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エレンさんが楽しみにすることって、やっぱ、甘く見ちゃいけない。あたしはそう、やっと痛感したっていうか。
うん、気づくの遅すぎ。
今日は、この間採寸した部屋に、エレンさんに連れてきてもらったんだけど。
「え……えっと……あの……こ、これ、ですか?」
「イハル隊長がしっかりと気合いを入れられるよう、私が提案させていただきました」
さっすがエレンさん。やることがホントえげつない。
グレース、半泣きじゃん。いや、でも、あたしもそれがあたしのって言われたら、多分泣く。
ってか、無理。
今、グレースが涙目で見てるのは、十日くらいしたらあるっていう、解放軍の勝利おめでとう会みたいなのに出るためのドレス……らしい。色はグレースの目と同じで、見た目もグレースっぽい、ふわってした可愛いドレス。
そこにいるだけで目立ちそう。
あたしが着たら、絶望的に似合わない予感しかしない。何ていうか、こう、お姫様に憧れました! って子供が着てるみたいな。すっごい残念な感じになるよ、絶対。
つーか、何でグレースが出なきゃダメなの? イハル兄はどうでもいいけど、グレースは男にビビるんだし、かわいそうじゃん?
ん? ひょっとして、逆? イハル兄が出るから、グレースが出ないとダメってこと?
「……それで、あたしにもあるのはどうしてかしらね」
メッチャげんなりしてるっぽいリディの声がする。
「リディ嬢には、私の全力を持って、こちらを推させていただきました。護衛を兼ねてエスコートする騎士には、保養が過ぎて目の毒でしょうが」
「確かに、趣味はいいと思うけど……」
ドレスはちゃんと、リディにも用意してあった。すとんとしたドレスで、スリットがあって、背中ががっつり開いてる。リディにはよく似合いそうで、エレンさんのセンスってすごいと思う。思うけど……ホント、リディまで巻き込んでどうすんの?
まあ、いろいろ思惑とかあるんだろうけどさぁ。
で、さすがにここまで来ると、あたしにもわかる。間違いなく、あたしの分もあるってことだよね?
「それから、ユノ嬢にはこちらを」
「……うっわ」
エレンさん、センスはホントいいよね。それは認める。
んでも、あたしがコレ着るの? 似合うと思うよ? それはもう、子供らしいドレスって感じで、メッチャ似合いそうだけどさぁ。
その長さだと、確実に足が出るよね? そりゃあ、普段から出っぱなしだから、足くらい気になんないけど。
「お子様ね」
ボソッとリディが言った。
うん、あたしもそう思う。だから、反論はしないよ。
試しに、体にちょっと当ててみた。
「あーっ! これ、ひょっとして、思いっきり膝上?」
スカート、胸の下からだった! ってか、胸ないのにコレだと、ないのが強調されるんじゃないの? その辺、大丈夫なわけ?
みんなに体型を大公開、なーんて、さすがに嫌だよ?
「うっふふっ」
エレンさんが変な笑い方してる。グレースがびっくりして、思いっきり一歩下がった。リディも顔が引きつってるし。
だけどさぁ、これ、どうするわけ? 膝までバッチリ丸見えじゃん。下、何か履かないと、絶対ヤバいと思うんだけど……うーん、いっつも履いてるやつでいっかな?
「ちなみに、男性陣の分もありますよ。見ます?」
む。実際に着てるとこもいいけど、似合いそうか想像するのもいいよね!
「ちょこっと見せて!」
「では、こちらを」
ドリスじゃなくって、エレンさんが服を持ってきて広げる。
あれ? そういえば、ドリスの姿、ちっとも見てないけど……何してんだろ?
「これはイハル隊長の分ですね。どの服も、仕上げはこれからですが」
あたしもグレースもリディも、思わず「おおーっ」って感じで言っちゃった。
うん、これは、着てるイハル兄を見るだけでもいい。
いかにも王子様って感じの、くすんだ地味な青色の、形は派手な服。キラキラしてる、メッチャ細かい刺繍。きっと、遠くからでも目立つね!
これ着たイハル兄と、あのドレスのグレースが並んでたら、お姫様と王子様っぽく見えるかも。グレースって、可憐な美少女ってやつだし、イハル兄も、見た目だけはカッコイイし。見た目だけは。
「それから、こちらが、ヴァージル将軍が着る予定のものですね」
次にエレンさんが持ってきたのは、イハル兄のとは全然違ってた。
黒色の、お貴族様用の派手な服って感じじゃなくて、何だっけ? ちょっとすごい使用人の人が着てる……えっと、し、し……あっ、執事! あれを、ちょこっと豪華にした感じの。
一緒にいる人を選びそうな、すっごい服だけど……でも、将軍だったら似合いそう。王子様とかお貴族様って感じのキラキラしたのより、真面目って雰囲気が、いかにも将軍っぽいし。
あー、でも、お貴族様っぽい将軍も、ちょっと見てみたいかも。
イハル兄の、試しに着てくんないかな? 背はほとんど一緒だし、将軍のが多分ちょい細身だから、入るはず。
「ユノ、あんた……考えてること、全部顔に出てるわよ」
「へっ? うっそぉ……」
「ヴァージル将軍も、昔はたまに礼服を着てはいましたが……今は、よほどのことがない限り、まず着ないでしょうね」
リディだけじゃなくって、エレンさんにまで言われた……ってことは、ホントにぜーんぶ顔に出てたってことだよね?
うう……ちょっとショック。
「ああ、でも、ユノ嬢が一生懸命に頼めば、人前に出ないことを条件に、着るくらいはしてくれるかもしれませんよ?」
何か企んでるっていうか、意地の悪い顔したエレンさんが言う。でもさぁ。
「……んー、まあ、いいや」
こう、嫌々というか、渋々着てくれるのって、やっぱ違うし。
苦手な服を着たんだから、もう筋肉は触らせない、なーんて、言われたくないしね!
「もしくは、陛下の成婚の儀……でしょうか。あれだけは、正装でなければ参加できないはずですから」
「へぇ……王女様、結婚すんの?」
それは初耳。ってか、相手はきっと、アルヴィン様だよね?
あたしが首を右に倒したら、エレンさんがひっそりって感じの笑みを浮かべた。ちょっとだけ、怖い雰囲気になるやつ。
「いつになるかはわかりませんけれどね。何しろ、口ばかりうるさい連中が、どっさり待ち構えていますから」
「あー、邪魔者を蹴散らすのが先ってやつ? 王女様は大変だね」
「そうなんですよね……まったく。ちなみに、いくつかの条件さえ整えば、ユノ嬢でも成婚の儀は見られますよ。ただし、少々面倒なことになりますが」
ふーん。あたしでもオッケーってことは、グレースとかもいけるのかな? んでも、面倒なことってのが、ねぇ……エレンさんが言う面倒だし。よくある普通の手間じゃないのは、何となく想像つくよ。
そりゃあ、すっごく派手で綺麗だろうから、王女様を見てはみたいけどね。
「面倒ならいいや。人間関係とか、いろいろごちゃごちゃしてんの見るの、嫌だし」
セイライ国だと、王様でも気さくにその辺歩いてたりするから、あんま偉い人って感じしないけどさ。他の国だと、偉い人は偉い人らしくしなきゃいけないみたい。偉い人にはそれなりに、思惑とかあるだろうし。
ただの傭兵で、戦いに備えて頑張るだけってのは、やっぱ楽だよね。




