姫は王子にファーストキスを奪われる
息抜きです。深く考えずおおざっぱな内容なので、さらっと読み流して頂けると有り難いです。
「「お早う、姫君」」
皆さんお早う御座います。今が朝か昼か夜か分からないけど、取りあえずそう言っておくわね。
私の事は姫って呼んで頂戴。・・・何故かって、そりゃぁ私が本物のお姫様だから。・・・やっかまないでね・・・なんて、嫌味な事をつい言いたくなるのには理由があるんですよ。ちょっと聞いてくれる?
え?嫌?そんなこと言わないでちょっと聞いてっ!お願い!!
・・・ありがとう。じゃ、話すわね。私、ちょっとした手違いで魔女に百年眠る呪いっていうか呪文を掛けられちゃったの。・・・いきなりファンタジーでついていけない?仕方ないでしょ、だって本当の事なんだから。どこかで聞いたことのある話だ?そうね、良く聞く話よ。
私も良くお話を聞いていたわ。魔女に呪われたお姫様が、王子様のキスで目覚めて、王子様と幸せになる物語の数々を。
でも、これは少し・・・話が違うのよ。
まず、私の現状を教えておくわ。じゃないと物語に入れないものね。
一つ、私はつい先ほどまで百年の眠りに閉ざされていた。
一つ、今はその眠りから解放されている。
一つ、私が居るのは、ほこりが積もって色褪せた私自身の私室。
一つ、これが一番問題なんだけど・・・私の目の前には人がいる。
そして、私は只今寝台から前身だけを起こして、必死に状況整理に思考を奔走させている所。・・・ちなみに、これ重要だけど、私が眠ってからまだ百年経っていない。百年経てば自動的に呪いは解けるはずだったのに、今はまだ呪われてから八十年ほどしか経ってないの。それすなわち、誰かが私に掛けられた呪いを解いてくれた事になるわけで・・・。
物語の定番、お姫様の呪いってのはキスをしたら解ける訳よね・・・すみません、この話もどうやらその部分は一緒らしいです、はい。
さよなら私のファーストキス。儚い夢だったわ。くすんっ。
・・・でも、まぁ終わったことはしょうがないじゃない。キスした相手にビンタ一発で終わらせてあげようと思ってたの。ああでも、一応呪いを解いてくれたわけですし、そこはお礼を言いますよ。
代償は大きかったんですけど。・・・私の小さいころからの夢が散ってしまったのは泣きたいぐらい。
だって、ファーストキスよ?夢ぐらい見たいじゃない。好きな人とロマンチックな場所、状況でしたかったのよ。
なのに、現実っていうのは厳しいわ。私がぐーすか寝ている最中にされちゃうなんて。せめて意識があるときが良かったのに!!どこの世界にぐーすか寝ながらファーストキスを済ませるなんて人がいるのよ。ロマンチックじゃないわ。全然ダメ。そんなの最低よ。
・・・ごめんなさい。ついつい話がそれちゃった。
私の憤りは伝わったと思うことにして、この後私はどうするべきだと思う?
物語のお姫様達って大概呪いを解いてくれた王子様に一目ぼれして、王子様と結婚してめでたしめでたし・・・なのよね。そうそう知ってた?結婚って終わりじゃなくてスタートらしいわ。私にはよくわかんないけど、母様が言ってたのよ。何故かすごく遠い目をしていたわ。・・・お父様と何かあったのかしらね。
まぁいいわ。そんな事より、実をいうと今まさに私はどうしたらいいか分からない状況になっているのよ。
先程言った通り。
私の目の前には呪いを解いてくれたのであろう王子様が居るんですよ。
すっごい美形。目の保養だわーってくらい美形。・・・え?私はどうなのか?
そうね、普通。何よ、いいでしょ!世の中には美人じゃないお姫様もいるのよ。・・・私みたいに。少数だけど。多分。
てゆうか!私の容姿はどうでもいいのよ、それより問題は王子にあるんだから。
何が問題か・・・?
まず、私はっきり言って一目ぼれ出来なかった。いえ、先程言った通り、王子は美形よ。もう世の中の綺麗なものをかき集めて、その存在を形作っているようなくらいにね。
でも、私は外見より中身を重視するタイプなのよ。まぁ、そこだって今からおいおい知っていけばいいわけよね。うん、分かってる。
分かっているけど・・・。
「「呪いが解けて本当に良かった。あなたのような方が、今も眠り続けていると聞いたときは胸が引き裂かれたように苦しく・・・」」
王子がなんかぶつくさ言っているけど…正直頭に入ってこない。
呪いを解いてくれたのには感謝してます。
ここで王子様の胸にでも飛び込むのが物語のセオリーってものなのでしょうけど・・・どうしましょうこれ。本気で困る。
ねぇ、そこのあなた。こんなお話って聞いた事ある?
呪いを掛けられた、お姫様のお話し。
やって来た王子様にキスされて、お姫様の呪いが解かれた。お姫様は目が覚めて、呪いを解いてくれた王子様に恋をするーーーーー筈だった。
でも、でもよ?
考えてみて。
目覚めたお姫様の目の前にいたのは確かに見目麗しい王子様だったんだけど。
「ええっと・・・一つお聞きしても?」
「「ええ、喜んで」」
「その・・・あなた方は二人とも王子様なの?」
「「「ええ」」
ーーーもし、王子様がその場に二人居た場合、お姫様はどっちに恋をしたらいいのかしら。しかも、この人達同時に私にキスしてくれてるの。どうやったかなんて聞かないでね。私も知らないから。
まぁでもとりあえず・・・二人ともビンタするのは決定事項よ、勿論。
・・・さあ、渾身の力を籠めようと思います!!
現代ものを書こうとしてたのに・・・何故かこんな事に。楽しかったけどね。