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買ったカーテンを紙袋に入れてもらって、あたしは落っことさないようにギュッと両手で抱き締めて。エレンさんは、割と無造作に、左手でしっかり握り締めてる。
これ、意外と重いんだけど……さっすがエレンさん。
なーんて感心してたら、あたしの腕から紙袋がひょいって消えた。
「あれっ!?」
慌ててキョロキョロしたら、将軍が持っててさぁ……やっぱ、片手で持ってるわけ。あれが重たいうちは、あたしは力が足りないってことなんだろうけどね。
ってか、あたしのカーテン!
「私が持ちますよ」
「へ? 持たなくていいよ。あたしのだし」
自分の荷物は自分で持つ。これ基本だよ? 自分でちゃんと持てない分は、買ったりしちゃダメっしょ。
「こうしないと、ユノさんと手をつなげないでしょう?」
「別に、無理してつながなくていいじゃん」
「私が、どうしてもつなぎたいんです。……いけませんか?」
うっ……何でそういう、微妙にきっぱり断りにくい言い方するのかなぁ……。
返事に困ってエレンさんを見たら、もうリアムに手首つかまれてた。ホント、リアムってちゃっかりしてるよね。
将軍相手だし、嫌だって言っても、どうせ同じ結果になるんだし。だったら、たまにはちょこっと聞いとくのもありかもね。で、次に同じようなこと言われたら、前は聞いたから今回は嫌、って断るの。
ね、完璧!
「手ぇつなぐのはいいけど、荷物はあたしが持つから返して」
「今日はたくさん、甘やかさせてくれませんか? まずは手始めに、荷物持ちからでかまいませんので」
「ダメ。それとこれは別問題だから」
だいたい、将軍に荷物持ちさせた、なんて知られたら、あたしが母さんに怒られるじゃん!
「では、今日こうして街へ出た本当の理由を教えたら、荷物持ちをさせてくれますか?」
いたずらっ子みたいな笑い方してる将軍は、正直、ちょっと怖い。何か、すっごい企みをいっぱい抱えてそうで、何か嫌。
……そりゃあ、絶対裏があるとは思ってたけどさぁ……ホントの理由?
「聞いて、あたしが納得できたらね」
んでも、生半可な理由じゃ、納得しないからね!
ググッと顔を近づけてきた将軍が、あたしの耳元でコソッと囁く。
「陛下の結婚は認められたんですが、代わりにエレンが大変なことになりました。私とユノさんの縁談の件も含めて、少しばかり厄介な貴族を引っかけ、しばらく黙っていてもらえるよう、少々画策しようかと」
えっ? 王女様、アルヴィン様と結婚できるんだ? わぁ、よかった! ホント、よかった!
……ん? エレンさんが大変?
えーっと、アルヴィン様が王女様と結婚したら、エレンさんはこの国で一番偉い人に近い身内、になるんだよね? そもそも、エレンさんって、王女様のはとこなんだから、元々王女様に近い人だし。んでもって、独り身だから……あー、それって、エレンさんにとってはすっごい面倒だよね!
「本当にユノ嬢は、他人のことだけは理解が早いのね」
何か、エレンさんにまで、メッチャ呆れた口調で言われたんだけど……。
「つまり、あたしとリアムは餌ってこと?」
「人聞きの悪い言い方をしないでください。餌はリアムだけです」
ほら、やっぱり餌じゃん。
「私は承知の上だからいいけどね。ユノちゃんはそうじゃないから、危ないと思ったらさっさと逃げること。それこそ、貴族相手だろうと、大声で変態でも痴漢でも襲われるー、でも何でもいいから叫んで、とにかく逃げるようにね」
……リアムって、相変わらずだよね。選ぶ言葉が、さぁ……。
まあ、あたしだと、変態って叫ぶのが一番いいかも。相手が冷ややかな視線を浴びるって意味で、だけどね。
実際は、何か叫んで、相手がびっくりしてる間に逃げるのが一番っぽいけど。
「何かあった時には、時間が経っていてもかまいませんから、私かエレン、もしくはマノ隊長に報告をお願いします」
「ん、わかった」
あっ、だから、やたらと手をつなごうとするんだね。荷物持ちたがるのも、そういうことなんだ。
うん、今わかった!
「ご理解いただけたようで何よりです。エレンも、少しは協力的な態度を取ってくれたらいいのですけれどね」
「ヴァージルが、ジリアンと二人っきりでデートするなら、考えてもいいけど?」
「お断りします」
うっわ、バッサリ言い切っちゃった。
……将軍ってさ、美人さんのこと、やっぱあんまり好きじゃないんだ……あたしは、割と好きなんだけどなぁ。
あの、ニタァ、って笑いさえなかったら、だけど。
「ヴァージル将軍、ここではこれでいいから。後で、物陰で問い詰められた時に、ニッコリ笑って『二人きりの時はうんと可愛らしいエレンちゃんが見れるんですよ? 私だけの特権なんです』って答えるのが、今から楽しみで」
想像できた。リアムが言った状況、メッチャ想像しちゃったよ。
リアム、メチャクチャな嘘でもサラッと言ってのけるからね。よっぽど勘が鋭くないと、嘘だってわかんないくらい、当たり前って顔でサラッと。
「……そんな特権、どこにもないから」
ボソッと突っ込んだエレンさんだったけど、リアムはあっさり聞き流してた。




