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ヤバい。父さんが、危険すぎる。
母さんが戻ってきてないからって、あんましイライラしない方が……なんて、迂闊に言えない状態。言ったらあたしが殺されそう。
全員集まってるか確認なんてしないで、さっさと突き進んでく。
イハル兄のとこのグレースが言うには、ここは昔、変わり者のお貴族様の屋敷だったんだって。んで、隠し通路だの、増改築だのを繰り返してて、それをそのまま罪人収容施設に改築……っていうか、壁作って無理矢理仕切ったっていうか……。うん、まあ、そんな感じ。
だから、通路の壁から敵が出てきたってわけ。
敵が残ってるなら、通路が集まる広間。グレースはそう思ってるみたい。……って、リアムとベネットが教えてくれた。多分、グレースからイハル兄、そっから父さんって形で伝わってきたんだろうけど。
他の目印より、一段低いとこ。そこに、母さんの目印があった。何か、怪獣の手みたいだけど……多分これ、ユリの花だ。
通路のあちこちに、怪獣の手が咲いてる。ガンガン進むうちに、脇道の怪獣の手の下に、×印がつくようになった。
絶対、母さんだ。
×がついてる道には、いない。つまり、この先!
どん詰まりの、ちょこっとだけ広くなった場所。そこに、母さんたちがいた。先に道があるから、戻るわけにもいかなくて止まってたのかな?
「この先に、かなりの数がいるようよ」
「そうか……後は俺に任せろ」
当たり前みたいに、父さんが母さんと位置を変わる。もちろん、あたしたちが前に出て、母さんたちが後ろに下がって。
振り向いてみたら、他の隊もどんどん追いついてきてる。
うん、これならいけそう!
「総員、突撃ーっ!」
父さんの号令に、聞こえる範囲の人間がビシッてなった気配がした。もちろん、あたしの背筋もしゃんとなって。
気がついたら、足が前に出てた。んでも、あたしより先に、父さんが突っ込んでってる。
あー、多分あたし、邪魔になるなー。やっぱ、鎧の相手はきっついし。
先のが広いみたいだから、そっちに入ってから隅っこに移動した。
どうせ、父さんたちがパパッと片づけちゃうだろうしね。
「ふふっ、ユノってば、こんなとこにいるぅー」
「カノ姉こそ!」
「だーってぇ、わたし、か弱いしぃ? 邪魔になるでしょー?」
「あたしだって、足手まといって思ったからここにいんじゃん!」
カノ姉は、母さんに一番そっくりな美少女で、あたしより二つ上。あたしと一緒で、肩を出した、体の線にピッタリ沿った赤茶色のワンピース。腰から下はちょこっと広がってて、裾は太ももの半分くらいんとこ。これが一番、動きやすいんだよね。布も割と伸びるし。あ、もちろん、下にはちゃんと短いズボン、履いてるよ? 革製の胸当てとか手甲とか脛当てとか、やっぱいるし。
それに、カノ姉は、あたしと違って髪が長い。ますますおしとやかって感じでさ。あたしは、手入れすんの面倒だから、ばっさり短くしてんだけど。
しかも、カノ姉ってば、おっとりした性格が全身に出てるんだよね。でも、自分が役に立てるか、それとも離れている方がいいのか。それを瞬時に判断して、パッと行動しちゃう、意外とちゃっかり者。
多分、他のお姉ちゃんよりは、結婚に向いてると思う。リノ姉みたいに、趣味悪くないし。シノ姉みたいに、おっきな両手剣、ブンブン振り回したりしないしね。
「セイガ隊長が討ち取ったぞーっ!」
誰かの叫びが聞こえた。
「やったぁー」
満面の笑みで、カノ姉があたしのほっぺたをペチペチ叩く。
「確かにやったけどさー、何であたしのほっぺた、叩くわけ?」
「えー? ちょうどいいところにあったからだけどー?」
「こういう時は、こっちでしょ!」
言いながら、あたしは右手のひらをカノ姉に向ける。ニッコリ笑ったカノ姉は、手のひらをパン、とぶつけてきた。
「あたしたちの父さん、超カッコイイ!」
「ねー?」
「捕虜も全員無事だぞ!」
どこかから、聞こえてきた声。
「うっそぉ! ホントに?」
「みーんな、無事だったんだねぇー」
あんまり驚いたから、カノ姉と顔を見合わせちゃった。
捕虜はさすがに、半分くらいダメだと思ってたんだよね。三年前から捕虜の人なんて、閉じ込められて、ご飯だってちゃんと食べれてたかわかんないし。ここ最近の捕虜だって、生きてても死ぬ一歩手前かも、なーんて思ってたからさ。
こっちの損害は少ない。多分、死人は出てないと思う。あっちは、敵将が死んでるし、運よく生き残ったのは投降してるっぽい。縛られてる人が、何人か見えるし。
「……そういやさぁ、シノ姉の捕虜の縛り方、思い出すね」
何となく、ホントに何となく。フッと思い出しただけなんだけどね。
あたしが言ったとたん、カノ姉ってば、ブフッて派手に噴き出した。せっかくのおしとやかな印象が台無しじゃん。
「やめてぇー。シノ姉のって、あれでしょー?」
「そそ、あれ」
あたしは、手首と足首だけしっかり縛っときゃいいと思うんだけどさ。
シノ姉、昔、なーんか、変な縛り方してたんだよね。肩から足首まで、縄を重ねないようにピッタリ、グルッグルに。縄で簀巻きにするなんて、初めて見たんだけど。
んで、父さんが、縄を無駄遣いするなって、メッチャ怒って。
ホント、父さんが怖かった。
「わたし、シノ姉がお父さんのゲンコツもらうの、あの時初めて見たぁー」
「あたしもー」
ぶっちゃけると、父さんのゲンコツ、あたしが一番食らってんだよね。
きっとあれだよ。自分に顔が似てるから、一番遠慮なくゲンコツ落とせるんじゃない? どっちかっていうと、あたし、中身が母さんだからさ。




