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 敵はきっちり全滅させたけど、あたしたちにも被害はいっぱい出た。でも、僧侶(クレールス)たちが頑張って、ケガ人は治してる。

 だけど、死んじゃった人は無理。

 手の空いてる人が、埋めるための穴を掘る。あたしはたいして役に立たないから、みんなが食べるご飯を作るお手伝い。

 初めて戦場に出た後も、初めて人を切った時も。あたしは「もう戦場に出たくない!」なーんてわがままを言った。

 この手で人を殺した感触は、今でもはっきり覚えてる。

 だけど、ここより北にあるセイライ国は、資源なんて何にもない国。土地もやせてて、ホントに強い植物しか育ってくれなくて。しょうがないから、強い人が傭兵とか、偉い人の護衛をしてお金をもらう。それでいろいろ買って、どうにかみんなを生かしてる。

 あたしも、今は、傭兵として、それなりにちゃんとやれてるはず。

 もう二度と、ぜーったい、途中で投げ出したりしない!

「おーい、ユノ」

「あれ? ベネットじゃん。もう穴掘り終わったの?」

 薄茶色の髪と目は、ここマーハルニーファ王国の人の特徴みたいなもん。たまーに、もっと色素の薄い人もいるけど。

 で、あたしたちセイライ国の人間は、深い青っぽい黒の髪と、黒い目。ついでに言うと、何でか、他の国の人より背が低い。顔も体型も、子供っぽいんだって。

 あと、あんまりいないけど、メアンラーエ王国の人は、赤っぽい茶色の髪の毛。

 よっぽど混ざりまくってる人じゃなければ、だいたいわかる。

 で、ベネットはマーハルニーファの人そのもの。性格は、女の子を見ると口説く癖があるらしくって、ちょっと難アリ。一応、今は本命っぽい子がいるから、他の子には言わないんだって。

 ベネットはあたしと同じ隊で、ちょっと珍しい竜騎士(ウォラーレ)なんだ。

 竜騎士は、その名のとおり、竜に乗って空を飛ぶ。一撃離脱が得意。空から戦況を教えてくれたり、偵察もしたりする。でも、帝国に攻め込まれた時に、大事な竜が死んだり、乗り手が死んだり、竜を育てる人が殺されたり、竜が生まれる場所を占拠されたりで、今はほとんどいない。

 あたしたち、マーハルニーファ解放軍にいる竜騎士は、全部で十七。最盛期には、その十倍はいたんだって。

「ユノ嬢!」

 あ、噂をすれば何とやら、ってやつかな?

 バッサバッサと羽音を立てて、お腹が薄い黄緑色のでっかい生き物が下りてくる。コウモリみたいな羽は、端から端まで、たぶん七メートルくらい。頭から尻尾の先は、五メートルはあって。手足にはキラッと光る鋭い爪。ちょこっと開いた口には、尖った歯がびっしり並んでる。

 目だけ見たら、結構愛嬌があって可愛いんだけどね。顔全体で見ちゃうと、やっぱ小さくって怖い。か弱い子が見たら、悲鳴を上げて気絶しそうなくらい、ホント怖い。

 その竜の上から、白銀の鎧をまとった人が、ヒラリと飛び下りてくる。

 薄茶色の髪は、肩より少し長いところで切りそろえてある。切れ長で涼しげな目元は、凛々しくてちょっと羨ましい。あたし、ボケッとした顔してるし。

 腰には、左に剣で右に杖。ああみえて、あの人、治療もできるんだよね。竜に乗れるし。

「ああ、ユノ嬢は今日も非常に愛らしいですね」

 あたしの右手をつかんで、指先にキスをする。最初はびっくりしたけど、これ、この人の挨拶なんだよね。

 それから、こんなこと言うけど、この人は女性。エレンさんっていって、解放軍の盟主様の護衛。戦ってるとこは、あたしはまだ見たことない。でも、ベネットがまず勝てないって言ってたから、たぶんすっごく強い。

 ただ、美人なのに、女の子が大好きなんだって。可愛い子とか、はかなげな美少女は好物って……好物……。あ、男は口うるさいから、基本的に嫌いなんだって。

「ちょっとさらって、オーレリア様の天幕に隠して、私が満足できるまで愛で倒したいくらいです」

「えっと、それは遠慮したい……っていうか、あたし、王女様の天幕なんて無理!」

 一応、公式には王女って認められてないけど、ちゃんと死んじゃった王様の娘なんだって。父さんとか、証拠があるから絶対って言うし。だから、王女様。で、あたしたち解放軍の盟主様。

 んでもって、あたしたちセイライ国の傭兵の、雇い主。

「ああ、でしたら、ユノ嬢が落ち着いていられる場所で、心ゆくまで堪能させてください」

「……エレンさんって」

 ボソリとベネットが呟いたら、エレンさんはベネットをキッと睨みつけた。美人だから、迫力があっていいなぁ。

 あたしがやると、可愛い可愛いって言われるんだよね。

「確か、ベネットでしたね? そろそろ、竜騎士たる者、どうあるべきか。それを理解できてきましたか?」

「いや、あのさ……」

「では、復唱なさい。竜騎士たる者、危機に陥っている女性は、かっさらってでも救出すべし! 全世界に存在する愛らしい乙女たちは、全員残らず愛でるべし! はい!」

 復唱しないで、ベネットが逃げた。逃げ足速いなぁ。

「まったく、あの男は……」

 言いながら、エレンさんはあたしを背中からギュッと抱き締める。

 あー、うん、悪くない。悪くないけど……できたら、カッコイイ男の人にやって欲しい。ほら、あたしも一応、恋したい年頃だしね!


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