14話 最弱、失敗する
まったく最悪だ。この世界に来てから最悪の連続だ。いい加減にして欲しい。
いきなり訳のわからん少女に殺されて、意識が戻った時には砂漠だった。挙句、変な化け物に殺されかけて、何とか助かったと思ったら、毒舌姫に罵倒されたり、剣士に殺されかけた。
この島に来てからも露天商の奴や狼、そしてミサナ。碌なことがない。あいつの所為で三階からダイブとか良く死なずに済んだものだ。馬車に落ちた時は本当に死ぬかと思った。よく肋骨数本ですんだよ。
状況の確認、小さな個室のベットで寝かされている。そこは寝室と言うより、ホテルの一室と言う感じだ。とりあえず起き上がると背中とわき腹、肩の三ヶ所に激痛が走る。身体を摩ろうとするとそこには包帯が巻かれていた。
はて、俺はこの包帯が巻けなくてあんな状況になった気がするんだが、違っていたのか。いや、違っていない。さっき回想をしたばかりじゃないか。だったらこの包帯は誰が? というかここはどこだ?
そう思っていると扉が開き、誰かが入ってきた。
「あああ! 起きましたか! 身体の方は大丈夫ですか? と言うか、何でわたしの馬車に振ってきたんですか? 髪と眼が黒いですけど何者ですか? もしかして人間じゃなくて神様とか!? これはもしや善行をしたわたしの願いを叶えてくれるフラグ!!!」
思い出した。俺が落ちた馬車の持ち主のハイテンション女だ。この傷口に沁みるようなハイテンションな口調と声は忘れようがない。
「とりあえず、黙れ」
「な、何ですか! 命の恩人に向かってその態度は! 血みどろになって馬車で倒れていたところをこの部屋まで運んで手当てしてあげたんですよ!!!」
「感謝はしているから少し声を小さくしてくれ。全身傷だらけなんだよ」
本当に傷口が開きそうだ。まあ、助けてくれたことには感謝している。実際に手当てされなかったら出血多量で死んでもおかしくなかったから。その点は本当に感謝している。
「わかりました! だったら先の質問に答えて下さいよ!」
全然分かってねえだろ、こいつは。にしても、何処まで話すべきか。と言うか、まともに話しても信じては貰えないだろうし。どうするべきか、とりあえず当たり障りのないことを言うか。
「まず俺は普通の人間だ。神様でも無いし、落下系のヒロインでも無い。髪と眼が黒いのはただの地毛だから気にするな」
まあ他の世界の人間だとか、魔法の類が使えないとかは言わなくてもいいだろう。
「それじゃあ何で! 馬車に落ちてきたんですか? それも血みどろで!」
そう言えばあいつらどうしただろう。あの三人が暴れたらあの宿ごと吹き飛びそうだからなあ。あそこから逃げられて本当によかったなあ。命賭けたかいがあったものだ。と言うかここはどこだ?
「なあ、ここは一体どこなんだ? 少なくとも俺がいた宿じゃないだろ」
俺がいた部屋はもっと広かった気がするし、部屋の構造も全然違うからあいつらがいる宿じゃないだろ。
「? あなたがどこの宿に居たのかは知りませけど、ここはあなたが落ちてきた馬車の前にあった宿ですよ」
その時ノック音が響く。嫌な予感がする。と言うかどう考えても良い予感がしない。命懸けで地獄から抜け出したと思ったけど、どうやら考えが甘かったみたいだ。
「まだ地獄だったのか」
「一体誰がきたんだろう? まあ、いいや。待たせる訳にもいかないので少し失礼しますね」
どうする。どうすればいい。まだ最悪な状況とは決まっていない。でも、もしも最悪な状況だったらどうする。そんなの決まってる。
「逃げる。それ以外、生き残れる手があるとは思えない」
幸いしてここは一階みたいだし、安全に窓から逃げ出すことができる。そうと決まればさっさと逃げるか。 ベットから降りて窓のそばまで行く。
そして窓枠ごと窓がぶっ壊れた。窓があった場所には特大の氷柱が刺さっている。そして俺の首元にはレイピアが突きつきられている。
「やっと見つかったわね、このゴミ野郎。ついさっきまで感知魔法にもかからないから、どうせ無様に気絶でもしてたんでしょう」
