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イハル兄のとこも、宮廷騎士団の歩兵部隊に残るんだって。グレースが、すっごく嬉しそうに教えてくれた。
「イハルさんに、イハルさんの魔道士として、ずっとそばにいて欲しいと言われました。私の念願が、叶いました」
「へー、そうなんだ」
……あれ? 何かそれ、違わない? っていうか、イハル兄の言いたいことが、ちゃんとグレースに伝わってないような?
いや、うん、グレースの最初の目的としては、それでいいんだよね? イハル兄の隊に入りたくって追っかけてきたわけだし。で、解放軍がなくなってからも、イハル兄の隊にいたいってのも、聞いてたから……そこは間違ってはない、けどさぁ。
イハル兄が、誰かに「そばにいろ」なんて、今まで言ったことないんだよね。鬱陶しいからどっか行け……は、あたしがよく言われたことだけど。単にしゃべりすぎて。
まあ、イハル兄だし、完全に言葉省いて言ったんだろうなぁ。グレースは、言葉に込めた感情は読まない子だよね。はっきり言われたことだけ、バカ正直に受け取るっていうか。
んでも、まあ。
「じゃあ、これからしばらく一緒だね!」
「あ、はい。部屋も、ユノさんと同じ部屋を使うようにと言われました」
「ホント? やった!」
あたしの部屋は、三人部屋。今まで一人でゆったり使ってたんだけど、グレースが一緒なんだ。……ん? ってことは。
「ひょっとして、リディも一緒?」
「はい、そうです」
「すっごい賑やかになりそうだね!」
もう、今からメッチャ楽しみ!
「あ、ユノさん、引き止めてすみませんでした。今すぐお伝えしたくて……」
「ううん、いいよ。大丈夫!」
いや、ホントはちょっと危なかったけどね。
グレースとリディと相部屋ってわかって、楽しみすぎて、さっき頼まれたお使い、うっかり忘れそうだったから。
っていうかさぁ。イハル兄、何でさっき、言わなかったんだろ? 嬉しいことは何回聞いても嬉しいんだし、教えてくれたっていいのに。
とりあえず、父さんを探して、将軍を探して、二人にエレンさんからの伝言をしっかり伝えなきゃ。
先に、居場所がわかりやすい父さんに、エレンさんからの伝言を伝えた。あたしにはよくわかんなかったけど、父さんにはわかったみたい。
「わかった。ヴァージル将軍にも伝えたか?」
「ううん、まだこれから。父さんは、将軍がどこにいるか知ってる?」
「この時間なら……そうだな。見回りに出ているか、中庭で騎士団と訓練をしているはずだ」
行動がふたつくらいに絞られるってのが、将軍らしいね。
「へぇ……じゃあ、中庭に行ってみるね」
いなかったら見回りってことでしょ? 見回りは、つかまりにくいんだよね。あたしが迷子になるから。
中庭にいてくれるように願いながら、あたしはトコトコ歩いてく。
今いたのは、宿舎の近く。そっからグルッと、お城とか宿舎とかいろいろ囲ってる塀に沿って歩くと、そのうちお城が見えてくるわけ。んで、そのお城の横を一回通りすぎて、裏に行くと、中庭に行けるんだよ。だから、外にいる時は、最悪塀に沿って歩けば、宿舎には帰れるわけ。
ここまではちゃんと覚えたよ。だって、外で自分の居場所がわかんないと、本気で迷子になるじゃん? お城の中と違って、すぐに誰か通ってくれるわけじゃないし。
ひょいって覗いたら、中庭で騎士様たちが訓練してた。将軍も、鎧着て、ちゃんといるね。
大声出すのはちょっと、って雰囲気だったから、ちょこちょこ近づいてみる。
中庭に入って、一歩進んだら、真っ先に将軍がこっち見た。で、将軍につられたみたいに、騎士様たちが一斉にこっち見るわけ。
将軍もすごいけど、騎士様たちもすっごいね。
待ってるみたいだから、あたしはパパッと駆け寄る。
「エレンさんから伝言だって。例の件について話があるので、すぐ来るように、って」
「……そうですか。それにしても、言づけるくらいなら、直接ここへ来ればいいものを」
「あー、多分、イハル兄がここに残るって決めた報告に行ったついでに、伝言されたんじゃないかな? で、イハル兄があたしに伝えてこいって。父さんの居場所は探すの面倒ってわかるけど、将軍はイハル兄が行けば早かったのにね」
あたしが言った直後に、騎士様たちから失笑みたいな笑いが聞こえた。将軍がジロッて睨んだとたんに、それはサッと消えちゃったけど。
「エレンからの伝言に関しては、了解しました。総員、訓練を続けていてください。私が時間までに戻らなければ、普段どおりに終了してかまいません」
頭痛を堪えてるみたいな顔だけど、指示を出した将軍はさっさと歩き出した。
ついでにあたしも帰ろうかなって、一歩足を踏み出したんだけど。
「ユノちゃんだよね? ちょっと訓練につき合っていかない?」
……誰?
