08
「…?リードお兄様?」
兄の様子がおかしい事に気がついたアリエルが警戒しながらも少しずつリードに近づき、目の前で手を振る。
するとハッとしたように瞳に力を宿らせ、ガシッとアリエルの肩を掴んだ。
「!?リードお兄様!?」
「なぜ人間になりたいんだ !?好いた男でもできたのか!?だが兄様はそんなの許さないぞ!アリエルが泡になって消えてしまうなんて、耐えられん!というか考えたくもない!アリエルは兄様を置いてく気なのか!?そんな事はさせない!アリエルを人間界などに…「少し黙って下さいリードお兄様」
にっこりと極上の笑みを浮かべれば、その無言の圧力にリードはグッと詰まった。
というかどいつもこいつもカイお兄様の物語を引っ張りだしてきて!
確かあれってまだ発売してない本だよね?未公開って事だよね?なのになんでレイお兄様達はその話を知っているの?
え、もしかして盗み見た?だってカイお兄様は未発表の物語の内容は絶対に教えてくれないよ?もしかして私には教えたくないとか?え、ちょっとそれ悲しいんだけど。
若干泣きそうになったアリエルだったが、すぐに顔を引き締めリードを見据えた。
「まずは私の話を聞いて。いい?」
「うん…」
少し気落ちしているようだが、アリエルは無視して話始める。
「まずリードお兄様が心配しているような事はない。断じてあり得ない」
「アリエル…!」
先ほど までの悲壮感はどこへ行ったのやら、ぱぁっと花が咲くような笑顔を浮かべたリードにアリエルは冷たい眼差しを向けた。
「それと人間の世界に行きたいのはお兄様の結婚式に贈るプレゼントを見つけたいため」
「ここじゃ駄目なの?」
「ここだと贈り物と言ったら相場が決まっちゃってるでしょ。私は誰とも被らないプレゼントを贈りたいの」
「そういう事なんだ…」
リードは今度は真剣になって考えてくれた。
本当口を開かなければカッコイイままで終われるのに。
勿体無いというかなんというか…。
「…デフォルトの森の魔女ならそういう魔法も可能かもしれない」
「魔女?」
聞き慣れない単語にアリエルは首を傾げた。
たしか"まじょ"というのは空想上の生き物ではなかっただろうか?
考え始めたアリエルに、リードは説明を始める。
「そう。ここよりももっと海底にある、暗黒の森と呼ばれる所にその魔女は住んでいるんだ。
怖くない優しい魔女だって聞くし、彼女ならやってくれるんじゃない?」
「海底、ね…」
アリエルは今住んでいる場所より上に行った事はあっても下に行った事はない。
ここより下は暗い闇が広がっているようで、怖くて一度も行った事がない。