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「ですから、あなたが他の男と話していれば嫉妬しますし、エレンといる時には、エレンに殺意すら覚えますよ」
……何か、エレンさんだけ、扱いがすっごく違わない? あ、でも、そうなる状況が想像つかないけど、ベネットの竜にだったら、あたしも殺意が湧くかも!
そっと見上げた将軍の表情は、メッチャ晴れ晴れとしてた。すっきりしたってわかるくらい、吹っ切れてさっぱりしたって顔。
「祝賀会の時、言ったでしょう? あなたを一時でも独り占めできることは、私にとって幸運だと」
……言ったっけ? 言われたかな? うーん、そうだったかも?
「あの時は、将軍が珍しく、エレンさんっぽい口説き文句言ってるとは思ってたけど……」
ここまで深い意味があるとは、思ってなかったんだよね。
だいたいさぁ、あたし、そういうこと、今まで男の人から一度も言われたことないし。
むしろ、あの将軍がエレンさんっぽくなんなきゃいけないくらい、お貴族様って怖いんだって思って、そっちに気ぃ取られてたから。
「祝賀会で言ったことはすべて、私の隠すことない本心ですからね」
「ぅえっ?」
ダメだ。この、エレンさんっぽい将軍って、何か慣れない。最初の、黙り込んでて、並んで歩くのが拷問みたいだった将軍よりも、もっと落ち着かない。
あたしじゃ理由はわかんないけど、無理。
立ち上がって逃げれるなら、今すぐ逃げたい。けど、さっきから足に力が入んないの。何でか、全然立てないんだよね。
あたしの足のはずなのに、あたしに動かせない。足じゃなくって、ただの棒きれになったみたいな、変な感じ。
「マノ隊長には、ありがたいことに許可をいただけましたので、これからは遠慮なくあなたに思いを伝えることにします」
え……? ちょっ、母さん、何の許可なの、それ!
ってか、遠慮なくって……え? ひょっとして、下手すると毎日こんな目に遭うの? そうなったら、あたしの心臓、そのうち止まっちゃわない?
エレンさんだって、女の人だし、毎日じゃないから何とかなってたのに。
「む、無理! あたしが無理!」
「大丈夫です。そのうち、少しは慣れますよ」
ニッコリ、爽やかに微笑んで、将軍はサラッと言い放つ。
「エレンさんのだって慣れないのに、無理に決まってんじゃん!」
「では、慣れてもらいます」
「無理!」
叫んだ拍子に、何でか勢いで立てた。
「絶対、聞かない!」
頑張って宣言して逃げたけど……何か、負けて捨て台詞残してったみたいな、妙な気分。
敗北感満載で部屋に戻ったら、グレースはメッチャ心配してくれた。リディは、何かニヤニヤしてたけど。
「今日は謝れたみたいね」
「……ちゃんと謝れたけど、別の問題が出てきて、すっごい敗北感がさぁ……」
グレースが座ってた方のソファの空きに、ちょんと座って。そのまま、グレースの膝を枕にして転がってみた。
あ、これ、結構気持ちいいかも。
「……グレースって、ほっそりしてて、腕もメッチャ細いのに、太ももはふっかふかで気持ちいいんだね」
「あんたねぇ……どこのエロ親父よ、って聞きたくなること、平然と言わないでくれる?」
「何か、ふわっとしてて落ち着くんだよね……このままここで、寝てもいい?」
「ダーメ。隊長に怒られるわよ?」
あー、そっか。イハル兄かぁ……しょうがない、今日は諦めようっと。
むくっと起き上がって、ちゃんと座り直す。
「ユノさん、頭、小さいんですね。少し驚きました」
「そうよねぇ。ユノって、顔も小さいし」
……まあ、あたし、背が低いもんね。頭は自然と小さくなるもんでしょ。
「って、誰と比べてんの?」
「え? あ……」
ブワッて感じで、グレースが一気に真っ赤になったから、聞かなくてもわかった。ってか、さすがにはっきりとは聞きたくない。
何か、身内の恥をさらされる気がして、嫌。
んでも、興味なさそうだし、そういうことしないんだろうなぁって思ってたけど、イハル兄も、ちゃんと男の人だったみたい。ちょっと意外だけど、安心するね。
だって、こんなはかなげな美少女を、お得意の放置プレイする人だよ? 横から誰かにかっさらわれるんじゃないかって、心配だったんだから。
「にしても、いつから? そんなこと、言ってなかったじゃん」
「あ、あの……えっと……その……」
真っ赤になって、何にも言えなくなってるグレースが可愛い。うん、可愛いから、もう何にも言わなくっていいよ。
「イハル兄に聞くから、やっぱ言わなくていいよ。こういう恥ずかしいことは、平気な人間が引き受けるべきだよね!」
「……あんたねぇ。とばっちりでこっちが被害受けたらどうしてくれるわけ?」
「えー? いいじゃん、とばっちりくらい」
あたし、騎士様たちに聞いたんだからね。最近、あたしが騎士様たちの訓練に参加してて暇な間、おじさんがリディと話してるってこと。
暇つぶしにつき合ってくれてありがたい、とかって、おじさん、メッチャ嬉しそうに言ってたらしいし。それに、リディがほいほい行くんだから、割と気が合ってるってことでしょ?
「……リディってさ、おじさんのこと、好きなの?」
言った瞬間、あたしの体から力がスコンって抜けた。そのまんま、テーブルにおでこを思いっきりぶつけたんだけど。
もう一個音が聞こえたから、多分、そっちはグレース。
「……わかったからもう言わない」
照れ隠しが無言のお色気攻撃とか、ホントやめて欲しいんだけど。
「あのさぁ、二人に聞くけど、誰かを好きってどんな感じ? 家族とか友達が好きってのは、あたしにもわかるんだけど、そうじゃない好きって、どんな感じなのかな、って」
まあ、二人を見てたら、何となくならわかるんだけどね。んでも、感覚としては理解できないわけ。
ドキドキ。フワフワ。ワクワク。ハラハラ。
多分、ひと言じゃ言えないよね。いろんな感情がゴチャゴチャ混ざって、できあがってそうだもん。




