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8話 最弱、能力を知る


「分かりませんね」


 そう言って俺に腕輪を投げ返してくる。それを受け止める。


 理由は分からないがなぜか狼たちはすべて森の中に戻ってしまい。結局俺とアリアナはそのまま宿に戻った。


 そして、腕輪と狼の話をリミルにした所だったが、あっさりとこの毒舌王女様は話を終わらせやがった。


「わたくしには全く分かりませんわ。ちゃんとした設備があれば腕輪の方は解析できますけど、狼の方は話を聞いただけでは分かりませんわ」


 付け足すようにそう言うと、リミルはさっさと宿の寝室に戻ってしまった。


「おい! まだ色々と聞きたい事があるんだけど!」


「わたくしは眠いんです」


 一言だけ言って止まらずに寝室に行ってしまった。あの我が儘王女が!!!


「くそ! くそくそくそ!!! あの野郎が何時か絶対ぶっ飛ばしてやる!」


 近くにある壁を蹴り飛ばしながら愚痴を言いまくる。


「まあ、少しは落ち着け。あの姫様がまともに答えてくれる訳がないだろう。腕輪と狼の事を答えてくれただけでも良かっただろう。それより他に聞きたいことって何だ? あたしで良ければ答えてやるぞ」


 まあこの世界の事を知っているのならどっちでもいっか。姫様の方が色々と詳しそうではあったが、こいつだってこの世界の事ぐらいだったら知ってるだろ。


「この世界の事を全て聞きたい。俺はもう後悔はしたくないから。だから知識が欲しい、力が欲しい。後悔しないだけの力と知識が欲しい」


 狼と戦っている時に俺は後悔した今の自分に。弱い自分に。俺は弱い。


せめて自分の身を守るぐらいのことは出来る様になりたい。だから俺は知識と力が欲しい。敵対する奴が何をしているのかを理解するための知識とそれに対抗できるだけの最低限でいいから力が欲しい。


 俺の意思がアリアナに通じたのか。若干真剣な顔になって言う


「まずは魔術と慶術、神術のことから説明しようか」


「魔術と慶術は聞いたことがあるけど。神術は初めて聞くな」


「魔術とはそもそも自然中にある力を借りて、様々な効果を得るモノだ。姫様がやったように風の力を借りて空間を移動したり、炎や雷などを出したりする。次に慶術とは自分の内なる力を引き出す。私がやったように高速で移動したり、眼には見えないほどの斬撃を飛ばしたりする。主に自身の身体にしか作用しないモノだ」


 魔術と慶術か。一応は見た事あるがすぐに理解できるそうは無いな。後で慶術の方だけでもアリアナに見せてもらお。


「それじゃあ、あの狼が使ったのは魔術か?」


 あの狼たちは俺に向かって氷柱を吐きだしていた。今のアリアナの話を聞いた限りだと魔術な感じがするんだが。


「いやあれは神術だ。神術とはそもそも神の力をその身に宿し、戦うモノだ。しかし人間でこの力を扱える者は少ない。さっきの狼のようにこの島の神獣であるモノが創りだした狼のようなモノ以外では神の力を宿すだけの器としては人間の身体は脆い。だから神術を使える者はほとんどいない」


 つまり人間が使うことが出来るのは魔術と慶術で神術を使える人間はほとんどいない。まあ、俺は神術は愚か魔術と慶術ですら使えないけどな。


「しかし、世の中の人間は主に慶術か魔術のどちらかが必ず使うことが出来る。まあ神術を使える人間はそれしか使えないがな。だからほとんどの人間が生まれてすぐにどちらが使えるのかを確認し、それに特化して学び強くなる」


「なるほどな。じゃあ両方とか三つとも使える人間は存在しないのか?」


「存在しないと思う。断言はできないがな。もしかしたらエルフやドラゴンの中にはいるかもしれないが、人間にはいないと思うぞ。だから全ての人間がどちらのみを訓練し自分の性質を鍛えて行くものだからな」


「性質?」


 またしても理解できない言葉が出てきた。性質って魔術と慶術にも個体差があるってことかよ。


「まあ、簡単言えば何に特化しているかという事かだ。慶術では“斬”、“硬”、“速”の三つだ。魔術では“火”、“水”、“風”、“地”の四種類だ。この七つの分類はどれもが魔術や慶術の基礎に当たるモノだ。どれを司る者でも他のモノも多少は使える。そう言う根本的なモノだ」


「少しややこしくなってきたけど、今のところは理解できそうだ。つまり慶術でも魔術でもどれに特化していても他のモノでも多少なりとは使うことが出来るが、特化しているモノ伸ばし鍛えているってことか?」


「まあ、そうだな。ただし使えると言っても特化しているモノ以外のモノを使いこなすのは困難だし、あくまで補助するために使う程度だ」


「ふ~ん、なるほどな。じゃあ、その分類についても詳しく教えてくれるか?」


「分かった。慶術の特性は名の通りだ。“斬”だったら斬ることに特化し触れただけでも切断できるようになるし、あたその特性もこれで武器に付加して使う事で間合いに関係なく斬撃を飛ばしたりも出来る。“硬”は人体の強度を上げる事で普通ではありないほどの力を引き出すことが出来る。“速”は攻撃力は余り上がらないがその変わりに機動力や反射神経などの速さを上げる事でなにも止まらぬ速度で動きまわったりすることだ」


