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「結局さぁ、夕ご飯の後も何人か来たんだよ? ホント、ムカつく!」
「……宿舎に入り込んで、しかも上まで上がった図々しいのは、夕方の一人だけ?」
「うん。その後は、下で警戒してくれてたらしくって、大騒ぎはしてたけどね」
ドナに朝ご飯をあげながら、エレンさんに昨日の報告。
今言っとけば、この後王女様に伝えてもらえるじゃん? んで、買い物行って帰ってきたら、解決してるといいのに。
「……どちらにしろ、少々問題が多いようね」
「少々じゃないよ。あたし、朝ご飯食べたら、リディたちと一緒に街で塩壺買うつもりでね。あ、イハル兄についてきてもらわなきゃ!」
そうだった。グレースがガタガタして買い物できないから、イハル兄もいるんだっけ。すっかり忘れてた!
「……塩壺?」
あ、そっか。エレンさんもマーハルニーファの人だから、塩の使い道がわかんないんだよね。
「セイライ国だと、嫌なやつを追っ払う時に、縁切りするって意思表示で塩をまくんだよ」
「ずいぶん変わった風習ね。その、まいた塩はどうするの?」
「カノ姉とかだと、集めて再利用するんだって。一応、土とか埃は適当に払うらしいけど、絶対ついてるよね。んでも、それをぶつけると、もっとすっきりするらしいよ」
そう教えたら、エレンさんがブッて噴いた。
ああ、うん、そうだよね。あの後、部屋に戻って、リディたちにも教えたんだけど、やっぱり同じ反応してたから。
「街へは、その塩壺を買いに行くだけなの?」
「ううん。リディとグレースは服が欲しいんだって。でさぁ、リディがあたしに服を見繕ってくれるんだって。年相応の服だと、服が浮くのに」
「あら、意外とユノ嬢は、年齢に合わせてもいいと思うけど?」
「えーっ?」
だって、ここ、マーハルニーファだよ? セイライ国みたいに、誰でも似合う服、売ってるわけじゃないじゃん? この国で、十六歳……っと、もうすぐ十七になる子が着るような服、あたしに合うわけないってば。
……やっぱ、似合わない、って言われたくないじゃん?
「ふふっ、騙されたと思って、リディ嬢が選んだ服のまま、騎士団の訓練に突っ込んでいけばいいわ。その時には私も、できるだけそこにいるようにするから」
「……エレンさん、面白がってる?」
ってか、絶対面白がってるよね?
「いいえ。新しいユノ嬢が見られることが、今から楽しみなの」
クスクス笑うエレンさんには、多分きっと、どんだけ頑張っても勝てない。それが最近、やっとわかってきたとこ。
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街であたしは、塩壺と中身の塩を買った。リディは、いかにもリディっぽい服をいくつか。グレースは、イハル兄とああでもない、こうでもないって悩んで、メッチャふわふわした可愛い服を買ってた。
あれ、絶対イハル兄の趣味だ。だって、お姉ちゃんたちには絶対似合わないタイプだもん。
で、お昼を食べて、最後に、リディとグレースがあたしの服を選んでくれた。
試着してみて、イハル兄の反応も悪くなくって、そのまま着て帰ることにしたんだけど……ホントにこれ、大丈夫?
だって、割と体にピッタリしたワンピースだよ? おっきな花柄が全体に入ってて、地は薄茶の。スカート丈は膝より下だし、袖は肘までだし。
鏡で見たあたしは、みんなが保証したとおり、そんなに変じゃなかった。いつもより、ちょこっと年上に見えるかも。んでも、何となーくあたしっぽくなくって、変な感じがするわけ。
着てた私服と塩壺は、リディが部屋に持って帰ってくれるから、何も心配ないんだけど。
この恰好のまま、訓練行くの……おかしいよね。着替えてきた方が、絶対いいよね? でも、着替えに行ったら、もう一回追い返されそうなんだよね、リディに。んでもって、エレンさんが迎えに来るよね、ドナに乗って。
しょうがないから、チラッと顔だけ見せて、すぐ着替えに戻ればいいよね、うん。
中庭の手前で、ドナがつないであった。中を覗いたら、真っ先に将軍がこっち見て、ほぼ同時にエレンさんも振り返って。
エレンさんが全速力で駆け寄ってきた!
……に、逃げたい……。
「ユ、ユノ嬢!」
「な……何?」
ホント、エレンさんだと、何されるかわかんなくって怖いんだけど……。
まずは、ギュッて抱き締められた。で、その後、エレンさんに両腕で抱え上げられて。エレンさんをちょっと上から、真っ直ぐ見下ろす感じの位置で、しっかり固定された。膝が、エレンさんのお腹の辺に、ちょうど当たってるかも。
将軍は片腕だったけど、エレンさんは両腕なんだね。それとも、この抱え方だと、片腕は不安定になるのかな?
「このままさらっていきたい!」
「えっと……ドナの空中散歩だったら、いいよ」
「ぜひ!」
早速歩き出そうとするエレンさんを、いつの間にか将軍が両手でしっかり引き止めてた。
「返してもらえますか?」
「嫌よ」
バッサリ断るエレンさんに、将軍が冷ややかな目を向けてる。
……どっちも怖いんだけど……。
「これほど愛らしい姿のユノさんを、エレンに独占させるわけにはいきません」
「それはこっちの台詞よ。ヴァージルは引っ込んでて」
すっごい……二人とも、声もひんやり、顔も無表情で怖いし……。
でも、多分、勘違いしてそうだから、念のため。
「あのさぁ……確かにワンピースだけど、下、いつもと同じ短いの履いてるよ?」
だから、あたしとしては、今までの私服と大差ない感覚なんだよね。
そりゃあ、いつもよりヒラヒラしてるし、丈も長いし、女の子っぽい恰好だって思うけど……ちょこっと物珍しいだけで、二人が争うほどじゃないっしょ。




