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ドアのあった場所から、ドナの横を通って、グルッと山を回る感じで、人一人分くらいの幅の道を歩いてく。
美人さんが前で、後ろがエレンさん。で、あたしを腕に乗っけた将軍が真ん中。遠くから見たら、どんな関係に見えるんだろ? って疑問になるくらい、変な取り合わせだと思う。
長い髪の毛と服の裾や袖をズルズル引きずって、美人さんは黙々と歩いてる。エレンさんも、何にも言わない。将軍が静かなのは、だいたいいつものことだし。
そういや、美人さんって素手だけど、どうやって戦うんだろ? 魔法かな?
「ねね、将軍。美人さんって、魔道士なの?」
「近いものではありますが……ユノさんの思い浮かべる魔道士とは、微妙に違う存在ですよ」
「そうなの? 美人さん素手だし、どうやって戦うのかなー、って思って。魔法なら素手でおかしくないから、そうなのかと思ったんだけど」
魔道士じゃないのかな? んでも、他に武器なしでって……まさか、僧侶? 待って、それはもっとあり得ないでしょ。だって、戦わないのが僧侶の証ってくらい、無抵抗で死んでく人たちじゃん?
間違っても、竜相手に戦わないでしょ。
「わたし……人間違う」
「へっ?」
ボソッと言われたことが、耳どころか頭の中まで素通り。そんな気がして、思わず首をググッと傾けて、あたしはまた落っこちそうになった。
将軍が足と背中をギュッてしてくれて、落ちずに済んだけどね。
「ジリアンは、竜の血が混ざっているので、ずいぶん長く生きているんですよ。竜の言葉も理解でき、彼らに意志を伝えられるので、ここで竜の管理と育成を負かされているんです」
「へぇ……ってことは、美人さん、竜とお話できるってこと? いいなぁ……」
竜は長生きって言うし、その血が入ってるなら、そりゃあ美人さんも長生きするよね。
……ん? 竜の血が混ざってるって、どういうこと?
「どうやったら、人間と竜の血が混ざるの?」
「わたし娘……竜王……娘」
「んー? 竜王ってことは、竜の王様? 王様は人間っぽくなれる竜で、気まぐれに人間のお嫁さんをもらったってこと?」
ってか、竜王って、人間に変身できる竜なのかな? そうだったら、すごくない? 美人さん、ホント美人だし、竜王もきっとカッコイイんだよね!
「……拉致監禁」
ボソリと呟いた美人さんの声は、冷ややかだった。
あー、うん……そんななれそめ、どっちから聞かされても嫌だよね。
「いろいろと事情があり、ジリアンはここでずっと、竜と暮らしているんですよ」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
っていうか、聞いてゴメンなさい。
あれ? でも、帝国が侵略してきた時は、確かここも占領されたって聞いたけど……。
「帝国軍が来た時は、大丈夫だったの?」
「……帝国? ……皆殺し」
え……あの帝国兵たちを、まさかの皆殺しにしたってこと? ……あ、竜が全部殺されたのかな?
どっちだろ?
「帝国軍が竜をほぼ残らず殺したので、ジリアンが入って来た帝国兵を片っ端から殺したそうです。それゆえ、ここは侵略されたものの、占領はされていません」
「あー、皆殺しって、両方なんだ……」
んでも、あの帝国兵を全員……すっごいよね。エレンさんも強いと思ってたけど、美人さんのがもっと強いんじゃないの?
将軍って、こんだけ強い女の人に囲まれてて、でも、イハル兄みたいなことは言わないよね。あ、もちろん、心の中では思ってるかもしれないけどさぁ。
足を止めて、こっちをジーッと見てた美人さんが、ニィッて感じで笑った。
「ヴァージル……騎士……ユノ可愛い」
うん、将軍は騎士様だよね。で、多分、あたしはちっちゃくて可愛い、ってことなんだろうけど……。
そんでも、あんなふうに、何か企んでます、って感じで笑うかなぁ? それも、美人さんがだよ? エレンさんなら、何となくわかるけどね。
「ジ、ジリアン!」
珍しく将軍が焦ってる。
急にガクッて動いて、あたしはちょこっとだけバランスを崩した。落っこちる危機なんて、何度もいらないんだけど。
「……危ない……後で」
「安全なところでもダメです!」
「言う」
「潔くすっぱり諦めたら? ジリアンは言い出したら聞かないし」
「エレン……言う?」
「言わないで!」
エレンさんが叫んだとたん、美人さんはやっぱりニヤッて笑った。
「……言う」
なーんか、ひょっとしてなんだけど、美人さんって、すっごい勘が鋭いの? ちょっとしたことで、いろいろわかっちゃうような。
そうじゃなかったら、将軍とエレンさんの秘密、がっちり握ってるってことだよね?
……あ、あたしは隠さないといけない秘密とか、ないよ? 全部顔か声に出るから、そういうのないからね?
「ユノ……ない…………ない……ない……? ……ない!」
ちょこっとだけ寂しそうに、しょんぼりしながら、美人さんに連呼されたけど……何か、それはそれで、何がないのか、気になるじゃん!




