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「うわぁあ゛!!!」
ひゅ〜ズゴン!!!
「いったぁい!!!」
上空からものすごいスピードで綺麗に整えられた花壇の上に落下したアリエルは、ヒリヒリとお尻にきた痛みに大きな声を上げた。
予想していた現れ方と全く違う現れ方に、アリエルは移転魔法とやらをか けてくれた美女を恨んだ。だが恨んだ所で本人がいるわけではないし、意味がない。
痛むお尻を抑えながら、仕方なくアリエルは立ち上がった。
…と、いうか!!
なんで上から落ちてきた!?あたし!
あたしさっきまで海の中にいたはずなのに!
普通なら下から現れるもんじゃないの!?
なんて上から!?
それがいけないんだ。それが原因なんだ。
どこかへ消えていったはずの恨みの念が、再び戻ってきた。
「ううぅー!アーシェの馬鹿っっ!!」
「アーシェって誰だ?」
アリエルはやり場のない怒りを空に向かって発散した―ところに、声がかかった。
「え、」とアリエルが後ろを振り向くと、そこにはあの時助けた青年が豪華な衣装に身を包み、悠然と立っていた―。
(ええ!?何このパターン!なんで初っぱなからあの人に会っちゃうわけ!?つくづく運がないな!私!いや、運がいいのか?なんせタイプだと思った男性に会ったんだからね。いやいやいや、でも相手は王子だ、側室が何百人もいて、ハーレム状態の我が侭坊っちゃんなんだ!)
アリエルの頭の中は混乱していた。
それが表情にも出ていたらしく、青年 がクツクツと笑いだした。
「…なに笑ってるの」
失礼な仕草にアリエルの唇がへの字に曲がる。
「俺の思ってた通りの人だな、って思っただけだよ」
あ、声めっちゃタイプ。…って違う!!
「だ、誰かと勘違いしているのではございません?」
なぜだか分からないけどバレたらヤバイ、と思ったアリエルは冷や汗をかきながら両手の指先を絡ませ、明後日の方向を向いて○兄に教わった淑女の言動を取った。普段使わないだけに、かなり不自然ではあったが。
こうする事で自分への興味を逸らせる。
そう思っていたアリエルだったが、思わぬ墓穴を掘っていた事に気が付かなかった。
「勘違いなわけあるか。君があの時俺を助けてくれたんだろう?そんな命の恩人を忘れるわけがない」
うああああ!しまった!自分から正体を明かすような事を言ってどうする!馬鹿か、自分!なに「勘違いしているのではございません?」よ!
質問の答えとしても間違ってるでしょ!!
「ごめんなさい、場所間違えました。さよなら!」
情けなさと悔しさから、アリエルは逃げる事に決めた。
だが数メートル走った所で息が上がり、立ち止まってしまった所を、青年の長い腕 が捕らえた。
ドレスを着ているアリエルの三歩が青年の一歩である。
だから立ち止まらなくとも、青年はアリエルを捕まえる事ができた。
「ちょっ、離してっ!」
「嫌だ。ずっと会いたかった人に会えたんだ。離すわけがないだろう」
「…っ!」
こら!静まれ!私の心臓!
思いもよらない言葉に柄にもなく顔が紅潮していくのを感じる。
私なのに私じゃないみたいなこの感覚。
あり得ない!断じてあり得ない!というか認めない!一瞬だけだけど、ときめいたなんて!!
「…無理に決まってるでしょ。私は人魚よ。貴方は人間。種族も、住む世界も全く違う。」
だからアリエルは、自分の心に僅かに灯った小さな炎を消す為に平然を装って、そう冷たく言い放った。
「だから私の事は忘れて。貴方は人間の世界で生きて、私も人魚の世界で生きるから」
そういえば、ここにはロイお兄様に贈るプレゼントを見つける為に来たんだっけ。
だったらさっさとそのプレゼントを探して、買って、お兄様達の所へ帰ろう。