21話 最弱、投獄される
「おい、坊主。一体何をやったんだ?」
「さあ? 一応罪名は国家反逆罪だけど身に覚えがないんだよねえ」
「ぎゃはははは!!! お前、こんな牢獄に捕まっておいてそれはねえだろう」
「ですよねえ。俺もそう思いますよ」
何で俺は牢獄で捕まっているのだろう。だってありえないだろう。俺の人生どこで間違えたのだろう。ちょっと前までただのどこにでもいる高校生だったのに。
それがいきなりわけの分からない奴に殺されて、わけの分からない世界に飛ばされて、バカみたいな奴らの戦いに巻き込まれて、ボロボロになって、怪我もろく癒えない内にこんなことになって、マジで最悪だ。
これも全部、あの毒舌のお姫様の所為だ。それは三日前のことだった。
「単刀直入に言います。今回の宿の宿泊費でお金が尽きました」
船に乗り、港町に着き、宿を取り、部屋で休んでいた時にいきなりそんなことを言われた。
「これでは王都を攻め落とすこともできません。なのでしばらく金策に走りたいと思いたいですが、いいですか? と言うか文句はある人は言う前にお金を出してください」
そこまで言われると何も言えないと言うか、文句はないし。
「それで金策って一体何をするんだよ? なんかアテでもあるのか?」
「わたくしはあなたのような低能とは違うんですよ。故にアテはあります」
うわ、相変わらずの毒舌っぷりだな。今さら目くじら立てる気もないが、でもこんな毒舌ばっか吐いて一国の姫としてはいいのかなあ。
「姫だからわざわざ庶民相手に着飾る必要はないんですよ。ましてはあなたは人間以下のゴミムシですから」
「毒舌を治せとは今さら言う気はないけど、せめてナチュラルに人の心を読むのはやめてくれ」
にしても、どうやってこいつは心を読んでいるんだ? 読心術ってのを使っているのか?
「別に読心術など使わなくても、あなたの場合顔に出ているんだと思いますよ」
アリアナが呆れたようにこちらを見ながらそう言った。いや、そんなに俺って顔に出てるのかなあ?
「まあ、いいや。で、どんな金策があるんだよ。お前のことだから真面目に働くわけじゃあないんだろ」
あんまり犯罪的なことには関わりたくはないけど、すでにこいつらと一緒にいる時点ですでに反逆者的な立ち位置だしなあ。
「まったく失礼なゴミムシね。わたくしが犯罪的なことを今までしたことがあると思っているのかしら。ちゃんと非合法的なお仕事でろ銀を稼ぐに決まっているじゃない」
犯罪的ではないが非合法的ではあるんだな。それって何が違うんだ?
「そりゃあ、アレだろ。ルールは破らないけど、ルールに書いてないことはどんな事でもやるってことじゃろ」
今までずっと床で丸くなって寝ていたミサナにすら心を読まれる俺って、そんなに顔に出ていたのだろうか。
「それで姫様、結局どうするんですか?」
「やはり短期間で高額のお金を稼ぐにはギルドからの依頼を受けるのが手っ取り早いですわ」
「なあ、ギルドって何だ?」
そう言った瞬間に三人して冷やかな目で見られた。何で一々話を腰を折るんだ的な視線を向けられた。
「まあ、一応あなたは異世界から来たんでしたよね。ギルドと言うのは簡単に言えば雑用集団です。具体的に言えば、お金に見合えば殺人から犬の散歩まで何でも依頼をこなすんですよ」
「何でも屋の集団と言うより、ならず者の集まりって感じだな」
今までの話の印象からすると相当法的に違法な行為もするみたいだし、傭兵とかそう言う概念に近いモノがある気がする。
「まあ近からずとも遠からずってところでしょうね。でも中にはちゃんと真っ当な依頼を受けている人もいるから全部が全部そう言う奴らばかりじゃないでしょうけど」
だけど大半はそう言う奴らなのか。何だか面倒くさいなあ。
「それじゃあゴミムシも理解できたみたいですし、さっそく行きますわよ」
アリアナとミサナもリミルについて行くので、俺も慌てて立ち上がり後ろを付いて行った。
そして町の中心街まで行き、ある屋敷の中に入っていた。なんか屋敷から漂う気配がヤバい。脳内で危険警報が鳴っている。
「なあ、アリアナ。俺、外で待っていてもいいか? と言うか待たせて貰いますけどよろしい?」
「よろしいわけがあるか!」
ゴン!