ほら、あたし、物覚えってとことん悪い方なんだよね。エレンさんとか将軍とかグレースみたいな、強烈な印象があると、ちゃんと覚えてられるけど……さすがに、騎士様一人一人は覚えてないよ。
ってか、騎士様たちに名乗った覚えなんてないけど、何で知ってんのかな?
「こんな子にいきなり、名前にちゃんづけだなんて……お前、不審者みたいだぞ」
「えっ!? そ、そんなことないよね?」
あたしの顔見て、騎士様が不審者かどうか聞かれても……逆に、返事に困るんだけど。
騎士様たちも、将軍みたいに、戦う人って感じがしないからね。他の人から見たら、そんなに不審者じゃないと思う。
「名前呼ばれるのは、別に気にしないよ? でも、騎士様たちの名前は全然覚えてないから、誰? ってなるだけで」
「じゃあ、団長の名前は知ってる?」
「ヴァージル将軍っしょ? 家名とか言われたら知らないけど」
ほら、将軍ってだけあって、ちゃんとした家柄の人っぽいじゃん? まあ、あたしも、いつもは名乗らないだけで、タカシツマって家名があるけどね。
そういえば、エレンさんとかアルヴィン様も、立派な家名あるっぽいよね。昔っから王女様の護衛、やってるくらいだし。
まあ、わざわざ聞く気ないけど。どうせ覚えられないし。
「ってか、騎士様たち、何であたしの名前知ってんの?」
答えてくれるかはわかんないけど、聞くだけ聞いてみよっと。
疑問はその場で解消できた方が、後回しにしてうっかり忘れるってことないし。
「いや、ユノちゃんを知らないやつはいないと思うよ? あと、グレースちゃんにリディさんに、シーラちゃんにカノちゃん」
最初にあたしを呼び止めた騎士様が、ペラペラ教えてくれた。
「へぇ……グレースとかシーラとかカノ姉はわかるけど、あたしやリディもなんだ」
ちょっと意外。っていうか、そんだけ女の子が少ないんだろうけど。
でも、リディだけさんづけなんだね。カノ姉と同い年なのに。
「えー? ユノちゃんは元気で明るくて可愛いし、話しかけたらこうやって気軽に答えてくれるから、チャンスがあったら……なーんて思ってるやつ、多いよ? シーラちゃんとカノちゃんは彼氏いるし、リディさんは大人っぽすぎて近寄りがたいし、グレースちゃんは、ほら、ああだから……」
「そうなんだ? グレースってば、何しててもメッチャ可愛いのに、残念だねー」
ってか、カノ姉、あたしが知る限り、恋人切れたことないから。ちょっと前に、何にもなかったら今の彼氏と結婚するかも、とか言ってたし。
それにしても、おしゃべりな騎士様だよね。あたしと同じくらいしゃべりそう。
「だから、ユノちゃんがこうやってたまに来てくれたら、潤いがあっていいなって思うんだけど……ダメ?」
「暇な時だったら別にいいよ」
「よっしゃ! この時間、暇だったら毎日でも! そんでもって、たまにはお友達も!」
ガッと両手をつかまれて、上下にブンブン振られる。ついでに、あたしの頭も、ガクガク揺れてんだけど。
……ああ、何か今、ちょっとだけ、あたしに話しかけられたグレースの気持ち、わかったかも。




