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1話 最弱、化物と戦う


「一体ここはどこなんだぁああああああああああああ!!!!!」


辺り一面砂。砂。砂。人影どころか文明のぶの字すら見えないほど何もねえ。


 さっきから小一時間ほど歩き続けているのに景色は何一つ変わりやしねえ。


 もう疲れた。ここらでもう一度状況整理と行くか。


「全くわけが分かんねえぞ。つうか、俺は死んだんじゃねえのかよ」


 そもそもあの急に現れた少女に俺は心臓ごと抉られて死んだんだと思っていたんだが、現状は違った。


 気が付いた時にはこの訳のわからん砂漠の中で横になっていた。


 胸には傷はなかったが、あの出来事が夢だったとは到底思えない。


 だったら、俺は死んだのか?


「でも、死後の世界が砂漠ってのは聞いたことがねえなあ。だとするとこの世界は本当に何なんだ?」


 訳が分かんねえ。


 歩き疲れたんで少し停まって考えてみたけど全然分からん。


 やっぱり考えれば考えるほど分からない点が浮き彫りになって来る。


「前提が不明なんだよな。まず俺が死んだのか生きているのか。この点が不明な以上考えても分からないか」


 でも、どうやってその不明点を解決するかだよな。


「手っ取り早い方法はやっぱり人を探すのがいいんだが、それが見つからないんじゃあどうしようもないよな」


 歩き続けるしかないか。当てもないけど。


 面倒だがとりあえず歩き始めようとした時だった。


 ドォォォォオオオオオオオオオンンンンンンンンン!!!!!!


 強烈な旋風が俺の身体を砂の上に押し倒す。


「!!! 一体に何だよ!!!」


 訳が分からなかったが砂の上に倒れた状態で首だけを動かし轟音がした方向を見る。


モクモクと上がる土煙と鎧のような甲冑を身に纏い、剣を持った人々。


 だけど、他には見えたもう一つのモノは理解できなかった。


「と言うか何? たとえるなら龍とかドラゴン?」


 その鎧を着た兵士が戦っていたのは龍によく似た生物だった。


 でも、明らかに俺が知っている龍とは違う。大きさも良いとこ10メートル前後しかなく形も龍の身体に百足のような足を付けた感じである。


 さてとこれからどうするべきだろうか?


 人から情報を得たいところだが、俺はあんな化け物と戦っているような連中と一緒に戦うだけの力はない。


「つうか、普通の一般的な高校生に戦闘力を求めるなよ。幸い、向こうの連中はこっちには気づいていないみたいだし。ゆっくりと傍観させてもらうか」


 砂の上は少々居心地は悪いが巻き込まれたら100%死ぬだろうからな。


 それに比べたら全然ましだ。


「にしても、あの龍もどきもあり得ないが戦っている奴らもあり得ないよな。軽く見積もっても2、3メートルは飛んでるよな」


 兵士の数はざっと見ても十数人って所だろうか。その全員が普通の人間どころか軽く人体の限界を超えまくった動きをしている。


「空中を蹴って動いたり、瞬間移動したり。ワン○ースかよ。うわ! 今度は刀から炎出しやがった」


 もはや、この世界が完璧なまでに俺が居た世界ではない事を自覚した。


今までは半信半疑ではあったが、こんな物理法則を捻じ曲げた現象は俺の居た世界では絶対に起きない。


 まあ、あんな化け物も俺の世界にはいないとは思うが。


「って、あれ? 何でこんなに静かになってるんだ?」


 さっきまでドッタンバッタン戦闘の音が止んでいた。不気味なほどの静けさを取り戻していた。


 急に辺りが暗くなる。その瞬間俺は走っていた。頭が理解するよりも先に身体が動いていた。


 ドォォォオオオオオオンンンンンンン!!!!!


