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「分かりました!アーシェさんのために、パーティーへ行ってきます!」
美女を哀れみ、あっさりとパーティーへ行く事を決めたアリエルだったが、当の本人である美女は心の中で一人ほくそ笑んでいた。
なぜなら美女の職業は魔女だからだ。
魔法を使う人間に行けない所なんて ない。
つまり、美女がここから出られないというのは、アリエルをパーティーに行かせる為についた嘘という事なのだ。
ではなぜ嘘をついてまでアリエルをパーティーに行かせたいのか。
その理由はただひとつ。
(堅物王子とそれを助けた人魚のお姫様の、種族を越えた愛…!!
だけど二人には"王宮"という壁がある!王宮に住まう何人もの側室達とのドロドロとした血生臭い人間ドラマ…!)
まるで昼ドラのような展開になりそうな話に、昼ドラ大好きな美女が黙っているはずがない。
と、まぁ、理由はこんな所だ。
(にしても…あの王子がねぇ…)
美女は一人妖しく微笑む。
あの嵐の夜にアリエルが助けた青年は、4つの国をまとめる大帝国の王子で、非常に冷酷なお方だ。
冷酷で、かつ女嫌いな、そんな彼がアリエルに本気の恋をしたのだという。
それを美女は、地上にいる自分の恋人から聞いていた。
この美女の恋人は王宮に勤める最高位の一級魔術師。
彼は面白いぐらいにペラペラと王宮での出来事を話してくれ、王子が彼女を好きだという事もそこから知る事ができた。
(さすが私の愛しい人。ますます惚れてし まったわ)
美女が一人物思いに耽っていると、アリエルが躊躇いがちに美女の名を呼んだ。
「…ああ、そうね。そろそろ時間ね」
アリエルに名前を呼ばれて現実に戻ってきた美女は、壁に掛けてある時計を見てパーティーの時間が迫ってきている事に気がつき、慌てて魔法陣を展開させた。
一瞬の見慣れない出来事にアリエルは興奮したが、美女はそれを遮るようにやや早口で説明を始める。
「今から移転魔法をかけるけど、移動している間は息を止めてて。でないと死んじゃうからね。それでタイムリミットは日付の変わる午後12時。それまでに海に戻ってくるのよ。いい?」
「分かりました」
「よろしい。じゃあ、移動を開始させるわよ。
この中心辺りまで来て頂戴」
アリエルは美女の指示通り、魔法陣の真ん中に立った。
「心の準備はいいかしら?行くわよ」
そうして美女が呪文を唱えると、魔法陣の周りを光が囲い、光が消えたと同時にアリエルの姿も消えた。
「さて…私もダーリンに会いに行こうかしら」
アリエルが消えた後、美女はもう一度魔法陣を展開させ、呪文を唱えると、自らも王宮へと移動したのであ った。