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無事に陣営に戻って、あたしと将軍は、王女様に街で聞いた話を全部伝えた。
公開処刑に関すること。やっぱり出てた、王女様が王女様じゃないって噂。ただ、不幸中の幸いってのかな? 解放軍が略奪とかしてるって話は、出てないみたい。
「……そう。公開処刑に関しては、これから会議をして手を打ちます。できれば、正確な日時が知りたいところだけれど……今度は、エレンが街へ行ってくれる? 女の子を片っ端からつかまえて、さりげなく聞いてちょうだい」
ああ、それ、メッチャ適任だね。
ってか、エレンさん、役得じゃない?
「でも、解放軍の悪い噂がないことは、素直に嬉しいわ」
ニッコリ笑って、そう締めくくって。あたしはそこで、王女様の天幕から逃げた。何か、空気が変だったし。
「ユノ、王女殿下から聞いたぞ。よくやった!」
一番の問題だった、父さんのゲンコツ。持って帰ってきた情報がかなりよかったらしくって、むしろ頭をグリグリなでられた。
正直、そんなの初めてで、あたしは逆に顔が引きつったくらい。
夕食も終わって、ちょっとの空き時間。日が暮れちゃう前は、グレースは魔法の練習をしてるんだって。んで、リディはかるーく哨戒してるっぽい。
だから、暗くなってから、お土産持参でイハル兄の天幕に遊びに行った。
イハル兄は、緊急招集の軍議だって。多分、公開処刑に関してだね。
天幕を独占して、あたしは手土産をどーんと広げてみた。あの焼き菓子も、フワッフワのお菓子も。いろんな色のついた、甘ーい砂糖菓子も。ぜーんぶ残らず、天幕いっぱいに店開き。
「へぇ……いろいろあるのね」
「あ……これ、おいしそうですね」
グレースは、色つきの砂糖菓子に興味があるみたい。
それ、星みたいな形でおいしそうだよね! でも。
「あたしのおすすめはこれ。メッチャ甘いけど、フワッフワなんだよ!」
十個買って、将軍が顔を引きつらせたあれ。
一個ずつ、リディとグレースの手に載っけて。あたしも一個、そーっとつまむ。
「わぁ……本当にフワフワしてますね!」
「何コレ? こんなのがあるのね」
グレースもリディも、バッチリ驚いてる! ふふっ、大成功!
だけど、ホントの驚きは、これを食べてからだよね。
「ねね、食べてみて?」
言いながら、あたしが真っ先にかじりつく。
くーっ、この甘さ! 何か、癖になりそうだよ。
恐る恐るって感じで、グレースがちょこっとかじる。リディは豪快に、ひと口で全部放り込んだ。……リディ、怖いもの知らずだなぁ。
「……とても、甘いですね。ああっ、リディさん、大丈夫ですか?」
一気に食べ過ぎて、リディがゲホゴホむせてる。グレースはちょこっとだったから、そうでもなかったみたい。慌てて、リディの背中をさすってる。
こういうの、性格出るよね。
やっぱ、グレースって慎重なんだ。で、リディは割と考えなし。
早く、イハル兄にも食べさせてみたいなぁ。どうやって食べるんだろ?
「甘いっしょ? あたしも最初食べた時、甘すぎて死ぬかと思ったんだー」
「……だったら、予告くらい、しておくべきじゃなぁい?」
目の前がグラグラして、お菓子がグニャッて曲がってクネクネして見える。
お菓子をつぶさないように、あたし頑張った! ちょーっとギリギリだったけど、頑張ったよ!
グレースも、頑張ったっぽい。バタッて倒れてるけど、お菓子から離れてるし。
「まったく。喉が渇いちゃったわ」
けろっとした顔で、リディは水筒を出して飲んでる。
重たいもんがなくなったけど、すぐには立ち直れないんだよ、これ! ホント、はた迷惑な特技なんだから!
あーあ。この状況でイハル兄が来たら、あたしとリディ、どっちがお説教されるんだろ……。
「でも、本当に甘くて、おいしいですよね。この辺りにしかないものなのでしょうか?」
「さあ、どうだろ……エレンさんとかだったら、案外知ってるかもね。あたしは、街の売りもんには、そんなに興味なかったし」
まずくなきゃ、別に苦痛じゃないし。食べられれば、お腹空いて死ぬこともないし。
そんでいいじゃん?
そりゃあ、もちろん、おいしい方がいいけどね!
「気に入ったならさ、エレンさんに買ってきてって頼んだら? 今度、同じ街、行くみたいだし」
王女様公認で、ナンパしに行くみたいなもんだけど。
んでも、ま、グレースの頼みだったら、多分喜んで聞いてくれるっしょ。
「エレンさんっていえば、この間のあれ。意外なんだけど、噂にはなってないわね」
「あれって?」
まーた何かやったのかな?
「王女殿下と居残り騎士の前で、グレースに堂々とプロポーズしたの」
「……あー。それはむしろ、噂になんない。つーかそれ、王女様や父さんたちの前で、あたしもやられたし」
でも、その話、聞いた人以外、きっと知らないんじゃないかな? 将軍、同じ時に言われた鼻血のことも、全然知らなかったみたいだし。
「ほら、エレンさんだからさ。本気なんだか、社交辞令なんだか、煽ってんだか、よくわかんないじゃん?」
「……まあ、そうね。ちなみに隊長は、煽られたみたいよ」
「へー……よかったね、イハル兄は煽られた方で。あたし、どう見ても、超本気で言われたんだけど」
うっかり頷いてたら、その足でメッチャ高そうな婚約指輪買ってきて、渡されそうな勢いだったもん。
ハッて気がついたら、いつの間にか、ドナに乗って優雅な新婚旅行の計画を語られてたし。
とにかく軽くって、冗談だよー、みたいなノリの言い方だけど。目は、本気だった。
「あ、でも、エレンさんのお気持ちは何となくわかります。ユノさん、可愛らしくて、そばにいるだけで元気になれそうで、私も、ユノさんが大好きです」
胸の前で、左の拳に右手を重ねて、ちょこっと首傾けて。ちょびっと顔を赤くして、そんなこと言われるとさぁ。
「あたしも、グレース大好き! 綺麗で可愛くって、胸とか女の子らしくって、メッチャ羨ましい!」
本音、ぶちまけたくなるじゃん?
思わず、グレースをギュッとしてみた。そしたら、ギュッて返してくれた。追加で、リディがあたしたちをギューッてしてきて。
あー、何か、すっごく平和でいいよね。