 俺がさっきまでいた所の地面が弾け、粉塵が突風と共に舞う。突風に身体を押され、こけそうになるのを必死で堪えながら走り続ける。


 俺がちょっと考え事をして、眼を離している間にあの強い兵士たちは全員遣られたのだろう。


 そして、あの強いであろう兵士たちを全員倒した化け物が俺を見つけて襲ってきている。


「くそぉおおおおお!!! どうすりゃあいいんだよ!!!」


 まともに遣り合っても勝てる気がしない。かと言って逃げ切る事も不可能だろう。


「こんな所で死んで堪るかァああああああああああ!!!」


死にたくない。もう二度と死にたくない。


考えろ! どうすれば生き残れるのか!!! 勝たなくても只生き残れれば良い!!!


 命以外なら腕だろうが足だろうが全て失ったとしても命だけは失いたくない。


 それぐらいの覚悟で挑め!!!


 後ろから急な圧力が来る。身体を捻りながら横に倒れるように避ける。


 俺の真横を龍もどきが通り抜ける。そのまま頭ごと地面に埋まる。


「今のうちだ!!!」


俺は近くにあった荷台(おそらく兵士たちの乗り物)の陰に隠れる。


 どうやら走っている内にさっきまで兵士が戦っていた場所に来ていたようだ。


 まずは状況の整理だ。


 あの化け物は土の中に頭ごと突っ込んだりしている所から見ても、其処まで知能は高くないだろう。


 俺がこの状況で生き残るには少なくともあの化け物から逃げる必要がある。普通に逃げたのでは駄目だ。だから、多少なりとも化け物にダメージを与えて行動を制限してから逃げる。


でも、あの化け物が俺が知っている生物と同じ構造で動いているとは限らないし、やっぱり殺せるのなら殺しておきたい。


 そのためにどうする。考えろ。俺の力だけじゃあ勝てない。それだけは明白だ。でも、俺の味方になってくれる奴なんていない。だったら、周りにある物を利用するしかない。


幸い周りにはさっきの兵士たちの武器やら荷やらが散らばっている。俺に使えそうな物は鎖、剣、槍、楯の武器の類ぐらいか。後は訳のわからん薬品のビンや書類束。飛び道具はないか。


 今、隠れている荷台の中を漁ればもっと出て来るかも知れないけど探している間にガブッと行かれる可能性も十分にあるし。


 後はこの道具を使ってどうやって化け物にダメージを与えるかだ。


「まったく思いつかねえ」


 グギャァオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


何時の間にやら化け物が地面から抜け出したらしい。


「くそが。もっとゆっくりとしてりゃあ良いのによお」


 急いで荷台の陰から飛び出し、その場から逃げ出す。


 俺が隠れていた荷台ごとさっきまでの場所が龍もどきの尾が振るわれ破壊される。


 あの場所は龍もどきからは見えない位置にあったはずなのに的確にその場所を破壊した。


「つまり、あの龍もどきには視覚に頼らなくても俺の居場所が分かるってことか」


 蛇とかのピット器官みたいに周りとの気温の違いから判断したのか、それともまったく別のものか。


 ゆっくりと考えている暇もなく、龍もどきは身体を縦にしながら空中を飛行しながらこちらに飛んでくる。


「何が起きてんだよ!!! 何で地面が割れてんだよ!!!」


 明らかに龍もどきが動いた事で生まれた空気の流れとは異なる何かが砂の地面を裂くように砂漠の砂を斬り裂いている。


俺は高速で近づいてくる龍もどきの攻撃を横に飛ぶようにして回避する。


 龍もどきの生みだした爆風によって身体ごと地面を転がる。


 寝ている暇はない。急いで立ち上がり旋回して再度こちらに向かってこようとする龍もどきの身体をよく観察する。


「見つけた!!! あれが地面を裂いた正体か!!!」


 龍もどきの背中の一部からよく見なければ分からないほど薄い膜のような羽が生えている。おそらくあの羽がこの柔らかい砂を斬り裂いていたんだろう。


「薄いとは言っても俺の身体が当たったら、それだけで身体が斬り裂くぐらいの威力はありそうだけどな」


 紙で指を着るのと同じ原理だろう、幾ら薄くてもあの速さで来られたら俺身体ぐらい真っ二つだ。


「でも、あの羽で体勢を保っているのだとしたらあの羽が狙いどころか」


対称的に生えている二枚の羽。あれのどちらか一枚だけでも捥ぐことが出来ればあいつは空を飛ぶことが出来なくなり、地を這うはめになるだろう。その時こそあいつを倒すチャンスだろう。


