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言われた通りに高そうなソファに座れば、目の前にポッとカップが現れた。
突然の出来事に驚いたアリエルは、思わず美女の顔を見てしまう。
美女はその時のアリエルの反応が面白かったのか、クスクスと小さく笑っている。
「今、なんで?って思ったでしょ」
「はっ、 はいっ」
「簡単よ。これは魔法」
「魔法…?」
「そうよ。まぁ詳しい事は企業秘密って事で。で?お姫様のお願い事はなんなのかしら?」
長い足を組み、顎に手を宛てている美女に、アリエルは少し震えながら言った。
「人間に…なりたいんです」
「なんだそんな事。お安い御用よ」
「え!?」
まさかそんなあっさりと了承してくれるとは思わなかった。
リードお兄様が聞いてきたように、彼女からも理由を聞かれるかと思っていたんだけど…。
美女は妖艶に微笑みながら、真っ赤な唇にカップを持っていく。
「どのぐらいの間人間になっていたいの?」
「え…」
まさかそう聞かれるとは思ってもいなかった。
アリエルは困惑しながらも、ザッと頭の中で計算して、「1日…」と答えた。
「1日ね。分かったわ。じゃあ今薬を持ってくるから、ちょっとだけ待ってて頂戴」
「はい」
パタン、とドアが閉まり、美女の姿がなくなると、アリエルは緊張して変に籠っていた肩の力を抜いた。
リードお兄様の言う通り、優しい人だった。
そして若くて美しい女の人だった。
怖い老婆じゃなくて本当によかった。
「お待たせ」
まだ部屋を出て行ってから1分も経っていない内に美女は戻ってきた。
その手には水色の液体が入った小瓶が握られている。
美女はその小瓶をアリエルの前に置き、薬の説明を始めた。
「効用は24時間。それを過ぎるとすぐに元に戻ってしまうわ。人魚は海の中でしか生きられないのでしょう?だからそこの所は気をつけて頂戴ね。
ちなみに副作用だけど、今までの統計を見てみてもあまりないみたい。人によっては目眩がするだとかあるみたいだけど、そういうのは一時的だから安心して。」
「はい」
コクりと頷けば、美女のほっそりとした綺麗な手がアリエルの華奢な手に重なった。
「薬はここで飲んでいきなさい。人間になった時に着る服がないと困るでしょう?
それに私の目の届く範囲内にいてくれれば、私も安心できるわ」
それは願ってもない申し出だ。
アリエルは二つ返事で頷くと、美女が見守る中、さっそく薬を口に含んだ。