序章~5~
『「えっ?」』
それは二人にとってあまりに唐突過ぎた。中田さんもいきなり自分の名前が呼ばれたことに驚きを隠せないようだった。しかし先生は、俺(俺達)に構うことなく続けた。
「実は僕、霊感ってのが強いらしくて見えるんですよ。幽霊的なモノが」
ユ、ユーレイ?精神科の先生がそんな非現実的なモノを信じているのか?
「えぇ、実際に居ますよ。ここにも霊に取り憑かれている患者がけっこう来ますし」
@$☆※△%!!!
「こ、心も読めるんですか?!」
「おっとゴメンゴメン、驚かせてしまったね。僕が使えるのはほんのちょっとだけど、読心術をとことん極めると相手の――あー、今話す事でもないか」
「?」
興味があった俺は少しがっかりしたが一番肝心な事を聞いた。
「ところで、どうして俺の中に彼女がいるって分かったんですか?」
「……そこなんだけど、外科の方から一応、彼女の脳波を診といてくれと頼まれてね。
まぁ、機械でやった方がいいんだろうけど、ぶっちゃけ僕が患者の心を見た方が速いし、何より正確なんだ」
その時の神元先生の表情はなんとも誇らしげだった。
「で、いざ診てみたら肝心の"彼女"がいなかったってわけですね」
「うーん、半分正解かな」
半分?
「確かに中田さんはそこにはいなかったんだけど、彼女の頭から白い糸が引きちぎられたようなのが出ていたんだ。そして、友達だとか言う君の頭からも白い糸が出てたんで、もしや、と思って声をかけてみたら案の定……」
するとまたしても"彼女"が急に――
『ちょっと待って!白い糸ってのも気になるけど、じゃあ私の声も聞こえているんじゃないの?』
中田さんのその言葉を聞いて俺は先生を見つめた。
「どうかした?僕の顔に何かついてる?」
なんてベタな返しをしてくるんだこの人は……にしても、聞こえていない?
「いや、中田さんの声が聞こえてないのかなーって……」
「僕もそのつもりで来たんだけど、どうやら君の心が強すぎるらしくて"彼女"の存在があまり感じとれないんだ」
『ふーん、いやらしいことばかり考えてそうだもんね、キミ』
「なっ……!」
こんちくしょー!言いたいだけ言いやがって!!!
確かに妄想はするけど、5分に1回ペースでしかしないぞ!
「それが原因だね」
「せ、先生まで…」
いいんだ!俺は健全なる男子なんだ!
「先生〜、次の患者さんの診察をお願いしまーす」
と、診察室の裏から看護婦さんの声がする。
「すぐ行くんで、ちょっと待っててくださーい」
朝からの疲れに加え、こいつの対応にも限界を感じた俺はいよいよ先生に懇願した。
「それはそうと、早く"彼女"を戻してやってくださいよ」