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7話 最弱、神獣の僕と戦う



 いきなりの悲鳴と喧騒。それを聞いて剣士はそちらの方向に全力で走り出している。


「何で面倒事に好き好んで向かってんだよ。あいつは!!!」


 俺も急いで剣士の後を追って走り出すが、追いつかないどころかどんどんと離されていく。なんとか喰らいついて視界の中にいるけどとんでも無く早い。


「幾ら何でも速過ぎるだろ!」


 俺だって決して脚が遅い方ではない。ここまで圧倒的に離されるわけがない。


「これが魔術いや慶術だっけか? まあどっちにしても人間離れた力だな」


 視界の中で剣士が町はずれの森の近くで足を止めるのが見える。急いで俺もそこまで行く。


「おい、剣士何してんだよって、げぇ」


 そこに居たのは剣士だけでなく、森の中から現れた大量の狼。


 毛並みの色は黒に近いグレー。眼の色は白に近い銀のような色。一般的な狼がどれくらいかは知らないがこいつらの大きさは一匹一匹が2m弱ぐらいある。


「おい、剣士こいつら何だ? さっさと説明してくれ」


「こいつらはたぶんこの島の神獣の僕だろう。なんで村人を襲っているのかは理由は知らないけどな」


 神獣か。神の獣、神の如き獣。どっちを意味するのかは知らないがヤバそうなのは確かだな。


「それでお前は何をしようとしているんだ?」


 レイピアを鞘から抜いて、抜き身の刃を狼たちに向けて臨戦態勢を取って一体何をしようとしているんだ?


「無論。戦うつもりだ。力なき者を力ある者が守るのは当然の事だ」


 当然なことか。やっぱりこっちの世界の人間は価値観が違うな。俺のたちの世界じゃあそんな事考える奴なんていないからな。


「そうかよ。それで俺は戦った方がいいのか?」


 問題はそこだ。剣士にとって俺は力なき者なのか、それとも力ある者なのか。そしておれにとってどちらを選ばれるのが幸福なのか。


「そんなの貴様が決めろ。別にお前が力を貸さなくてもこれぐらいならあたし一人で十分だけどな」


「そうかよ」


 剣士はレイピアを振るう。それだけで見えない斬撃が飛び、狼たちを何匹も切断していく。狼の数は全部で十数匹。幾ら剣士が強くても絶対に勝てるかどうかなんてどう考えても一人では難しいだろう。


「まったく面倒くせぇなあ。剣士、力貸してほしいなら素直にそう言えよ」


 槍をバットのように振るい、剣士の後ろに居た狼を薙ぎ払う。


「あたしは別に力を貸してほしいなんて言ってないからな。お前が自分で決めたんだろ」


 剣士はそれでも笑顔でそう言ってから付け足すように言う。


「それからあたしのことはアリアナと呼べ。一緒に戦うのだ、変な気遣いは無用だ」


「ああ、そうだな。俺が勝手にやってることだな。でも一緒に戦わせてもらうぞ、アリアナ」


 さてと、どうするか。俺はつい先日まで一般的な高校生だったから当たり前だが槍の扱いなんてモノに長けている訳ではない。足手纏いになる訳にもいかないしどうするか。


「って悠長に考えてる暇も無いか」


 俺の方に横から跳びかかってきた狼を一歩引いて避けて、隙が出来た胴を蹴り飛ばす。


 キャンと緩い悲鳴が聞こえて、狼はそのまま前方に吹っ飛ぶ。いいタイミングに今度は前から来ていた他の狼と激突する。


「全く本当に面倒くせぇな」


 後ろではアリアナがどっちが化け物か分からないぐらいレベルで大暴れしている。様々な方向から跳んでくる狼を避けずにレイピアで受け止めたり、そのまま蹴り飛ばしたり殴り飛ばしたりしている。


「何だかあいつと戦っている狼が不憫に思えてくるレベルだな」


 向こうに気を取られている内に俺の方にいる狼が何かをやっていた。そして次の瞬間には大きな氷柱を飛ばしてきた。


「マジかよ。さすがファンタジーだな」


 大きさは約一メートルだろう。軌道は直線的だしどうにか避けられる。全力で横に転がるように跳び氷柱をかわす。今度は転がって隙が出来た所を跳んできた狼が飛びかかってくる。


