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んでも、止まった今は、体をずらして前が見える。
ちょっと……ううん、だいぶ引くほど、女の子がいっぱい。そんな広くない道だけどさ、全員でみっちりふさいでるよ。
みんな顔が赤いから、目的は何となーく、わかんなくもないけど。よく、イハル兄がこういうことされてたし。
「……道を空けてもらえますか?」
うっわ……メッチャ冷ややかな声。今まで、将軍のこんな声、聞いたことないってくらい、つっめたいの。
正直、同じことされた時のイハル兄より、冷たいかも。
「……ヴァージル将軍、ですよね?」
へぇ……将軍、有名なんだ。
ってか、当たり前だよね。顔は結構カッコイイし、だいたいいっつも先陣切ってるし、一人だけ馬が違うし。
まあ、普通にしてたら、ちょっと騎士様には見えないけど。
いきなり、将軍の左手が、あたしの手をギュッて握った。叫ぶほど痛くはないけど、でも、ちょっと痛い。
ひょっとして、強行突破の可能性があるかも?
あたしは大事なお土産とおやつが入った荷袋の紐を、しっかり握り締める。
「もう一度言います。道を空けてください」
あ、三度目はないね。そういう言い方っていうか、そういう声。
でもさ、将軍の向こうの子たち、わかってないね。うんと頑張って粘ったらいける、とか思ってそうな顔してるし。
戦場を駆けてる身としては、将軍のこの声聞いたら、退くよ。絶対、退く。だって、基本、ただの傭兵だし。
この命を捧げてもいいって主がいるんじゃない限り、死にたくないもん。
「……あのさぁ、あたしは、もっとちゃーんとわかりやすく、ビシッと言った方がいいと思うけど? メッチャ邪魔。死にたくなかったらどけ。って感じでさ」
「さすがに、ただの市民の命は奪いませんが……」
「戦場だったら、遠慮しないっしょ? 街だろうが何だろうが、別に変わんないじゃん? あ、ってかさ、剣持ってないじゃん!」
「単なる市民に、武器は振るえませんよ」
あー、うん、そうだよね。戦場だから、敵が相手だから、武器持って戦うんだもんね。
本来守るべき存在を傷つけるのが、あたしたちの仕事じゃないし。
ってか、王女様が「力は守るためのもの」って言ってんだから、それに反しちゃダメだよね!
んでも、こうやって邪魔されんの、やっぱいい気はしないよ。ちゃちゃっとどけばいいのに、いつまで頑張ってんだろ?
「というわけで、駆け抜けます!」
返事はしないで、あたしはポンと前に足を踏み出した。でも、将軍もほぼ同時に、大きく一歩踏み出してて。
あたしは、またグイッと引っ張られる。ちょっとだけ、足がもつれて転びそうな感じ。
びっくりした顔の女の子たちは、慌ててササッと道を空けた。
ってか、できるんだったら、さっさとやってくれたらいいのに。そしたらあたし、走らなくてよかったじゃん?
まあ、走った衝撃で粉々になるとか、壊れそうなおやつ、買ってないけど。
もうちょっとで、女の子の壁を抜けれる。その瞬間に、あたしのおやつが引っ張られた。
「ちょっ! あたしのおやつ!」
将軍と、おやつと。両方にググッと引っ張られてる。
袋をつかまれたら、あのフワッフワのお菓子とか、焼き菓子とか、絶対つぶれちゃうって!
あたしとしては、将軍に手を離して欲しい。そしたら、『セイ』使ってでも、おやつは自力で取り返すから。
あ、この子たち、普通の人だよね? 素手だけど、さすがに『セイ』はまずいかなぁ?
……なーんか、あったま来た。
将軍に用があんなら、ちゃんとそう言えばいいじゃん? 何であたしまで巻き込んで、しかもあたしのおやつ!
「あーもう! あんたたち、何考えてるわけ? 自分たちんとこから帝国兵がいなくなったら、それで戦争が終わったつもりでいんの? 終わってるわけないじゃん! 解放軍がいなくなったら、またここも帝国兵に襲われんのに、ホント、何考えてんの? つーか、あたしのおやつから手、離して。今すぐ離して!」
解放軍とは無縁の、子供。そんな振り、もう無理だから。
だって、あたしの大事なおやつだし!
「これはあたしが戦場を駆けて、この手で人を殺して、そうして手に入れたお金で買ったの! あんたたちが勝手に触っていいもんじゃない!」
荷袋を握ってた女の子二人が、怖ず怖ずって感じで手を離した。ブン、と振られた荷袋を、あたしはがっちり受け止める。
思わず将軍の手も振り払って、あたしは急いで中身を確認してみた。ガッと手を突っ込んで、でもそっと、上にある軽いお菓子をどかして。
フワッフワがフワッフワだった。焼き菓子も、そんなに割れてない。まあ、ちょこっとくらいはしょうがないよね。そこは、しょうがないから我慢する。
「はー、よかった。心配だったお菓子、まあまあ無事だぁ……」
「……本当にあなたは、菓子が好きなんですね」
「うん。まあ、おいしいものなら何でも好きだけど、甘いものは格別っしょ!」
お菓子は無事だったし、これで何も思い残すことなく、陣営に帰れるね。
あ! 急がないと、夕食の時間に遅れちゃう。せっかくの情報も、父さんのゲンコツ食らったら割に合わないし。
「将軍、急ご! あたし、父さんのゲンコツ食らうの嫌だよ」
「……それは、痛そうですね。急ぎましょうか」
周りが目をパチパチさせて、メッチャ呆然としてる中。あたしと将軍は、バタバタと大急ぎで街を飛び出した。




