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「そういえば、ユノちゃんって、ヴァージル将軍に手を握られても平気なんだね」
「んー? そういえば、そうだね。イハル兄も平気だけど、リアムだったら、服の裾つかむよ。ベネットだったら、ベネットの腰に紐つけて、その先っぽを握ってるならオッケーだけど」
リアムはちゃんと気ぃ使ってるけど、ベネットはホント気にしないもん。何か変なものついてそうだし、ベネットの服はつかみたくないじゃん?
将軍も、その辺に関しては、リアムと一緒でちゃんとしてるっぽいし。
「ベネットは、ねぇ……」
あはは、って感じの、微妙に乾いた笑いで、リアムは全然違うとこを見た。
多分、リアムはベネットと同じ部屋だもんね……うん、何か、わかるよ。あたし、同じ天幕だったし。あれは、人間として、さすがにひどいよね。
まあ、あたしは、片づけ下手なリノ姉で慣れてたけど……それでも心が折れそうになったこと、あったよ? 普通の人なら、ベネットだけ、天幕から追い出すんじゃないかな?
……実際は、父さんと二人で散らかしてくれてたから、あたしが片づけてたんだけど。
「解放軍の時は、ユノちゃんがいなかったら、セイガ隊の天幕は崩壊してたね」
「父さんもいたからね。あれだよ、リノ姉の片づけ下手、絶対父さんに似たんだって」
リノ姉が解放軍に参加してたら、母さんかトウガ兄かカノ姉のとこに放り込んでる。じゃないと、手に負えないから。
「ユノちゃんは片づけ上手だよね。昼間は最悪な状態でも、寝る時は綺麗だったから、私も本当に助けられたよ」
「ってか、あれじゃ寝られなかったっしょ? 父さんはその辺で勝手に寝るから、自分は散らかしたい放題なんだよね。ベネットも、ゴミに埋もれて寝る気だったっしょ? あの二人、宿舎から追い出した方がいいんじゃない?」
一応、宿舎の父さんの部屋は、毎日母さんが掃除してるっぽいけどね。
母さんが、父さんより先に死ねない、って言ってるの、冗談じゃなかったみたい。今の状態で母さんがいなくなったら、父さんの部屋が使えなくなるよ、絶対。っていうか、周りの部屋も、人間が生活できなくなるし。
「今はね、個室だから。部屋からはみ出てくるなら、容赦なく全部捨てるって宣言してあるし、ベネットが一応頑張ってるみたいだよ?」
「へぇ……そうなんだ……」
リアムならやる。絶対やる。
ベネットもその辺、わかってるだろうし。一生懸命、部屋ん中に無理矢理押し込めてるんだろうなぁ……。
「エレンちゃんは、片づけは得意?」
「私? そもそも、ものがほとんどないから、片づける必要もないわね」
「可愛い小物を飾るとか、そういうこともしないの?」
「そういうの、私の柄じゃないから」
ニッコニコのリアムと違って、エレンさんはムッとしてる。
まあ、確かに、エレンさんって、小物飾るって雰囲気ないよね。リディも、そういうことしないし。
グレースの部屋は、何かすごいことになってるけどね。いっぺん見せてもらったけど、ベッドの枕元とか、チェストの上とか、机の隅っことか、ベッドの下とか、とにかくいっぱい、いろんなものが置いてあったもん。
あ、そうだ。ちょっと色あせてたし、カーテン変えたかったんだよね。ついでに買っていこうかな。
あたしが部屋の模様替えを考えてる間も、リアムとエレンさんは言い合いしてたみたい。
「だから、私はそういうものはいらないの!」
「小物を愛でるエレンちゃんも、可愛いと思うけどね」
「冗談じゃないわ!」
……リアムだけ楽しそうだね。
ってか、エレンさん、そろそろ本気で怒るんじゃないの? だって、将軍がちょこっとずつ、エレンさんから距離取ってるし……。
「あ、ほら、店が見えてきたよ。せっかくだから、エレンちゃんも何か小物を買えば? あ、そうだ。ユノちゃんとおそろいだったら、飾る気になるんじゃないかな?」
ちょっ、リアム! 何で勝手にそういうこと言うの!
「……ユノ嬢と、おそろい……」
あーもう! エレンさんがその気になっちゃったじゃん!
あたしの部屋、あんまり置く場所ないんだよね。ベッドに物置くの、好きじゃないし。机の上も、あんまゴチャゴチャさせたくないし。チェストの上は革鎧とか置くから、ほとんど置き場ないし。
あとは、床の上くらい? うん、絶対蹴っ飛ばすね、あたし。
「ねえ、ユノ嬢。一緒に選びましょ?」
う……うん。
それにしても、リアムってさ、エレンさんの性格、ホントよくわかってるよね。あのエレンさんがコロコロ転がされてて、ちょっと変な感じ。
手を離してもらったエレンさんが、あたしの手をつかんで、雑貨屋に駆け込む。
「ユノ嬢は、どんなものが好き?」
「何でもいいよ。あたし、食べれない物には執着ないから」
「あら、奇遇ね。私も、物はどうでもいいの」
ちょっ……それじゃ、ちっとも決まんないじゃん!
んー、困ったなぁ……。
あ、いいこと思いついた!
「エレンさんの部屋は、カーテンつけてる?」
「ええ。使っていない部屋にも、ついているはずよ」
「じゃあさぁ」
あたしは今、カーテンだったら欲しい。んでもって、それなら置き場っていうか、つける気もあるわけで。
「エレンさんが、あたしの部屋とおそろいのカーテンじゃ嫌っていうなら、考え直すけど……どう?」
「それがいいわ!」
あー、やっぱり、エレンさんも物増やすの嫌いな人なんだね。
カーテンは洗い替えに取っとけるから、無駄ってわけじゃないし。
ってことで、あたしたちは雑貨屋を出て、カーテンを売ってるお店に移動して。
色違いもいいけど、今日は完璧おそろいで。そうエレンさんが言ったから、同じやつを買ったんだよ。
薄い緑色の地に、ちっちゃな葉っぱの刺繍がいっぱいしてある、可愛いけど落ち着いてるやつ。