「くそがぁああああ!!!」


 槍を構えて何とか狼の強力な爪と牙から身体を守る。それでも狼は俺の上に馬乗りになり凄まじい力を俺に加えてくる。


「なめんじゃねぇええぞぉおおおおお!!!」


 全力で狼の腹を蹴りまくる。何発も何発も蹴り続ける。そして怯んだ所を腕の力で押し返し、狼を仰向けにする。


「死にやがれこのくそ犬がぁああああ!!!」


 そのまま仰向けになった狼の口に向かって槍を貫通させる。


 口内を突き抜け、背骨を破壊する。それを一気に引き抜き、狼の上から急いで飛び退く。


 仲間の狼が俺に向かって跳びかかってくる。その狼の顔面に向かって思いっ切り力の限りで蹴り飛ばす。


「痛ッ。蹴った足の方が痛いってどんな身体だよ」


 そう愚痴った所で休む暇もなく、今度は三匹ほどの狼たちが氷柱を飛ばしてくる。三方向から飛んでくる氷柱を避ける為に後ろに行くのではなく一歩斜め前に進む。


 それでもギリギリの所で避け切れずにわき腹に一本の氷柱が掠める。皮膚が軽く切れただけだが、それでも少し血が流れる。


「しくったか」


 さっきの狼のうち一匹が飛びかかってくる。でもさっきまでと同じように突っ込んできているはずなのに何かが違う。全身で感じる。嫌な予感を感じる。寒い訳でもないのに悪寒がする。


 今度は避けるのではなく槍を突き出して、迎え撃つ。


 そして狼と当たる直前に何かに激突する。


「ぐぁあああああああ!!!」


 そのまま槍が弾き飛ばされ、俺の手からも吹き飛ぶ。俺も尻もちをつくように倒れる。


驚いている暇なんてなく狼が突っ込んでくる。俺は身体を丸めて狼の下を転がるようにして何とか避ける。しかし狼には触れなかったはずなのにローブの一部が破れる。


 一体何が起きたんだ? 俺の槍は一体何に弾かれたんだ? それに何がローブを破いたんだ?


 知識が足りない。この世界における知識が足りない。現象を解析するための知識も、理解するためだけど知識も全てが足りない。


 悔しい。そして自分に対してどうしようもない怒りを感じる。この世界に来てからずっと混乱していて世界を理解しようとするだけの、学ぼうとするだけの、知識を得ようとするだけの余裕が無かった。


「自分に対してぶちギレるのはこの狼をぶっ飛ばしてからだ」


 地面に手をついて砂を拾って、再度突っ込んでくる狼に向かって投げつける。今度はまともに当たったがそれぐらいじゃあ怯むような奴らじゃない。


 今度は後ろからも狼が突っ込んでくる。五匹ぐらいの狼が俺を囲むように構えている何匹で突っ込んできて、避けた所を間髪いれずに突っ込んでくる。


 何だよ。こいつら本当に獣かよ。馬鹿みたいに統率がとれてるじゃねえか。


「隙がねえ」


 今の所ギリギリでかわしているけど、このままジリ貧って感じだ。しかもこのまま時間が経てばどんどん狼が集まってくる。集まってきた狼が交代で氷柱を撃ちながら俺を攻撃していく。


「本格的にヤバいかも。いや、かもじゃなくてマジでヤバい」


 他力本願で悪いけど。アリアナ早く助けてくれ。


 そしてとうとう避け切れずにフードごと頬が裂ける。そして狼の勢いに負けて倒れる。


 追撃されると思い、急いで立ち上がるがどの狼も攻撃してこなくなった。そしてどの狼もこちらを凝視している。


 そして、そのまま攻撃せずに森の中に戻って行った。どうやらアリアナの方も同じらしく全ての狼が森の中に戻って行った。


「一体何が起きたんだ?」


 訳が分からず俺はその場に立ち尽くしていた。





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