26
王女様が来て欲しいって思ってる時は、エレンさんと将軍が並んで迎えに来る。もう、それだけで結構怖い。
だって、二人とも、すっごい真顔で来るし。空気、凍ってるし。
お迎えが来ない時は、あたしはイハル兄の天幕に遊びに行ってる。まあ、たまに、そこにお迎えが来るんだけどね。
で、あたしが行こうとすると、何でか、リアムとベネットがくっついてくる。んでも、グレースがガタガタするから、結局追い返すわけで。
面倒だから、正直、二人にはくっついて来ないで欲しいんだけど。
ちなみに、イハル兄がいる時は、一応いてもいいってことになってる。なってるけど、最近、軍議が多いからね。
父さんやユウガ兄、イハル兄が言うには、やっと解放軍の全体が掌握できたんだって。んでもって、いくつかの隊で帝国兵をかるーく襲撃してみたり、してるらしい。で、そうなると、他の隊長に雑用とか、回ってくるらしくって。
そんなこんなで、父さんたちは忙しいみたい。
だから、あたしにくっついてきたベネットが、運よく居残れた回数ってさ。実は、たった一回だけ。あとは全部、あたしとリディで追い返した。
まあ、そんな調子だからさ。
「……俺はさ、不公平だと、思うんだよ」
ベネットが走りながら言っちゃう気持ちも、わかんなくはない。
でもさぁ。今は、陣営の近くにいきなりひょいって現れた、帝国兵の集団を追ってるわけ。
イハル兄が、ベネットをチラッと見て、すぐにそっぽ向いた気持ちも、何となくわかる。
ベネットってさ、たまに暑苦しいもん。
「何がどう不公平なのか、俺にはさっぱりわからん」
吐き捨てるみたいに、イハル兄が言う。
んー、何か、イハル兄の機嫌、悪い気がする。あー、でも、そっか。毎回毎回、ベネットがあたしにくっついてくるからかな?
あれ、鬱陶しいし、やっぱいい気しないよね。
「だいたいお前、竜騎士だろうが。竜はどうした、竜は」
「隊長から、出さない許可は、もらってるって」
ベネットの竜って、主に似て意地汚い竜なんだよね。変なもん拾い食いしたらしくって、今日は朝からぐったりして、全然元気なくって。
出さないっていうか、あれじゃ出せない。
しょうがないから、エレンさんに看病を任せてるらしいよ。
「そんなことより、なーんでイハルだけへっちゃらで、俺はダメなのかってこと以外に、不公平があるかよ!」
「……何の話だ?」
ああ、うん、ベネットって、たまにバカだよね。
だいたいさぁ、イハル兄相手に、重要な名前省いて言っても、無駄だって。基本的に、これっぽっちも察してくんない人だし。
「グレースだよ、グレース! ユノなんか、毎日会いに行ってオッケーだし、帰ってきたら、今日も可愛かったとか言うしさ! 何で俺だけ!」
「グレースが可愛いの、ホントじゃん? ベネットってば、何バカなこと言ってんの?」
「そんなくだらんこと、本人に直接聞けばいいだろうが」
「お前らじゃあるまいし、んなこと堂々と聞けるか!」
あたしだけじゃなくって、イハル兄にも、ばっさり切り捨てられてんじゃん。
つーか、イハル兄がいるから、そこに本人もいるんだけど? 多分、聞こえてるよ、これ。
ちょっと後ろ振り返ったら、グレースが困った顔してた。
あれ? でも、ベネットの話、ひと言も聞いてないと思う。何か、違うことに気を取られてるって顔。
「あ、あの……イハルさん」
恐る恐るって感じで、グレースが口を挟む。
不安げに眉をギュッて寄せてさ。もう、ホント、絶対守んなきゃって気になるよね。
グレースの後ろにいるリディが、顎と指でクイッと前を指指してる。イハル兄と一緒になって、あたしも前を見たら。
……あれ?
見かけた帝国兵が騎馬で、中隊くらいの人数がいたらしいんだけど。本陣の護衛と、周囲の警戒に半分くらい残して、残りはみんなこっち。
歩兵は置いてかれるの前提で、竜騎士の道案内を頼りに走る。そういう話だったはず。
……何で、騎士様たちが見えてんの?
もう、本陣からは結構離れてる。とっくに、竜騎士頼みになっててもおかしくない。そのくらいは、走ってるはず。
「動きがおかしいと、思いませんか?」
「……少し待て」
グレースがいること、思い出したんだろうね。ベネットが気まずそうに黙り込んだとこで、イハル兄は遠慮なく、じっくり前を見る。
ついでにあたしも、ちゃんと見てみた。
うん、間違いなく、騎士様たちが見える。しかも、先陣を切ったはずの将軍も、見えてるんだけど。
「……おい、ユノ、ベネット。セイガさんに、俺の隊は本陣に戻ると伝えてくれ」
「りょーかい。イハル兄、任せたよ!」
「はぁ? あ、おいっ!」
言うなり、イハル兄は、グレースの手をグイッて引っ張った。流れから外れて、来た道を戻ってく。リディたちも、ちゃーんと後をくっついてってる。
うん、グレースがいるし、エレンさんも残ってるし、多分あっちは大丈夫。
あたしはちょちょい、と前に出て、父さんにコソッと耳打ち。
「父さん、イハル兄の隊、本陣に戻ったから」
「そうか……では、敵に気づかれぬよう、全力で追うとするか」
ニッと笑った父さんに、あたしもにんまり笑ってみせた。




