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5話 最弱、露店商にあう




「はあ、やっぱり俺の世界とは全然違うな」


 現在、剣士の案内で島の市場の見学中である。違うとは思っていたがやはり結構違う。


 俺の世界で言えば市場というよりフリーマーケットなどの路上に店がたくさんある感じだ。


「そんなに違うのか?」


「全然違う。俺の世界では一つのでかい建物中にたくさんの業者がいるって感じで、こんなに普通の人たちがたくさんいない感じだ」


 少なくともこんな感じに一般の人たちが敷物の上にある簡易な店の前で買い物をしている感じではない。


「なるほどな。そんなに違うのか。それで何か買いたいモノはあったか?」


 買いたいモノならたくさんある。正直言ってここにあるモノ全部買いたい。


 売っているモノはどれもこれも見た事も無いモノばかりだ。


 食材は奇妙な形や色をしているし、日用品と思われるモノはどれもこれも面白そうだし、武器の類は全部かっこいい。


 でも、それをこいつに言う訳にはいかないし。出来るならこいつに貸しは作りたくない。


 一緒に来てくれたのがせめてあの姫ならまだ良かったのだか、あの姫は外に出るのは面倒だとか言いやがって結局案内役はこいつになった。


「まあもう少し見てから決めるよ」


「そうか。だったらもう少し見てみるか。それとも一人で見て周るか?」


「あらかた案内してもらったし、少し一人で見て周るよ」


「そうか。だったらあたしは行かせてもらう」


そう言って剣士は一人で今来た方向に戻って行った。


「俺も見て周るか。金ないけど」


見て周るだけでも十分楽しいし、良いけど。


そう思いながらぶらぶらと歩き始める。


「さてとどの店を見ようかな」


食材の類は見ても食えなきゃつまんないし、日用品は主婦っぽい人たちが群がっているし、武器は何だかヤバそうな人結構いるし。


「あそこら辺の店が面白そうで空いているかな」


ある一角だけ人が一人もいなく、妙な雰囲気を醸し出した若い男が売っている店があった。


そのまま歩いて店の前まで行く。


「いらっしゃい。何か御求めのモノはあるかい?」


「いや、何かおすすめのモノありますか?」


片膝をつきながら店の前に座る。


店主の男は眼深い帽子を被って、眼の色も髪の色も見えない。


声色からして若い感じはするが、何処となく正体不明って感じがする。


「だったらこれ何かどうだい?」


そう言って色々ある品の内から訳の分からないモノを渡してきた。


にして、この店は一体なの店なんだ。置いてあるモノに統一性がまったくない。


食い物や日用品、武器まで置いてあるけど中は明らかに用途不明のモノがある。七色に光る立方体や褐色のビンは小刻みに不可解に揺れてるし、透明のビンの中には眼玉が浮いている。


そして、俺に渡してきたのは一冊の本だった。


「これは開けても平気なモノか?」


「ああ大丈夫だよ。運が悪くても世界が滅ぶだけだから」


「なんだ世界が滅ぶだけかってふざけてんのかよ!!!」


軽く言ったけど世界が滅ぶんだぞ。こいつアホかよ!


「はははは! ちょっと君が面白いそうだったからね。からかいたくなったんだよ」


「何がからかいたくなっただ。死ね」


渡されていた本を思いっ切り投げつける。


でも男はそれを軽々と受け止めて、また飄々とした雰囲気を醸し出しながら言う。


「なに。君が余りにも変わった眼と髪をしていたからね。君は人間なのにエルフやドラゴンの神獣(しんじゅう)と呼ばれるモノ達しか持っていない黒を持っているのだからね」


神獣。神の獣か。そんな神話上のモノしかもっていないとされているのか。この黒は。


「君は人間かい? それとも化け物かい?」


「俺は人間だ。まごうこと無き人間だ」


俺は断言するように言う。どれだけ言われても俺は只の人間だ。


「そうかい。だったら人間なんだろう。しかし君は面白いねえ。本当に面白いよ。君の運命は面白そうだよ。いや、この場合は君がこの世界の運命を面白くしているのかな」


不気味だ。この男は不気味すぎる。こんなのが人間なんて思えない。俺の眼にはこいつが化け物にしか見えない。


「あんた何者だよ。俺にはあんたがまともな人間には見えない。異常すぎるぐらい異常だ」


俺がそう言うと男は顔が引きつるほどの笑顔で答えた。


「なに君と同じだよ。只の人間さ」


その言葉に身体が勝手に反応していた。反射的に、機械的に、持ってきていた槍で男に向かって下から上に振り上げていた。


躊躇なんてなかった。只、全身が恐怖で縛られていたけど、だからこそ身体がこいつを殺そうと動いていた。


確実に当たると思った。避けられるタイミングでも無ければ、受け止められる事も出来ないと思った。


でも結果は最悪だった。


「まったく君は危ないな。この帽子気にいっていたんだけど、裂けちゃったじゃないか」


帽子のつばを裂いただけだった。つばが裂けた隙間から見えた髪と眼の色は白と赤。俺を殺した少女と同じ色だった。


「お前は何者だよ。何でお前がその髪と眼をしているんだよ」


「その質問はまたいずれ。君が帽子を裂いた所為で彼女たちにばれてしまったからね」


俺の耳に風を斬るような音が聞こえ、頬が裂け血が出る。


男は横に一歩避けて、その見えない斬撃をかわす。


「まったく妙な気配がすると思ったら、なんでお前まで居るんだ?」


「剣士!!!」


俺の頬を裂いた斬撃を放ったのはさっきまで一緒に居た剣士だった。


「始めまして。聖剣(せいけん)の騎士アリアナ=メノルさん」


男がそう言うと剣士は驚いたような顔しながら言う。


「おい! お前、あたしの名前を教えたのか?」


「そもそもお前の名前、今知ったわ!」


こいつの名前は今初めて知った。アリアナ=メノルだっけ? 初耳だし。


「そうだよ。彼からは聞いていないよ。僕は何でも知っているんだよ。この世界の事ならね」


「お前は一体何者だ!!!」


 剣士大声で叫びながら、再度剣を振るう。


「なに只の人間だよ。それじゃあね。僕は行くところがあるから。さようなら、異世界の少年、富士見万人君。そしてこれは餞別だよ」


 俺に何かを投げつけて来る。


 俺はそれを片手で受け止める。


 そして男は店と共に煙のように消えて行った。


「おい、あの男はなにを渡してきたんだ?」


 そう言われて受け取った包みを開けてみると其処には真っ黒な腕輪(ブレスレッド)が入っていた。




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