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「おい、ユノ」

「んー? あれ、イハル(にぃ)じゃん。めっずらしー」

 あたしから話しかけることはあっても、イハル兄からなんて。

 えー? この辺ってかなりあったかいけど、明日、まさかのねぼすけ雪さん? あ、ねぼすけ雪さんって、あったかくなってから降る雪のこと。寝坊したみたいだからね。

 あたしと同じ、深い青みがかった黒髪に、黒い目。ちょっと目つきが悪いんだよね、イハル兄は。でも、モテるんだよね。半袖チュニックに、ズボンと軍靴。傭兵だから、硬い革製の胸当てとか手甲とか、いろいろつけてる。

 あと、他の人と違って、頭半分は背が高い。顔も、年相応に見える。イハル兄のお父さんが、マーハルニーファの人だからなんだって。

 何か、ずるいよね。

 十六なのに、十三くらい? って聞かれるあたしからしたら。ほとんど間違われないってだけで、イハル兄は十分ずるい。

「セイガさんが行方不明らしいんだが、どこに行った?」

「父さんが? どうせ、どっかで昼寝してるよ。この辺あったかいから」

「そうきたか……セイガさんがいないと軍議が始められないと、アルヴィン様とエレンから苦情が来たんだが」

「探してこよっか? いそうな場所、いくつか知ってるし」

「頼む。もちろん、俺も探すは探すが」

 たまーにあるんだよね、父さん。ちょっと休憩するつもりで、うっかり寝ちゃうこと。

 ホントは母さんが一番よく知ってるんだけど、しょうがない。

 あたしはのんびりと、足を森の端へ向けた。

 解放軍結成から、そろそろ三ヶ月。帝国軍との戦いは、一進一退で、すっかり膠着状態になってる。犠牲は多くないけど、動きもあんまりない。

 だから、解放軍への志願者も減ってるし、士気も、あたしがわかるくらい下がってる。

 ここらで、どかんと一発、大きなことをしてみる。もしくは、敵にも民衆にもわかりやすい、成果をあげてみる。そのくらいしか、変化は期待できない。

 ……あれ?

 木の向こうに、人影が見える。

 髪の毛、縛ってるっぽいし、多分長いよね。女の子かな? 髪の毛、金色っぽいけど、どこの人だろ? っていうか、何であんなとこにいるの? こっち見てるし、ひょっとして敵の偵察!?

 あ、でも、ホントに偵察だったら、警戒させるとヤバいよね? どうしよう……んー、悩んでもしょうがないか。あっちが一人なら、あたしでもどうにかできるっしょ。ちゃんと剣持ってきたし。

 あたしはポンポンと、腰の剣を叩いて確認する。

「ねね、こんなとこで何してんの?」

 声をかけたら、その子は跳び上がって驚いた。ホントに、ぴょんって跳び上がった。人間、死にそうなくらい驚いたら、ホントに跳ぶんだね。

「解放軍に差し入れ? ……じゃないよね。手ぶらだし」

 驚かせたついでに、ズバッと聞いてみる。

 あたしはわざとらしく、ちょいと肩をすくめてみた。

 ビクビクしながら振り向いた子は、初夏の葉っぱみたいな色の目をぱちくりさせてる。綺麗な顔で、あたしより年上に見える……から、同い年か、下手すると年下かも。

 ──はかなげで、可憐な美少女。

 きっと、エレンさんならそう言う。絶対言う。賭けてもいい。

 見たところ、剣は持ってない。っていうか、持てそうにないくらい、腕がほっそい。体も全体的にほっそりしてて、まさに華奢って感じ。

 あーでも、出るとこは出てる……う、羨ましい!

「武器は持ってないみたいだし、杖もないから、僧侶(クレールス)じゃないよね? あー、魔道士(プラエカンタートル)かな? 何か、エミールっぽい雰囲気あるし」

 あたしが知ってる魔道士は、エミールだけ。あたしと同じ隊にいる、あたしより年下の魔道士。超がつくくらい優秀だけど、すっごい変わり者。正直、あの子と気が合う人がいたら、ぜひとも見てみたいってくらい。

 メアンラーエの出身だから、赤の強い赤茶の髪なんだよね。いるだけで目立つから、いっつもフードつきのマント、かぶってばっかだけど。

「魔道士だったら、魔法が使えるよね? 何が得意? 風? (いかずち)? 見た目に合わないけど、炎とか? うちのエミールは、風が好きなんだって」

「あ、あの……」

 うっわ、声も可愛い! か弱そうな見た目に、すっごいピッタリ!

 天は二物を与えず、とか言うけどさ。いっぱい与えられてる人も、やっぱりいるんだよね。エレンさんも、ちょっと変だけど、美人で強いし。

 おどおどと、その子は左手を胸に当てる。右手が、左手を覆い隠した。手から足から、プルプル震えてる。

 そんな仕草も、可愛くて似合う。

「あれ? でも、指輪してないね」

 エミールはつけてる。メアンラーエの魔道士は、指輪が魔道士の証なんだって。それがないと、魔道士って認められないからって。

「やっぱ魔道士じゃないってこと? 杖を忘れてきた、うっかり者の僧侶? それともやっぱり、忘れてきただけで、差し入れしようと思ってただけ?」

 偵察に来たって感じじゃない。でも、差し入れでもなさそう。杖を忘れるくらい、粗忽な子には見えないし……指輪を外してるだけの魔道士が、一番濃厚かなぁ?

「あの! 私は、解放軍に参加させていただきたく参りました。魔道士のグレースと言います!」

 あー、びっくりした。

 なーんだ。おっきい声、出せるんじゃん。

「魔道士なんだ? 遠距離できる人少ないから、ありがたいんだろうけど……あたし、魔道士の力量がはかれないんだよねー。剣とか槍とか斧とか、武器だったらわかるんだけどさー。うーん、父さん……は探してるとこだし、エミールはお昼寝中だろうから、起こすとホント怖いし……他っていうと……」

 っていうか、魔道士同士か、父さんくらいしか、魔道士の強さがわかりそうな人、あたしにはわかんない。

 ホント、誰かいないかな?

 んー、エレンさんとか、どうなんだろ? でも、王女様の天幕行くの、緊張するし。これから軍議だし。

 あたしは腕を組んで、空を見上げる。

 あー、ホント、真っ青な空って、気持ちいいよね。ぜーんぶ、何もかも、投げ出したくなっちゃう。


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