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将軍としゃべってる間に、目的地には着いた。でも、道は全然見てなくって。これさぁ、帰る時、絶対迷うじゃん。
で、将軍は入り口近くまで送ってくれたけど、エレンさんに声をかける前にいなくなってた。
「エレンさーん、あたしに用?」
「ああ、ユノ嬢! 今日もあなたの可愛らしさに、私の心は癒やされます」
ダッて駆け寄ってきて、ギュッて抱きつこうとして。全身、埃だらけだってことに気がついたみたい。エレンさん、直前でピタッと止まった。
人間ってさ、あの勢いから、キュッと止まれるもんなんだね。そっちにびっくりしたよ。
「オーレリア様、少し外しますね」
「お願いね、エレン」
凛々しい顔に、ちょこちょこ、埃とか汚れをつけたまんま。エレンさんは、あたしについてきてって合図して、スタスタ歩いてく。
やっぱり、道はわかんない。離されたら確実に迷子だから、一生懸命、エレンさんを追いかける。
道を曲がってみたり、階段を下りてみたり、上ってみたり。どこ歩いてんのかさっぱり、ってなった辺りで、目的地に着いたみたい。
「こちらの部屋に入ってください。後は、中の者に従っていただければ、じきに終わりますから」
「はーい」
ドアノブに手をかけたら、エレンさんは帰っていっちゃった。
……帰り、やっぱ迷子かも。
迷っててもしょうがないし、勢いをつけてドアを開けてみた。急いで閉じる。
あたし、このまま帰っちゃダメかな?
「ユノさんですか? 遠慮しないで入ってきてくださいねー」
聞いたことのない声がする。一応、女性の声だけど。
おどおどしながら、あたしはもう一回、ドアを開けてみた。
さっき見えたの、見間違いじゃなかったみたい。
部屋の中は布だらけ。つい数日前まで戦争してたのに、どこから集めたの? ってくらい、たっぷりの布。色も、いろんな色がある。
……ホント、こんなにたっくさん、どっから集めてきたんだろ?
「初めましてー。私、針子のドリスです」
クリクリした、薄茶の大きな目。サラサラしてて長めの髪の毛。色からすると、マーハルニーファの人だね。年齢は……多分、エレンさんより上かも。
それにしても、お針子さんかぁ……器用なんだね。あたし、裁縫は苦手だからさぁ。いっつも母さんに頼んでやってもらってるんだ。
女の子としては、できた方がいいのはわかってんだけど……ほら、向き不向きってあるじゃん? あ、料理はできるよ! 掃除も洗濯もできるし! ホントにダメなのは裁縫関係だけだから!
「これからいろいろ作るんで、ユノさんの体型も把握させてくださいね!」
「へ?」
言った瞬間、ドリスがあたしの革鎧を外しにかかった。しかも早い。つーか、メッチャ手慣れてる。
あっという間に鎧と剣が外されちゃって、今度は服を脱がされた。
「やっ……ちょっ!」
ハッと我に返って抵抗してみたけど、無駄。何ていうか、抵抗の意味がない。
「じゃあ、あちこち長さを測るので、ちょっと大人しくしててくださいね。動くと長引きますよー」
その言葉で、あたしは動くのを頑張ってやめてみた。
腕の長さっていっても、肩から肘までと、肘から手首までとか、細かいの。背中の幅も測ってたし、首の後ろから腰までとか、足の長さとか。いろいろ、ホントいろいろ測られた。
胸の辺りで、ちょっと泣きたくなったよ!
「はい、終わりましたよー」
それ聞いても、あたしはぐったりしてて、何か動きたくなくって。
あー、でも、服は着ないとダメだよね……一応お年頃ってやつだし。さすがに、下着姿でその辺に転がるわけにいかないっしょ。
この状況で、女の子とか女の人とか、イハ兄くらいならまだしも、万一、男の人が入ってくるかもしれないしね。
のそのそと服を拾って、とりあえずワンピースを着る。短いズボンを履いて、革鎧に手を伸ばしたところで。
トントン、とドアが叩かれた。
「どうぞー」
ドリスってば、あたしを確認しないで返事したよ! あのままダラダラしてたら、絶対ヤバかったよね?
「失礼しま……」
ほんのちょこっとドアを開けた将軍と、バッチリ目が合う。合ったと思ったとたんに、ドアがバタンって閉まった。
あっぶなー。下着姿、将軍に見られるとこだったよ。
「服はもう着てるし、別に入っても大丈夫だけど?」
まだだったのは、鎧だから。服だけは、ちゃんと全部着てたから!
恐る恐るって感じでドアを開けて、将軍がそろっと入ってきた。あたしを見て、ホッとため息をつく。
あ、また私服の将軍だ。
「服は確認して返事をしてるから、ヴァージル様は安心して入って来ていいんですよ」
「……ドリスさんは、信用なりません」
「あら、まだ昔のことを根に持っているんですね」
「おかげで、初めてドナに食いつかれそうになりましたからね。忘れたくとも、忘れられませんよ」
将軍が、初めて、ドナに食いつかれそうに? それってさ、つまり……。
「ひょっとして、ひょっとしてだよ? 将軍って、エレンさんが着替えてる途中で入っちゃったの?」
元々そんなによく思われてなかったはずなのに、それ? そりゃあ、敵視されるかも。
あたしも、ベネットにそういうことされたら、絶対許さないだろうし。あたしもだけど、父さんがね。
「ドリスさんのだまし討ちですね。あれは……十年以上前でしたか?」
「そうですねぇ……ヴァージル様が、まだあどけない従騎士でしたから、十年は昔の話でしょうね」
あ、あどけない将軍? 何か、全然想像できないんだけど……。
ってかさ、十年以上前の将軍も知ってるドリスって、いったいいくつなわけ?
「エレン様の強烈な殺気もさることながら、まったく動じていないヴァージル様も見物でしたね」
「いえ、さすがに、あの殺気には少しばかり……」
わかった。将軍がエレンさんを怖がってるの、その殺気が理由だね! 本気で殺す気のエレンさんに遭遇したら、あたしも夢でうなされそうだし。
げんなりしてる将軍を横目で見つつ、あたしはササッと革鎧を身につける。剣もちゃーんと忘れずに装備完了!
「ユノさん、終わったら宿舎まで送りますから、待っていてください」
「えっ、ホント? やった! これで迷子にならないで済むよ!」
迷子にならないっていいよね。時間、無駄にならないし。
ってことで、近くの椅子にちょいと座って。よし、準備万端!
「……では、ヴァージル様、始めましょうか」
「え、あの……ユ、ユノさん、このまま、見るのですか?」
「将軍が嫌じゃないなら、ここでいいよー。あ、下着脱がないよね? 脱ぐんだったら出てくけど。父さんとかお兄ちゃんたち、しょっちゅう下着でウロウロするからさぁー。下着姿なら平気だよ」
そのくらいだったら、他人だけど、多分全然動じない。イハル兄も、出てくまでよくやってたし。もう見慣れてるし。
「では、ユノさん、ごゆっくりどうぞ。さあ、ヴァージル様、脱いでください」
脱げって言ったくせに、ドリスってば、脱がしにかかってるんだけど。