 たとえ、倒す事は出来なくても羽さえ捥ぐ事が出来れば、少なくとも飛ぶ事は出来なくなれば逃げる事は出来るかもしれない。


「そのためにはまず羽を捥ぐ方法を考えねえとな」


 そこらに散らばっている武器を俺がこのまま武器として使っても無駄だろう。 そんなで勝てるようなら俺じゃなくてあの兵士たちが勝っているだろう。


 足りない。今のままじゃあこの化け物を倒す為の何かが足りない。


「くそ!!! また来やがった!!!」


旋回しながら飛んでくる化け物の羽を回避する。


「このままじゃあマジで死んじまうぞ」


地面に手を置くと固いモノが手に当たった。砂の中から取り出してみるとそれは薬のビンだった


「これはあの兵士たちが運んでいた荷の一つか?」


 じっくりと観察している余裕はなかった。今度は尾を俺に向かって薙ぎ払ってきた。


避けたものの余波だけで俺の身体は吹き飛ばされる。


 柔らかい砂の上だったのが幸いして、地面を何度が跳ねるようにしてようやく止まる。


「痛ッ~~!!!」


 ピチャッ


「!!!!! 何だよ、びっくりしたなあ」


一瞬、血が流れ出したのかと思ったがよく見ると、持っていたビンから中の液体がこぼれ出していただけだった。


 ほっとはしたが、このままだと本当に血が流れても可笑しくない状況である。そう考えると自分の弱さに対して無性に苛立ってしまう。


「ちっくしょう!!! どうすればいいんだよ!!!!!」


 思いっ切り地面に拳を振り下ろす。そんなことを何の解決にもならないのは分かっているでも、そうでもしないと冷静でいられそうもなかった。


 ガギィ!!!!!


 柔らかい砂の中からは決してしないであろう音がして、取り出して見るとそれは剣だった。おそらく兵士たちが使っていたものであろう。それが龍もどきが暴れ回った事で砂が持ち上げられ埋まってしまったんだろう。問題はそこではなかった。


重なって繋ぎ止められた2本の剣。元々は1本であったのであろう剣が周りの砂と一緒に繋ぎ止められていた。


「何でこんなことになっているんだ? 周りの砂ごと剣が繋がっている」


 よく観察してみると繋がっている部分に俺が持っている液体の同じ色をした固体が付いていた。もしかしてと思い、俺はさっき付着した液体の付いた手を見てみる


 それをみて確信を得た。急いで周りを見てみる。あるのは長めの鎖数本と短めの鎖が数本。剣が3本、長めの槍が1本。


「見えた。この化け物をぶっ倒す方法が」


 立ち上がり、向かってくる龍もどきに向かって啖呵をきる。


「おい、よく聞け化け物!!! 俺はてめぇをぶっ倒す!!!」


 グギャァオオオオオオオオ!!!


 咆哮をしながら頭ごと突っ込んでくる。それを横にかわしながら、落ちている長い鎖と短い鎖を拾いながら走って剣が落ちているとこまで向かう。


 前回、奴が頭を突っ込んだ時は次の攻撃まで約1分かかった。今回も同様に時間がかかると考えて仕込みの時間は1分が限界だろうな。


 落ちている剣の一本を地面に突き刺して、其処にさっきの薬をばら撒く、長い鎖の先に刺した剣を柄を結び、其処にも薬を垂らし固まらせる。 逆側の長い鎖に短い鎖ともう一つの長い鎖を2本とも結び、これも固まらせる。最後に残りの2本の剣を鎖の先と繋げる。


「よし!!! これで完成だ!!! 後は設置するだけだ」


 走り出した所で龍もどきも出て来たらしい。予定していた時間よりも20秒ほど早い!!! 出来るだけ鎖が張るように設置したい。でも間に合うか?