「なるほどな。これで補助的に作用するって部分も分かった。お前は“斬”の特性を持っているけどある程度は速度や力を上げることが出来るってことか」


 アリアナに始めた会った時にあり得ないほどの力で蹴り飛ばされたり、町でかなりの速度で走ったりしたのが、補助的に作用することなのだろう。簡単にいえば劣化版って事だろうか。


「そう言うことだ。それで魔術の特性だが、これはあたしは余り詳しくないから姫様に聞いた方がいいのだがとりあえずあたしが知っている範囲で説明するけど良いか?」


「頼む。あいつにはまた後で聞いてみるけど答えてくれるか分からないからな」


「まあ、それもそうか。じゃあ説明するぞ。“火”は太陽、“水”は海、“ 風”は空気、“地”は大陸からそれぞれ力を借りている。そして“火”の属性の奴と戦うのに真夜中に戦うのと真昼間に戦うのじゃあ全然違う。そう言う感じで魔術を使う奴らは場所や地形、時間で使う魔術がまったく違う。魔術を使う奴らは頭で戦うとも言われている。あたしみたいに慶術を使う奴らはそんな事全く考えないで実力だけで戦うけどな」


 頭で戦う魔術師と実力で戦う慶術師とでも言うのかな。まあ分かるのはどっちも厄介なだけか。


「それじゃあ神術の特性は何だ?」


「エーテルと呼ばれるモノだが、詳細がまったく分からなく。神術の特性は訳が分からないことだとさえ言われてるぐらいだ。それだけが共通している。前に説明した神器は元々神術を使えない奴らは使えるようになりたくて生み出したもんだ」


「解析できなく理解できないモノなのに使いたくなるほど強力なモノなのか?」


「もしも使い手が人間やエルフ、ドラゴンだったら戦ったら死ぬと思え。でもさっきみたいな奴らなら強くはない。奴らのように扱えきれなければ弱いが、普通に扱える者は最強だ」


完璧に扱える奴らが強いのは当たり前だと思うが、普通に扱えるだけでも最強とはそれだけ強いってことかよ。


「それじゃあそろそろこれを試してみたいんだが」


 そう言ってアリアナは一枚の平たい硬貨のようなモノを取り出して、それを俺に見せて来た。


「何だ? それは」


「これは赤子が慶術、魔術どの特性を判断するために創られているモノだ。これに血を垂らすとそれに反応して紋章を表す。どんな人間でも何らかの能力を持っているモノだ。お前の能力をこれで確認する」


 そんな事やった所で無駄なのに。だって俺は只の人間だもん。何処までも弱い人間だもん。


「まあ、やってみろ。ほら早くしろ」


 そう言ってアリアナは無理やり俺のフードとシャツを捲り狼によって傷つけられたわき腹に硬貨をなすりつけてくる。


「いぎぃ!!!」


 思いっ切りなすりつけられた為、わき腹に激痛が走る。


「つうか、アリアナ。俺が怪我してること何時から気が付いてたんだ?」


 戦って時には気づかなかったはずだ。ここに来るまででも怪我をしている事をばれるような動きはしなかったはずだが。


「お前は普通を装っているつもりだろうが、どうしても怪我をしていると身体の動かし方からしておかしいんだよ。幾ら隠しているつもりでもあたしから見れば一目瞭然だ」


「は! やっぱり半端ないなお前。普通じゃねえよ」


「その台詞お前にだけは言われたくないけどな。それじゃあそろそろ反応が出ただろう」


 そう言って俺に向かってさっきの硬貨もどきを渡してくる。


「何か反応出たのか? まあ出る訳ないと思うが」


「出たぞ。ちゃんと」


「出たのかよ!!! それで一体どんなの何だ?」


 全く期待はしていなかった。それでも出たのなら嬉しい。自分が何か強くなれるのならそれは嬉しい。


「分からん。見た事も無い、聞いたこと無い紋章だ。姫様にでも聞いてみるか」


「まあ、それも「それなら知っているわよ」」


 いきなり俺の声に被せて喋ってきたのはさっき寝に行ったリミルだった。


「もう起きたのか?」


「せっかくあと少しで寝れた所なのにゴミムシの叫び声で眼が覚めてしまったのよ」


 ああ、俺の悲鳴ことね。なんだかもうこいつの毒舌に慣れてきた。


「それで姫様これは一体何の特性を表すモノなんですか?」


「まあ、わたくしも文献で見ただけで実際には見たことが無いですし。それにその紋章が出た人間を聞いたことすらありません。何にせよ。あなたにはお似合いの能力だと思いますよ」


 笑顔になりながら言うリミルはとてもきれいだったが、それと同じぐらい不気味だった。


「それで俺の能力は一体何なんだ?」


「一応、分類上は神術の一種とされますが、そこはどうでもいい事です。その能力の使い手の呼称は“神に見離されし者”」


「“神に見離されし者”ねえ。随分と仰々しい異名じゃねえか」


「それで姫様一体どんな能力何ですか?」


 急かすようにアリアナが聞く。そしてリミルは今まで見た事も無いような満面の笑みでこたえる。


「簡単にいえば何一つ慶術も魔術も神術も使えない役立たずの人間が持つ能力ですわ。どれだけ訓練しても何一つ使うことだ出来ない能力ですわ。能力名は“無能(ノースキル)”。これはあなたの能力ですわ」


 俺はそれを聞いて。一回、二回。大きく深呼吸をしてから大声で叫んだ。


「ふざけんじゃねぇぞぉおおおおおおおお!!!!!」





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