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残念なことに、リアムとベネットは先に帰っちゃった。
んで、あたしは、グレースとリディを無事にイハル兄に引き渡して。今は、相変わらず無口な将軍と、並んで歩いてるわけで。
エレンさんの話題は、よくない。そのくらいはあたしにもわかってる。かといって、イハル兄の話ってのも変だし。
そんなこんなで、お互いに黙ったまま、トコトコ歩いてるんだけど。
メッチャ静かなこの時間って、やっぱ拷問だよね。
「……あ、そうじゃん」
あたし今、いいこと思いついた。
他人の話題じゃなくって、将軍のこと、聞いてみればいいんじゃない? そしたら、将軍がどういう人か、わかる気がするし。
そういえば、さっき、エレンさんと地面の上で、槍でやり合うとか言ってたよね。どっちが勝つんだろ? その辺も、ちょっと聞いてみたいかも。
「……あの」
「将軍ってさ」
話しかけた瞬間、将軍の声が聞こえた。
思わず言葉を止めて、足もついでに止めて。ジーッと見上げてみる。
「何か言うなら、どーぞ。あたしが先だと、将軍は話せないかもだよ?」
「あ、いえ。どうぞ、話してください」
相変わらず真顔だし。何考えてんのか、ちっとも読めないし。
あー、でも、何となく、言いかけたこと、聞いていい気がする。そんな雰囲気ってあるじゃん? そーゆー感じ。
「じゃ、遠慮なく聞いちゃうけど。将軍ってさ、エレンさんと訓練するんでしょ? どっちが勝つの?」
いつもの冷ややかな目をされるかも、って思ったけど。別にそんなことなかった。
「武器などの条件もありますから、その日によって違いますが、そうですね……だいたい、五分五分といったところでしょうか」
「へぇ……将軍って強いなぁって思ってたけど、エレンさんもやっぱ強いんだぁ……」
あたしは、力も体力も全然足りてないから。正直、強い人が羨ましい。
まあ、とりあえず、体力をつけろ、って言われてるけどね。
「強い……でしょうか?」
「十分強いと思うよ? あたし、何度か助けてもらってるし」
あ、そうそう。
「そういや、雷の魔法に直撃食らうとこも、将軍に助けてもらったんだよね。おかげで命拾いしたし、他にもたっくさん助けてもらったし」
父さんからは、軍議の結果を聞くだけだったからさ。どんな人が軍議に参加してるとか、聞いたことなくって。
実はあたし、将軍が総指揮官ってことは、一応知ってたんだけど。誰が将軍かって、知らなかったんだよね。興味もなかったし。
そういう意味では、この人が将軍って知って、ちょっと興味はある。
どんな人で、何考えてんのかとか。どういう戦い方するのかとか。その辺は、知りたいって思う。
「ホント、いっつも助けてくれて、ありがとね!」
……将軍ってば、ぽかーんとしてる。
何か、いっつも、あたしがお礼言うとそんな顔するよね。あたしがお礼言うのって、そんなに意外なわけ? お礼も言えない子に見えるわけ?
「……戦場で、その……仲間、を助けることは当然ですから」
「そうだけど、助けてもらったら、なるべくその場でお礼は言っとかないと。後で、って思ってるうちに、いなくなっちゃうかもしんないでしょ?」
敵と戦ってる以上、死ぬ可能性はゼロじゃないし。
さっき顔を合わせた人が、戦いが終わったらいなかった。なーんてこと、一回や二回じゃなかったし。
言っとけばよかった、なんて後悔、したくないもん。
「一応、将軍には、その場で言ってるつもりだけど……」
「はい。毎回、あなたからは『ありがとう』の言葉を受け取っていますよ」
「ホント? あー、よかった」
ホッとして、胸をなで下ろして。フッと将軍を見上げたら……笑ってるの。すっごい、穏やかで優しそうな顔で、ちょこっとだけ。ふわって感じで、笑ってて。
この人が将軍で、騎士様で、強い人だってこと、忘れそう。
そのくらい、鎧とか武器とか、不似合いな笑顔でさ。
「……将軍ってさ、戦場が似合わないよね」
気がついたら、ポロッと言っちゃってて。
騎士様なのに、そんなこと言われたら、いい気がしないってのはわかるからさ。ビクビクしながら見上げてみたら、将軍、ニコッて感じで笑ってた。
「私より、あなたの方が、よほど戦場が似合わないと思いますよ」
「まあ、パッと見、子供だしね。っていうか、お酒飲んじゃダメだし、考えなくてもまだ子供じゃん! んでも、あたしは、一応傭兵なわけ。戦って、人殺して、お金もらう立場だし」
……あー、そっか。
「うん、似合う似合わないじゃないよね。将軍、ゴメンね。変なこと言って」
「あ、いえ、かまいませんよ。何より、私は、そこが血なまぐさい戦場だと忘れてしまいそうで、あなたのような可愛らしい方には、戦場が似合わないと言ったのですが」
うわーっ! やっぱ、将軍がおかしい! っていうか、エレンさんが増えたみたいで、何か嫌だ……。




