74
「わっ!?」
いきなり何かがドン、ってぶつかってきた。多分、そんなとこ。それも、あたしじゃなくって、将軍に。
二度目の衝撃で、あたしはポンッと放り出された。
「ヘザー!」
美人さんが怒鳴ってる。
地面でこすったとこを確かめてる間に、あたしの隣にエレンさんが立ってた。槍持って、メッチャ怖い顔して。
ちっちゃい竜たちが、あたしを遠巻きに見てんのがわかる。うん……ロイドとか、絶対餌だと思ってるよね。そういう顔してるし。
んでも、エレンさんがいたら来ないっぽいから、あたしは美人さんの方を見てみた。
美人さんの足元に、将軍が転がされてる。その将軍の上に、他の竜よりうんと大きい、銀色の竜が足を乗せてて。
片足だけで、将軍の上半身、がっつり押さえ込めるくらい、おっきな竜。でも、ドナと比べたら、半分くらいかな? ううん、半分より小さいかも。
「将軍!」
多分、あの子が、生き残っちゃった子だ。
だからきっと、食べようとしてるわけじゃないと思う。でも、あの子の赤い目には、敵意とか、怒りとか、そういう感情がチラチラ見えてる。
「ヘザー!」
美人さんがまた名前を呼んだってことは、ヘザーってのがあの子の名前だよね。
「ヘザー、将軍から離れて!」
言ってから気がついた。そういえば、竜って、あたしが話しかけてもわかんないじゃん……。
でも、ヘザーは、スッと足を下ろしてくれた。
「ありがと!」
そう言ったら、ヘザーが不思議そうに首を傾げて、あたしと、起き上がった将軍を交互に眺めて。
……ひょっとして、あたしが小さくて、将軍は鎧を着てるから、敵につかまってるって思ったのかな? で、助けなきゃって思ったのかも。
きっと、三年前の時はまだ小さくって、隠れて震えてたのかな。今だったら戦える、助けられるって思って、来てくれたのかな?
そうだったら、すっごく嬉しい!
「将軍は大丈夫だよ? あたしを守ってくれてたんだもん。ホントにヘザーは賢い子なんだね。すごいなぁ……」
「……ユノ……すごい」
呆気に取られた顔であたしを見て、美人さんがボソッと呟いた。
「言葉ではなく、感情が漠然と通じているようですね」
「さすがはユノ嬢……まさか、初見の竜にも感情を垂れ流しにして伝えられるなんて……」
「エレンさんのは、ちょっと褒め言葉っぽく聞こえないけど……まあ、いっか」
竜だって生き物だもん。それに、ヘザーはホントに賢い子みたいだし、言わなくても伝わるものがあるよね。
「ダメ……」
いきなり美人さんが、ヘザーを見ながら言ったんだけど……何?
「ユノ……ダメ」
「あたし?」
って、あたしがどうしたの?
「ユノ……騎士違う……竜乗らない」
「ん? ひょっとして、あたしを乗っけたいって言ってんの? えっと、あたし、子供に見えてるかもしんないけど、十六だよ?」
ってか、今さら槍使うとか、無理だって。だいたい、片手で槍振り回せるだけの力がないもん。
きゅうーん、とか、きゅうぅ、とか、ちょっとドキッてする可愛い声で甘えて鳴いても、無理なもんは無理だから。
「……友達? ユノ……友達……ダメ?」
「竜騎士になれってんじゃなかったら、別にいいよ」
「あっ、ユノ嬢!」
焦った声のエレンさんと、ニタァって笑った美人さん……ひょっとしてあたし、何かマズいこと言っちゃった?
「ジリアン、それは卑怯だわ。ユノ嬢にとっても、ヘザーにとっても、いいことばかりじゃないの」
「……時間ある……準備」
「あなたねぇ……」
呆れ果ててるエレンさんが怖い。
「陛下に許可をいただいてからになります。それから、ユノさんも、どういうことになるか、きちんと把握してからでなければ、そちらの要望にはお応えできません」
将軍は、怒ってるみたい。
……あたしの考えない悪い癖、できるだけ引っ込めて、ちゃんと考えるようにしなきゃダメだね。
「ユノ……ゴメンなさい」
美人さんがいきなり謝った。んでも、謝られる理由が、よくわかんないんだけど……。
「ユノ嬢、竜と友達になるというのは、その背に乗ると約束したも同然よ。竜騎士を目指す子供は、全員、自分の竜と友達になると宣言するの。それが、契約だから」
「え……ってことは、あたし、ヘザーに乗らなきゃダメってこと?」
いきなりって、無理だよね? ってか、乗ってたら戦えないよね?
「戦時には、置いていくしかないでしょうね。その代わり、平時には乗ってあげればいいと思いますが……何分、居場所の確保が難しいので」
「ユノ嬢を乗せられるようになるまで、ジリアンがきっちり育ててくれるなら話は別なんだけど……何しろ、昔と違って、今は城に常駐している世話係はいないの。竜の主がそれぞれに見ているから、ユノ嬢がいきなりやるのは無理でしょ? 私だって、つきっきりで、ってわけにいかないし」
そうだよね……餌あげたり、体洗ったり、いろいろしなきゃダメだよね。
……きっと、難しいよね?
「だから、ヘザーがユノ嬢を乗せられるようになるまで、時々ユノ嬢を連れてきてあげるわ。その時に、世話の仕方も教えてあげて。城にいる時は、私ができるだけ、ドナでやり方を見せるから。竜が一度決めた主を変えたくない気持ちは、理解してあげられるもの」
美人さんの顔が、パアッて明るくなった。ついでに、しょぼくれてたヘザーも、バッと顔を上げて目をキラキラさせてて。
悪いと思ったけど、笑っちゃった。




