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「そもそもさ、イハル兄って、女心がわからないっていうか、朴念仁なんだよねー。お姉ちゃんたちにも興味なかったっぽいし、今までいっぱい出会いがあったくせに、あの顔で一個も実らないって、絶対おかしいっしょ。セイライ国の人間に聞いてみなよ。みーんなあたしと同じこと言うから」
ああいうとこで、さりげなく一緒に連れていって、そんであたしに「話し相手になってやってくれ」とか頼めばいいのに。そしたら、一気に株が上がるんじゃない? グレースだったら、イハル兄が嫌がるタイプじゃないんだしさ。
んー、でも、それができないのがイハル兄だし。しょーがないよね。
あれ? そういえば、何で男が怖い子が、こーんな男所帯に突っ込んできたわけ? 怖いなら、まず避けるっしょ。どこ見ても、基本的に男ばっかだし。
「ところでさ、グレースって、何で解放軍に参加したの?」
首をちょこっと傾けて、グレースをジッと見て。あたしは思い切って聞いてみる。
「え? えっと……イハルさんに助けていただいたご恩をお返しするのに、一番早いと思ったから……でしょうか?」
思ったなら、はっきりズバッと言っちゃおうよ! 何で最後、疑問になんの?
でもまあ、何となくわかった。
イハル兄の、いつものアレだ。フラッと助けるだけ助けて、放置プレイってやつ。今まで、わざわざ追っかけてくる律儀な人が、一人もいなかっただけで。
「あー、いいね、そういうの。わかりやすくって」
あのイハル兄を見て育ったあたしとしては、嬉しい。
この調子で、グレースがイハル兄に惚れ込んで、頑張って落としてくれたら最高なんだけど……それは、さすがにグレースに酷かな?
「あたしは、父さんとか母さんとか、お兄ちゃんたちもいるし、王女様の考えが好きだからなんだ。いーよね、力は守るためのもの、って考え。あの王女様だったら、お金が全っ然もらえなくっても、解放軍に参加したかも」
胸で重ねてた手を、グレースはギュッて握った。元々、羨ましいくらい白い手だけど、色がなくって死んでるみたい。
ひょっとして、王女様のこと、あんましよく思ってないのかな? それとも、他に気になることがあんのかな?
んー、知らないで言っちゃったあたしが悪いんだし、何か別の話題、振ってみよっかな?
「それにしてもさぁ、グレースって、何て言うか、すっごくか弱そうだよねー」
華奢だし、ほっそいし、はかなげだし。イハル兄の言う、守ってあげたくなるタイプってのはこういう子だって、何かよくわかるよ。
好きな魔法、雷っぽいし。ほら、雷だけは、殺しちゃうとこ、バッチリ見なくても攻撃できるからさ。いかにも自分が殺しました、って感じで死なないし。
この子、人をちゃんと殺そうと思って、魔法撃てそうにないじゃん?
「え……えっと……そんなに、弱そうに、見えますか?」
うーん、おどおどして所在なげな仕草も似合うね!
「ん? んーん。弱いんじゃなくって、か弱いの。何かこう、ほっとけなくって、守ってあげなきゃ! ってなる感じの」
「は、はぁ……」
「今度からさ、現場で作戦会議とかになったら、イハル兄にグレースを連れてきてもらって、あたしが話し相手になるよ。どーせあたしも、軍議には参加させてもらえないしさ。それなら、怖いとこからすぐ連れ出してあげられるでしょ? もちろん、陣営で休憩中とかにも会いに行くし、来てもらっても全然オッケーだよ! あたしの天幕がわかんなかったら、リディかイハル兄に聞けばわかるしね!」
あーでも、ベネットもリアムもダメなんだよね? あたしが押しかけた方がいいかな?
チラッとグレースを見たら、かなり顔色がよくなってた。
うわっ、笑った! かっわいー! エレンさんじゃないけど、グレースだったらかっさらいたいって気持ち、わかるかも!
「こんなところにいたのか」
イハル兄だ。なーんだ、もう会議終わっちゃったんだ。
「まだ戻っていない隊が二つある。二手に分かれて追うことになった」
「そっかぁ。じゃ、グレースはイハル兄に任せて、あたしは戻るね。父さんのゲンコツ、食らうと痛いしさー」
戻ってないの、母さんのとこみたいだし。父さん、気が気じゃないだろうから、ちょっとでも早く行きたいっぽいし。
イハル兄のせいで、父さんに「遅い!」って怒られて、ゲンコツ食らうの、割に合わないじゃん?
「ユノ、助かった」
戻りかけてたあたしの足が、固まった。
ねえ、今の、空耳? あたしの聞き間違い? 幻聴?
イハル兄が、あたしにお礼言うなんて……。
「うっわ……明日、ねぼすけ雪さんでも降るんじゃない?」
思わず言っちゃって、あたしは慌てて逃げ出した。




