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「ユノ、何をやってるんだ?」

 一気に、現実に引き戻された。

「セイガさんは見つかったのか? じきに軍議が始まる時間だ。定刻どおりでないと、アルヴィン様の嫌味が鬱陶しいんだぞ」

 仮にも、王女様の護衛をしてる人に、鬱陶しいなんて……堂々とそんなこと言えるの、イハル(にぃ)くらいだって。

 あっ!

「そうだ、イハル兄! イハル兄でいいじゃん! ねね、この子、参加志願者の魔道士(プラエカンタートル)なんだって。あたしじゃわかんないし、イハル兄に任せちゃっていい?」

「……俺が、力量を判断すればいいのか?」

「うんうん。で、所属とかはイハル兄にお任せするよ。イハル兄んとこも、魔道士欲しがってたでしょ?」

 イハル兄のとこは、斧使い(マルクス)のおじさんと、射手(サギッタ)のお兄さんと、剣士(グラディアートル)のお兄さん。それと、色気たっぷりの美少女で、鍵開けとかできる、貴重な盗賊(シーカ)のリディがいる。

 あたし、何回もリディの色香に惑わされて、すっ転ばされてるんだよね。あれ、ホント、抵抗できないし。頭クラクラしちゃって、足がもつれて、気がついたらこけてるの。しかも、好きな時に垂れ流せるっていうんだから、最っ高に凶悪な凶器だよ。

「じゃあ、あたしは父さん探してくるからー」

 ヒラヒラと手を振って、あたしは父さんがいそうな場所を探す。

 木陰で、適度に光と風が当たって、背もたれがあるとこ。地面に寝っ転がることは、まずやらない。

 木にもたれて、気持ちよくって寝ちゃいました。ってパターンなんだよね、父さんって。

 ちょうどよさそうな木を見つけては、父さんがいないか探す。

 三か所目で、父さんがいびきをかいてるのを見つけた。

「父さん、軍議だって。起きて!」

「うーん……マノ、あと五分……」

「違っ、あたし母さんじゃないし! ってか、いっつも朝それ言って、母さんに怒られてんじゃん!」

 他に人がいなくてよかった。

 傭兵部隊の総大将が、実はこんなだらしないおっさんだって、知られなくて。ホントよかった。

「ほら、父さん。起きないと『セイ』がいくよ!」

 ホントは剣でやるんだけど、頑張れば素手でもできる。革鎧もあるし、元々、一発一発は弱いし。素手なら、うっかり死なせちゃう心配なんて、これっぽっちもない。

 朝はたいてい鎧がないのに、母さんも素手でやってるし。

「夜空に瞬く、星のごとくぅ!」

 できるだけ、革鎧のあるところを狙って。あたしは十回くらい、遠慮も容赦もなく、拳を叩き込んだ。

「うっ……」

「ほら、父さん、起きて! 軍議が始まるって、イハル兄が文句言ってたよ」

「……ああ、ユノか。わかったわかった」

 とか言いながら、まーだ寝ぼけてる。

「しゃんとしないと、もう一発『セイ』をお見舞いするよ!」

「ああ、起きる。起きるから」

 ダメだ、これ。まだ半分寝てるよ。

 とりあえず、軍議優先。しょうがないから、引っ張ってくかなぁ。

「ほら、父さん! 軍議に行くよーっ!」

 グッと気合いを入れて、父さんを引っ張る。酔っ払いみたいにヨタヨタしてるけど、一応立ってくれた。

 助かったぁ……立ってるか座ってるかで、全っ然こっちの労力が違うもん。

 グイグイ引っ張ると、ちゃんとついてくる。ホント、世話が焼けるんだから!

 軍議はいつも、王女様の天幕か、専用の天幕でやってるはず。今日はどっちかなぁ……とりあえず、まずは王女様のとこ行ってみよっかな。

 あたしは父さんを引っ張りながら、なるべく急ぎ足で、王女様の天幕へ向かう。他の天幕より、あからさまに豪華で立派な、大きい天幕。だから、すぐにわかる。味方にもわかりやすいけど、敵にもわかりやすい。

 そういう理由で、王女様の天幕は、陣営のど真ん中。

「……セイガ隊長?」

 げ……父さんってば、まだしゃっきりしてないのに。

 しょうがないから、あたしは恐る恐る後ろを振り向いた。

 白銀の鎧は騎士(エクエス)様の証。うわぁ、騎士様だ。よりによって、騎士様だ。

 見上げた顔は、あたしを魔法から助けてくれた人。確か、ヴァージル将軍だっけ?

 戦場じゃないから、真面目で優しそうな上に、すっごいカッコイイと思う。うん、顔はね。

 何か、あたしから微妙に目ぇ逸らしてんのが、ちょっと気になるけど。

「……あの、セイガ隊長は、具合でも悪いのですか?」

「あ、えーっと、そうじゃなくって。父さん、今まで寝てたから、まだしゃきっと起きてないだけ。もうちょっとしたら、ちゃんと起きると思うけど」

「ああ、そうでしたか。それはよかった」

 カッコイイ人がそういうこと言って、爽やかにニッコリ笑うの、反則じゃない?

 あ、そうだ。

「あのさ、ヴァージル将軍もこれから軍議だよね? 面倒じゃなかったら、父さんを連れてってくんない? 手ぇ引っ張ってけば、ちゃんと歩くから」

 うっわ、戸惑ってる。絶対、困ってる。

 まあ、でも、そうだよね。こんなカッコイイ人が、半分寝ぼけたおっさん連れて歩くなんてさ。見た目にもアレな感じだし、何かの罰じゃあるまいし。

 あーあ。イハル兄なら、遠慮容赦なく頼めるんだけど。

「えっと、ゴメン。いいよ、あたしが連れてく。その代わり、軍議の場所まで道案内、お願いしていい?」

「……え、あ、はい」

 見た目と同じくらい、真面目な人っぽいなぁ。

「こちらです」

 早速、案内してくれる。父さんを引っ張るあたしが、急がなくっても余裕でついていける速さ。

 エレンさんもそうだけど、騎士様って、やっぱ紳士的だよね。

 将軍は時々振り向きながら、あたしが遅れてないか確かめてるみたい。

「今日はここで行います」

 着いた先は、陣営の端っこ。軍議専用の天幕だった。

 あーよかった、王女様の天幕行かないで。

「父さんがまた寝ないように、しっかり見張っててね。母さんがいたら、母さんに頼めば楽だよ」

 寝そうになったら、容赦なく素手で『セイ』を叩き込むから。

「じゃあね!」

 これで、父さん探しは終了! あたしはやっと、自分の天幕に戻れるよ。

 あー、そういえば、さっき会った綺麗な子。結局どうなったのかな? また後で、イハル兄に聞いてみよっと。


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