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闇の魔法がドンと落ちて、そこに他の魔道士たちが、風とか炎とか雷を叩き込む。
ぶっちゃけ単調作業だけど、城郭の上の敵は、ほとんどいなくなった。
何となーく、何となくだけど、エミールがかなりやっちゃった気がしてる。多分、魔力空っぽで帰ってくるよ、あの子。
で、空から魔法が降ってこなくなったら、あたしたちの出番。ふっとい丸太で、門の閂を力任せに壊すって寸法。
最初は、魔道士にやってもらうってのも、考えてたんだって。んでもさ、魔道士には、上の敵に集中して欲しいじゃん? 余力があったら、街ん中でも頑張って欲しいってのが、やっぱあるし。
ってことで、門は魔道士以外で頑張るってことになってる。……ううん、なってた。
いざ、壊そうってとこに、上からドスンとドナが下りてきて。そこから、エレンさんに抱えられたグレースが、ふわっと下りて。
「グレース!」
イハル兄が呼んだら、グレースはちょこっと振り向いて、ふんわり笑った。
すぐにグレースは門を向いて、右肘を軽く曲げて、手のひらを空に向ける。一度キュッと握った手を開いて、ジッと見つめて。
「すべてを包む炎よ!」
うっそ、上級!? いつの間に!?
グレースの顔と変わんない大きさの炎が、ブワッて出てきた。それを、ひょいって感じで、門に向かって滑らせてく。
今度は右手を肩にグッと寄せた。
あたし、知ってる。あれ、風の魔法を使うための、準備なんだよ。いっつもエミールが、やってるから。
「すべてを切り裂く風よ!」
こっちも、上級なの? グレース、すごすぎ。
肩に寄せてた手を、グレースは門に向かって勢いよく振り払う。
先に門に向かってた炎に、足の速い風が追いついてぶつかって。
どっかーん!
ちょうど門の近くで、炎と風が混ざって大爆発。
「うっわ……すっごいね……」
門は粉々。木っ端微塵。煙だか埃だかの中に、チラチラ木片が飛んでるのが見えてる。
かろうじて残ってる蝶番は、結構大きい。その辺の門扉もちょこっと残ってて、やっぱ門扉はかなり分厚かったのがわかった。
あたしの人差し指と、どっちが長いかな? ってくらい、分厚そう。
……あんなのを、一撃でやっちゃうって……ホント、グレースって、すごいけど怖い。エミールとどっちが、って悩むくらい、メッチャ怖い。
あ、うん、普段のグレースは、可愛いよ? 怖くないよ?
でも今は、グレースのすごさに、敵も味方も、みんな固まってる。
「かかれ!」
父さんの声で、何かシャキッと目が覚めた気分になって。背筋が勝手にピンと伸びて。気がついたら、剣を抜いてて、足が前に出てた。
一番に街へ駆け込んだ父さんに、ちょっと遅れてあたしも飛び込む。
あたしの斜め後ろに、将軍。
他の隊とか騎士様たちも、どんどん流れ込んでくる。
シャラガラの街には、石造りの家がズラッと並ぶ。窓は大きくて、通りは整然としてて。でも、三角屋根の王都と違って、屋根がぺたんこ。その辺は、多分ガイルファラの影響。
ここは、両方が混ざった、独特な街並みなんだって。
「闇夜を切り裂く、月のごとく!」
いびつな三日月が、キラッと光って消えた。前にいた帝国兵が五人くらい、いっぺんに吹っ飛んだ。
さっすが、父さんの奥義だね。
でも、帝国兵は怯まない。吹っ飛んだ仲間をギュッと踏みつけて、こっちに来る。
あたしの左から、フラッと一人。
「夜空に瞬く、星のごとくぅ!」
軽く剣を握り直して、そいつに向かって剣を何度も突き出す。最後の一撃で、吹き飛ばして終了!
すぐ後ろで、将軍も槍を振り回してる。奥の方の敵には、まだ魔力が残ってる魔道士が、竜に乗って攻撃してるっぽい。
そういえば、帝国側の魔道士って、どうしてるのかな? ひょっとして、みんな城郭にいて、死んじゃったの? それとも、国に引き上げてるとか? んー……これで負けたら終わりってわかってるし、引き上げるなんて選択肢、ないよね? やっぱ、片づけられちゃったのかな?
「夜空に瞬く、星のごとくぅ!」
上の方で剣のきらめきが見えたから、とっさに奥義を使ってみた。
うー、鎧って、やっぱ硬いよね。ちょっと、手が痛くなってきたんだけど。
「無理はしないようにしてくださいね」
左手で剣を持って、ブンブン手を振ってたからかな? 将軍が心配してくれた。
「へーきへーき。鎧が硬くって、ちょこっと手が痛くなっただけだから」
「手を痛めないよう、気をつけてください」
将軍に少し強い口調で言われるの、初めてかも。
そりゃあ、ちょっとくらいはびっくりするけど、嫌ってことはないね。何でだろ? 将軍だからかな?
フッと、敵が見えた。あたしの剣は、左手のまんま。
さすがにヤバいって焦った。で、持ち替えようとして、うっかり剣を落っことして。ますます慌ててたんだけど。
ガキン、ってすごい音がして、将軍の槍が相手の剣を叩き折ってた。そこに、父さんが奥義突っ込んできた。
「将軍、父さん、ありがと!」
「油断するな!」
父さんに叱られて、将軍には微笑まれて。……ってか、将軍って、こういう時に何で笑うんだろうね。やっぱ、二重に叱ってもしょうがないから、なごませるためとか?
……あたしってば、ひょっとして、メッチャ子供扱いされてる?
そんな調子で助けてもらいながら、バンバン奥義を使って、あたしは帝国兵を吹っ飛ばしてく。父さんも将軍も、すごい勢いでなぎ払ってる。
気がついたら、立ってる帝国兵はいなくなってた。
こっちにも、やっぱり被害は出てる。僧侶たちが一生懸命、ケガの治療してる人は無事。でも、そうじゃない人もいる。
「片がついたようですね」
「だね。まあ、完全無傷ってわけにはいかなかったけど……勝ったんだよね?」
「潜んでいる帝国兵がいないかを確認し、それからの勝利宣言でしょうね」
あ、そっか。まだ、確認しなきゃいけないんだっけ。
残兵処理して、死体を全部追い出して。それでやっと、勝ったって言えるんだね。
シャラガラの街の中を、隅々まで見て歩く。それこそ、絨毯をはがして地下室がないかとか、壁を叩いて隠し部屋はないかとか。埃だらけの天井裏まで、きっちり調べてみた。
そんだけやって、ホントに帝国兵がどこにもいないってわかって、やっと。誰からってわけじゃなくって、ワッて歓声が上がった。
そんでも、帝国側の城郭は、ボロボロでほとんど残ってない。国境の川と、帝国領へ続く石橋、それに、向こう岸に集まってる帝国兵が見える。
防衛って意味では、全然意味がないけど。
んでも、マーハルニーファから、一人残らず帝国兵を追い出した。それは、多分、すっごく大きい。
これから、王女様が女王として即位して、ここと王都の復興を最初にやるんだろうなぁ。んで、その後、国全体の復興。
父さんは、これからどうするんだろ。報酬もらって、またどっか行くのかな?




