所に、中から声が掛けられる。
その声は意外にも若く、"まじょ"は老女だと聞かされていたアリエルは更に驚いた。