「くそ!!! 考えてる暇はねえ!」


 しょうがないが今いる位置に2本とも剣を突き刺す。


 そうした時に突っ込んできた龍もどきをかわす。


「うぎぃいいいいいいいい!!!」


 地面に埋まっていた剣が化け物が突っ込んできた衝撃で宙を舞い、俺の腕を裂く。赤い筋のような傷跡が出来る。服の上から傷口を押さえながら走り出す。


 すっげえ痛いけど此処で立ち止まって呻いている暇はない。そんな事をしていたら死ぬ。死にたくない。


「死んで堪るかぁああああああああ!!!!!!」


 後ろで龍もどきが身体を縦にして薄い羽根で地面を切断していく。


 この攻撃だ!!! これを待っていた!!!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 咆哮を上げながら全力で駆けだす。走る方向は仕掛けを設置した所。間に合うかどうかはかなりギリギリ。間に合わなければ俺は死ぬ。間に合ったとしても仕掛けが上手く発動しなければ死ぬ。


 どちらにしても余り高い確率ではない。


「でも、俺みたいな最弱が、こんな化け物(チート)に勝つには命の一つでも賭けなきゃならねえだろぉおおおおお!!!!!」


 そして、思いっ切り仕掛け飛び越え、そのまま横に避ける。


 鎖を羽で押しながら、龍もどきが俺の真横を抜ける。撓んでいた見る見るうちに張っていき固定していない方の剣が抜ける。


 それでも進み続ける化け物の羽に短い方の鎖がどんどん進んで行き、そのまま繋がっていた剣が龍もどきの胴に突き刺さる。


クキャァアアアアアアアアアアアア!!!!!


 龍もどきが悲鳴のようなものを上げるが、これだけでは終わらない。そのまま繋がっている長いほうの鎖が反動で羽の付け根に巻き付き、剣の部分が突き刺さる。


それでももがく様に進み続ける化け物は自分自身の力で羽にどんどんきつく鎖が巻きついていき。とうとう羽がもげる。


 グキャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!


「これで終わりだぁあああああああああああ!!!!!」


 地に落ちてもがいている龍もどきの顔面に向かって、思いっ切り飛びあがる。拾った長い槍の狙いを目玉に定める。そして、全身の力を籠めて槍を振り下ろす。


「死にやがれぇえええええええええええええええええ!!!!!」


 グキャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!


 俺の槍は目玉ごと龍もどきの頭を貫通する。血が滝のように溢れだし、全身にかかる。それでも刺した槍を引き抜き、それを杖に立ち上がる。


「よっしゃぁああああああああああああ!!!!!」


 何で俺が生きているのか、何でこんな世界に居るのか。分からない事はたくさんあったが、只まだ生きている事が嬉しかった。




「はあ~。混合獣(キメラ)を魔術も慶術(けいじゅつ)もなく倒すなんて。何者なのかしら?」


 私の領土に勝手に入った馬鹿な兵士どもが居たから実験も兼ねて混合獣を放ったのだけれど、まったくの想定外だ。


「着ている物も変わってるし、髪の色と眼の色は漆黒。一体どこの国住人よ? まあ、良いわ。誰であろうと私の実験を邪魔したツケは高くつくわよ。でも、今回は良い見世物を見せてもらったしとりあえず見逃してあげようかしら」


 あの少年は何者か。それが一番今は気になるわ。家に帰って、調べなくちゃ。


「さようなら。名も知らない少年。あなたはこっちに気づいていないみたいだけど、これがあなた私を繋ぐ運命になるわ。またいつか会いましょう」


 私は声も聞こえていないであろう相手にそう言って去って行った。




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