俺の頭から中々良い音が鳴って、視界に星が浮かんだ。ふらつく俺をそのままアリアナとミサナが両脇をガシッとしっかりと抱えて、連行された。
屋敷の中には数人しかいなかったが、その数人からの気配が明らかに一般人離れしている。簡単言えば、全員が戦闘モードのアリアナと同じ気配だ。
先に入っていたリミルはカウンターみたいなところに居て、受付嬢みたいな女の人と話していた。無論、受付嬢の人の気配もヤバい。
「あら、ようやく来たのね。その様子だと遅かったのはやっぱりゴミムシのせい見たいね」
前から気になってたけど、そのゴミムシって俺の固有名詞にするの止めて欲しいだけどなあ。まあ言っても無駄だろうけど。
「これがあなたのパーティーのメンバー全員ですか?」
「ええ、そうですけど。何か問題がありますか?」
「いいえ、何も。ただの確認です。それではこの紙にパーティーとメンバーの名前とリーダーの人に印をつけて下さい」
書類を受け取ったリミルは迷うことなくサインしていく。まあ、俺に渡されてもこの世界の文字書けないんだけどね。リミルはそのまま最後まで一人で書き切るとこちらに一切見せることなく受付嬢に渡してしまう。
「はい、これで申請は終わりです。初めてと言うのでランクはEです。ランクと言うのはあくまでも目安ですからこのランクしか受けられないと言う訳ではないです。最後にどのような事故が起きても自己責任です」
「ええ、もちろん。それぐらい分かっていますわ」
「最後の言葉にすっごく同意したくないのは俺だけなのか?」
リミルは何もツッコミを入れなかったけど、どう考えてもその一文おかしいだろ。
「何を言っているの? 自分の尻は自分で拭うのは当たり前のことです」
「そうじゃよ。自分の身ぐらい守れんような奴は何をしようとダメなんじゃよ」
アリアナの言葉もミサナの言葉も二人とも正論だ。でもそれを厳しいと思えてしまうのは俺が甘いだけなのかもしれない。だから誰に言うまでもなく無意識に近いうちに言っていた
「まあ生きてきた世界がそもそも違うんだよな」
今までも多少感じたズレが今回はかなり明確に感じられた。もの思い耽りそうになった俺にいつもの毒舌で目が覚めた。
「それがどうしたのよ。ゴミムシの感覚が違ったところでやることには変わりないのよ。それともあなたがもっといい金策をやってくれるのならそれでもいいのですよ。具体的には身売りとか」
「さあ、やろう。すぐやろう。一分一秒が惜しい。時は金なりだ」
身売りよりはマシだ。いやどっちも命懸けなのは変わらないけど、それでもまだこっちの方がマシだ。
「そう。ようやく全員やる気が出てきたみたいだし、手始めにこれぐらいの依頼でいいかしら」
そう言いながらボードの貼られた多くの紙から一枚を取ってカウンターに渡す。
「へぇ~! まあ、あなた達がいいなら、それでいいや。はい、承認」
少し驚いた表情をしてから、受付嬢はニタニタと笑いながら大きなスタンプを押した。
「なあ、アリアナ。あいつが持っている紙に書かれているランクって幾つになっているんだ? もちろんEだよな」
「何を言っているんだ? もちろんAだ」
うわ、予感的中だよ。俺が意気消沈していると、受付嬢がニタニタしながらこっちをみている。
俺はそのままミサナとアリアナに引きずられながら入って来た時と同じような格好で出て行った。




