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「……このまま、他の方が帰るまで待機していてください。決して、余計なことはしないようにお願いします」
「はーい」
見に来た人たちを、順番に眺めてみた。
王女様に近い方には、お貴族様とか、王様、王子様に、父さんと母さんとユウガ兄とチオリ姉とお姉ちゃんたち、あと、騎士様たちがいる。
そういえば、シノ姉、都合ついたんだね。トウガ兄と一緒で、無理だと思ってたのに。
あ、美人さんも来てたんだ? ドリスもいる! シーラに、ベネットとエミールも。ってか、エミールは眠そうだね。で、出入り口に近い方に、グレースとリディとイハル兄と、エレンさんに張りついたリアムがいて。
みんな、ニコニコしてる。あ、父さんと王様と王子様は、思いっきり泣いてるけど。あと、おしゃべり騎士様も、ちょっと涙目。
最初にエレンさんが、リアムに取りつかれたまま、ちっちゃく手を振って部屋を出ていった。イハル兄たちも、他の人も、どんどん部屋から出て行っちゃう。
父さんたちはまとめて、母さんにズルズル引きずられて出ていったし。
ユウガ兄とチオリ姉も出て行っちゃったけど、お姉ちゃんたちはこっちに来たね。どうしたんだろ?
「ねえ、ユノ。今、幸せ?」
深緑色の正装姿のシノ姉に聞かれた。リノ姉もカノ姉も、同じことが聞きたいみたい。
「うん、すっごい幸せ!」
「そう……じゃあ、私が戦場から急いで駆けつけて、叩きのめさなくても大丈夫?」
「うん、いらない。それされると、将軍が死んじゃうからやめて」
「私も不要かしら?」
「うん、リノ姉の攻撃もいらないよ。ってか、エレンさんもカノ姉も母さんもいるし」
リノ姉とシノ姉って、ホント女傑だからね……うっかり本気出されたら、死ぬから。
「そうそう、ヴァージル将軍? これはトウガからのお祝いですって」
言いながら、リノ姉が腰を入れて、将軍のお腹に拳を叩き込んで……ちょっ! トウガ兄!?
慌てて将軍を確かめたけど、痛がってないから、本気じゃなかったみたい。よかったぁ……。
「リーグレーネで有名な、銀細工師の指輪ですって。あなたとユノにひとつずつ、家庭円満を祈っているものだそうよ」
あたしは思わず、将軍を見ちゃった。将軍もびっくりした顔で、あたしを見てきて。自然と、笑い合っちゃった。
「ありがたく、頂戴します」
将軍の手のひらに一個、あたしの手にも一個。リノ姉は指輪を落としてく。
早速はめてみたけど、左手の薬指にピッタリだった! 将軍もピッタリだったみたいで、メッチャびっくりしてるし。トウガ兄ってすっごいね!
「あたしも会ったら言うけど、トウガ兄に会ったら、お姉ちゃんたちからもお礼言っといてくれる?」
「わかったわ。じゃあね、ユノ。また手が空いたら会いに来るわ」
「うん、またね!」
お姉ちゃんたちも出ていって、いつの間にか王女様もいなくなってた。
みんないなくなったら、すっごい広くて静かだね。
「では、行きましょうか」
「……どこに?」
ってか、まだ何かあるの?
首を傾げてたら、将軍は苦笑いの顔でため息をついた。
「ユノさんは、これからどこで暮らすつもりですか?」
「……へ? 宿舎じゃないの?」
「私と別々の部屋で暮らすのですか?」
「だって、父さんと母さんは別の部屋だよ?」
はぁ、ってため息つかれたんだけど……今までどおりだと、不便だったりするの?
「私が一緒に生活をしたいので、ユノさんのために、覚えやすい場所にしました。今から一度、外へ出て、部屋へ案内します。覚えられるまで、何度でも行き来しますからね」
「……道を覚えるのは、自信ないんだけど」
「これだけは、絶対に覚えてもらいます」
口調は強いのに、顔には優しい笑顔を浮かべてて、ずるい。
そんな顔されたら、嫌だって言えないじゃん。
「本当に簡単な道順ですから、大丈夫ですよ」
「曲がるのは、同じ方向に二回までね! しかも、曲がるのは突き当たりだけだよ?」
そうじゃないと、ホント覚えられないから! それでもちょっと、怪しいくらいだし!
「そのくらい単純ですよ」
クスクス笑う将軍に手を引かれて、一度お城の外に出る。そこから、真っ直ぐ歩いて、突き当たりを右に曲がって、次の突き当たりも右に行って……三つ目のドアだって。ドアも右手側にしかないし、手前のドアはがっつり鍵がかかってるし、多分迷わないと思う。
うん、これなら確かに、あたしでも覚えられそう。外に出る時も、最初にちゃんと左に出れば、間違えずに出られるはずだし。
早速、将軍が鍵とドアを開けてくれた。
中はすっごく広い! ってか、手前にあったドアって、この部屋とつながってない? って聞きたいくらい、広いんだけど……。
入ってすぐのここは、多分、応接間ってやつだよね? ソファとテーブルがあるし。で、左と右にドアがあるんだけど、どっちかは寝室だとして、もう片方って何? それとも、両方寝室っていうか、個人の部屋ってこと?
「室内は自由に動き回ってかまいませんが、くれぐれも、城内で迷わないようにしてくださいね?」
「……はーい」
中で迷ったら、外に出るのも、ここに戻ってくるのも無理だもん。迷わないように、お城の中は一人じゃ探検しないよ?
とりあえず、左右のドアを確認! 左は……やっぱり寝室だね。んでも、ベッドはおっきいけどひとつだし、衣装棚とかもいっぱいあるし、個人の部屋かも。あ、まだドアがあるね。でも、鍵がかかってる。
今度は右のドア。こっちは、水と火が使える、ちっちゃな厨房だね。道具もひと通りそろってるみたいだし。テーブルと椅子があるから、ご飯もここで食べられるっぽいね。
「住み込みの使用人は地下に部屋がありますし、この辺りは、あまり人が来ないんですよ」
「……え?」
「ユノさんと過ごす貴重な時間を、これ以上、他人に邪魔されたくはありませんからね。基本的には、この部屋ですべてまかなえるようにしてあります」
そ、それってさぁ……。
「可愛らしいユノさんに振り回される男は、私一人で十分ですから」
ニッコリ笑った将軍は、服装もあって、すっごくカッコイイ。
……反則だよ。
今、あたしの心臓はきっと、簡単に握りつぶせそうなくらい、ギューッとちっちゃくなってる。
これから一緒にいる間中、こんなふうだったら……あたしの心臓、持たないよね?
「今日から、よろしくお願いします」
ギュッと抱き締められて、耳元で囁かれる。頷いて、そっと将軍を見上げてみた。
「こっちこそ、よろしくね」
そう返したら、唇にキスが降ってきて。
あ、うん、今、すっごく幸せだなぁって思えた。
お返しがしたかったけど、全然届かなかったから、首に腕をかけてギュッと抱きついてみる。
失礼だと思うけど、あたふたする将軍は、すっごく可愛い!
あー、うん、毎日、こんな将軍を独り占めできるなら、メッチャ幸せだね。
この幸せが、ずっとずっと続きますように!
本編は終了です。
他キャラ視点の小話をいくつか、書く予定はあります。




