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ほとんど毎日、エレンさんがあたしのとこに来る。いや、うん、あたしも確かに暇だけどさ。王女様のとこにいるエレンさんが、何でそんなに暇なわけ?
「ねえ、ユノ嬢。イハル隊長ときたら、とんでもない人ですよ!」
え? イハル兄がおかしいのは、今に始まったことじゃないけど。
そう思いつつも、あたしはコクコク頷いておく。だって、エレンさん、男が絡むとホント怖いし。
「あれだけ可憐ではかなげな美少女を、完全にスルーするだなんて! しかも、オーレリア様の天幕に、血だらけで突っ込んでくるなんて!」
あー、何か、状況がわかる。
ってか、あの子、イハル兄を血まみれにしたんだ……無傷生還がしょっちゅうのイハル兄を……エミールの渾身の風魔法を、ヒラッと避けたイハル兄を……怖っ! どんだけ強いの!?
で、傷だらけになったし、強い魔道士が欲しいしで、王女様のとこに直談判ついでに、エレンさんに治癒してもらったってことだよね。
何て言うか、イハル兄らしすぎる。
それにしてもさぁ、あたしですらちょっとドキドキした、あんだけ綺麗でか弱そうな子なのにさ。イハル兄って、ホントに何とも思わないんだ。リディが言うには、あの強烈な色香も効かないらしいし。
ひょっとして、男として終わってんじゃない?
「まあ、オーレリア様が、グレース嬢は当面、イハル隊長の管理下に置いた方がいいとおっしゃったので、渋々! 仕方なく! 承諾しましたけれど」
……うん。王女様、イハル兄のとこに置いて正解かも。イハル兄の天幕、一番端っこにあるし。エレンさんの近くに置いたら、絶対あの子、あたしみたいに毎日押しかけられてると思う。
「いいんじゃない? イハル兄なら、きっと間違いもないし。他の隊員とかからも、ちゃんと守るっしょ」
「ええ。その点では、非常に信頼しております」
うっわ。イハル兄、エレンさんにも男扱いされてないよ。
「ただ、グレース嬢は、男が怖いそうです。近づかれると震えて、立っていることもままならないとか。なぜか! どういうわけか! イハル隊長は平気だそうで! しかも、イハル隊長がいれば、他の男も平気だそうで! ああ、腹立たしい! 私が取って代わりたいくらいです!!」
エレンさん、本音がダダ漏れ!
まあでも、わかる気はする。同じくらいっぽいけど、あの子だったら、あたしも何が何でも守ってあげたくなるだろうし。
だって、イハル兄にケガさせる実力はともかくさ。どう見たって、戦場で生き残れない感じがする見た目だもん。
「そうそう、イハル隊長からユノ嬢に、伝言を預かっておりまして。グレース嬢が少しでもなじめるよう、声をかけてあげて欲しいそうです」
え、ちょっ、イハル兄が、女の子に優しくするなんて! 明日、ねぼすけ雪さん、決定じゃない?
あたし、よっぽど驚いた顔してたみたい。エレンさん、クスクス笑ってるよ。何か、恥ずかしい……。
「ユノ嬢は、グレース嬢と面識がおありとか。私もぜひ仲良くしたいのですが、オーレリア様が先か、ほぼ同時と、オーレリア様に牽制されておりまして……」
「あー、なるほどね」
どうりで、エレンさんが飛んでいかないわけだ。
納得して、うんうん頷くあたしを、エレンさんはギュッて抱き締めた。
ふわっといい匂いがする。
「明日の作戦、ご無事をお祈りしております」
きっと、参加するすべての女性の無事を、祈ってるんだよね。それがエレンさんだもん。
それにしても、グレースかぁ。
……すっごく大人しそうだったけど、あたしで大丈夫かな?