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 おいしい焼き菓子を売ってたおじさんに、あたしは全力で左手を振ってお別れ。右手は、無言の将軍にグイグイ引っ張られてる。

 引っ張られてるけど、甘そうなものが見えて、逆にあたしが引っ張った。

「あれ、グレースとリディに買って帰りたい!」

 せっかく街に来たんだし、いつも遊んでるし、お土産くらい買ってかなきゃ。

 それに、グレースはよく知らないけど、リディも甘いもの好きだし。グレースがダメだったら、リディが食べるっしょ。

 あー、ついでに、イハル(にぃ)も食べるかな? あれで、イハル兄、甘いの好きだし。

「とりあえず、一個ください!」

 あたしは左手でお金を出して、左手に載っけてもらう。

 試食は大事だよね、うん。いまいちなもの、知らないであげるなんて、やっぱできないよね。

 ってか、しちゃダメだよね、うん。

 触った感じは、すっごくフワフワしてる。空に浮いてる雲、あれをつついたら、こんな感じかも。そう思うくらい、フワッフワ。

 大きさは、あたしの手のひらの半分くらい。厚みは、握り拳よりちょっと薄いくらいかな?

「いっただっきまーす!」

 とりあえず半分。ガブッとひと口で食べてみる。

 外は茶色だったけど、中身は薄い黄色。分厚いけど、中に何も入ってなかった。

「うっわ!」

 んでも、メッチャ甘い! っていうか、甘いってもんじゃなくって。何ていうか、蜂蜜を煮詰めたみたいな、こってりしてて、喉に絡まる甘さなわけ。

 これは、さすがにリディでも嫌がるかも。こんな甘いの、初めて食べたよ!

「……大丈夫ですか?」

 将軍に心配された。そんなにあたし、すごい顔してたの? つーか、将軍がグッと眉寄せるような顔って、どんだけひどいの?

「これ、すっごいあっまいの! ちょっとびっくりしただけだから、大丈夫!」

「そうだろ? くどい甘さが自慢の一品なんだぜっ!」

「あははっ、それが自慢なの? あーでも、そうかも。こんなの、他にないよね!」

 残りの半分を、ポイッと口の中に放り込む。

 確かにくどいけど、でも、そんなに後には引かない。二口目からだったら、意外と普通にいけるかも!

 お土産にするかは保留して、あたしが食べる用に買ってみようっと。もちろん、リディたちに試食してもらう分も考えて……。

「よーし、十個ください!」

 将軍が、ヒッて顔して息を呑んだ。お店のお兄さんも、何か変な顔してる。

 まったくもって失礼な。

 みんなに配ったら、よくて半分くらいしか残んない予定だし。あたしのお金だし。別に、どんだけ買ったっていいじゃん?

 まあ、こんな感じで、あたしはいろんなお店でお菓子とか買ってみた。結構な量になって、両手がふさがっちゃってて。最後の方のお店で心配されて、荷袋もらっちゃった。

 ちょっといっぱい買いすぎて、お財布はすっからかんに近くって軽いけどね!

 んでも、将軍のお金は借りなかったよ。ちゃんと全部、あたしのお金。

「そろそろ、帰りますか?」

「あ、そうだね。夕食の時間、過ぎると怒られるかも」

 背中にしょった幸せの重みが、ホント最高! もう、ほっぺたが勝手にゆるんじゃうくらい、嬉しくてしょうがないんだけど。

「よければ、荷物をお持ちしますよ」

「ダメ。これはあたしが持つの。そうじゃなきゃ、食べる資格ないもん」

 ギュッと紐を握ったら、将軍に笑われた。

 あ、うん、別に、取られるって思ったわけじゃなくて。人に持たせるくらいなら、こんなに買わないって意思表示。ただそんだけ。

 街の出口に、体の向きを変えたとたん。何か、ゾワッとした。

 こう、冬の寒さに身震いするような寒気じゃなくって。うん、あたしの苦手な系統に遭遇したみたいな、いやーな感じの背筋ゾワゾワ。

 最初に感じた、嫌な気配っていうか、不穏な空気っていうか。あっちのが、まだマシ。

 チラッと将軍を見てみたけど、将軍は平気そう。

「……ねね、何か、変じゃない?」

 コソッと、ちっちゃな声で聞いてみたけど、やっぱり将軍はわかんないみたい。ちょっと首傾げて、不思議そうにしてる。

 あたしだけって、それこそ変じゃない?

 それとも、あたしが病気? ……うっそ、元気で風邪知らずってのが、あたしの自慢だったのに!

「気になるのでしたら、確かめていきますか?」

「……んー、まあいいや。どーせ、ここにはもう、来ないかもしれないし」

 来たら来たで、また考えるよ。

 あんまり質問攻めばっかしてたから、そのせいかもしんないし。

「そうですか」

 つかまれてる右手が、ギュッてなった。さっきより、ずいぶん勢いよく引っ張られてる気がする。

「……し……お兄ちゃん?」

 あっぶな! もうちょっとで、あたし、将軍って呼ぶとこだった!

「何だか嫌な予感がするので、早く出ましょう」

「へ? まあ、いいけど……」

 グイグイ引っ張られるまま、あたしは出口に急ぐ。

 もうちょっとで、街から出られる。そんなとこに来て、将軍がいきなり止まった。あたしは豪快に、将軍の背中に顔から突っ込む。

 痛い、鼻がメッチャ痛い。

 せめてさぁ、止まるにしたって、予告くらい欲しいんだけど。

 引っ張られてると、将軍の背中で何も見えないし。将軍の前なんて、もっと見えないんだからさぁ。

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