06
「はぁ…。」
アリエルは半球状の自分の部屋のベッドの上で、憂いを帯びたため息を漏らした。
そのため息の理由は助けた青年の事を想っていたから―ではなく。
「結婚、ねぇ…。」
大好きだった2番目の兄が結婚する事になったのだ。
相手の女の人も優しそうだし、悪い事など何一つなく、むしろ喜ばしい事なんだけど…。
優しくて、なんでも言う事は聞いてくれて、常に遊び相手となってくれたロイお兄様は、いつでもアリエルの味方だった。
そんな大好きな兄が結婚…。
もう今までのように遊んでくれたり、甘えたりする事はできない。
それがひどく悲しく思えた。
でも、そろそろ兄離れをしなければいけない。もう17なのだ。
それに大好きなお兄様だからこそ、幸せになってもらいたい。
…そういえば。
兄の結婚式の日に贈るプレゼントを、まだ決めかねていた。
人魚の世界にあるプレゼントと言えば七色に輝く貝殻か、オルゴールの流れる巻き貝などが主流だ。
他にもあるが、たくさんとはいえない。
だから招待客が多ければ多いほど、プレゼントが被る率も高くなる。
きっとアリエルの兄たちももうすでにプレゼントを用意しているに違いない。
だけどアリエルはそれのどれもと被らないようなプレゼントを贈りたかった。
大切で大好きな兄の一生に一度の晴れ舞台。
だからこそ記憶に残るような、ずっと手元に置いておけるような、そんなプレゼントを用意したい。
「…そうだ」
しばらく考えていたアリエルはふいに閃いた。
「人間の世界に行って、見つけてくればいいんだわ」
人間の世界はこことは違いたくさんの物で溢れかえっている、とアル兄様が前に教えてくれた。
人間の世界にはここの物が置いてあるはずなどないし、ここにないものが人間の世界にはたくさんある。
それがいいかもしれない。いや、それにしよう!
アリエルの目はキラキラと輝きだした。
だがすぐに当たり前の疑問にぶち当たる。
「どうやって人間の世界に行けばいいのよ…」
プレゼントの事を考えるあまり、すっかり失念していた。
一番大事なこの問題を解決しなければ、先には進めないじゃない。
アリエルは考えた。
どうやって人間の世界まで行くかを。
人間の世界…は、海辺までならいける。だがそれ以上先は?
尾びれがあるため歩く事などできるはずがなく、這いずるのも見苦しいし嫌だ。
それにいつ襲われるか分からない。
人魚の血を飲めば不老不死になれるという、何年も前の噂を信じている馬鹿者がいるかもしれない。そんな馬鹿者に襲われて、拘束されでもしたら元も粉もない。