「だったら何でここが分かったんだよ」
あくまでも冷静な振りをして問いかける。ここで無駄な動きをしたら、間違いなく俺の身体は首と身体が別れるだろう。後、身体に風穴が開くだろう。扉の前に立っているミサナが右手で喧しい女を押さえつけて、左手でこっちを狙っている。
「あなたが窓からダイブした後、わたくし達三人は話し合いをしました。そして一つの結論に辿り着きました」
「その結論はあれだけ殺し合いをしていたお前らを共闘させるようなモノなのか」
この状況は異常なほどおかしい。リミルとアリアナはミサナと殺し合いをしかけていた。その状況から抜け出す為に三階からダイブしたんだ。それが今は共闘して俺を殺そうとしている。
「わたくし達が辿り着いた結論はとりあえずあなたの捕獲または殺害です」
最悪な結論だ。一体どうしたらそう言う結論になるのだろうか。過程が気になるけど追求する時間もないからな。にしてもこの場合、俺はどうするべきだろうか。
「で、俺は捕獲されるのか? それとも殺すのか?」
「「「殺す」」」
三人そろって答えるなよ。どうするべきか、と言うか俺には最初の選択肢が殺害か捕縛ってなんだよ。それで俺に選択権がないのも最悪だな。
「ちょっと待ってくださいよ。その人を殺すんですか! と言うか、あなたたちは何者!!! 訳が分からないんですけど!!! なんでこんな美人さん達が揃いも揃って殺害願望があるんですか!!! やっぱり、そこの人は特殊な人なんですね! あなたはいったいなにモノなんですか!!!」
いきなり現れた三人にあっけにとられていた自称俺の命の恩人さんはようやく元に戻り、さっきと同じ超ハイテンションでマシンガントークをしてきた。
「彼女は誰ですか?」
リミルは全てを無視して、こっちに話を振ってきた。
「ちょ、ちょっと!!! 無視しないでくださいよぉ!!! やっぱり答えらえれないということはこれは特殊な人物なんですね!!! ってよく見たら、あなたはメネリウス王国の第一王女リミル=二アク=メネリウスさんじゃないですか! 何であなたのような没落したとはいえ王族が! 一体なぜ!!!」
そう言えば本人から姫だって聞いてたけど、それ以外の人間からここまで詳細に聞くのは初めてだな。にしても何でリミルは何時も俺に言うみたいな毒舌であいつを黙らせないんだろう? そう言えばアリアナにも毒舌を言っていないよな。
なんでだろう?
「さっさとあの女が誰なのか答えてください。このゴミ以下の屑が」
「一応、俺の命の恩人かな? まあ、あくまでも一応だけど」
命の恩人であることは変わらない。感謝はしている。
「一応とは何ですか!!! 懸命に介護してあげたじゃないですか! って話を逸らさないでください! あなた達は一体何者なんですか!!!」
「姫」「兵士」「神獣」「異世界人」
それぞれがそれぞれの答えをする。何と言うか答えだけ聞くと頭の可笑しな連中だよな。RPGのパーティーとして考えたらバランスが悪すぎるな。てか、こんな答えじゃ納得しないだろ。
「なるほど。姫様と兵士と神獣、それに異世界人ですか。なるほど、なるほど。おもしろいですね!!! 愉快すぎるパーティーですね!」
「納得するんかい!!! もっと疑えよ! 明らかにおかしいだろ!」
素直に納得した姿を見て、あまりアホみたいでついツッコンでしまった。嫌だって普通こんな簡単に信じるなよ。疑う要素がありまくりじゃねえか。自分のことは言え異世界人ともっと驚けよ!
「イヤだって本人がそう言っているんだからそうなんじゃないですか? え、それとも違うんですか?」
「あっているけどさあ。お前ってやっぱアホだろ」
「な!!! 酷いです! と言うかあなた達は一体何で私の部屋で大暴れしているんですか?」
そんなのこっちが聞きてえよ。
「このゴミムシを捕獲する為ですよ。それじゃあ目的を果たした所でさっさと回収しますか」
その一言を切っ掛けに俺の首に鋭い衝撃が走り、身体中の力が抜けていく。そのまま意識までもが遠退いて行った。
「さすがですね。ゴミムシ退治はやはりあなたが適任でしたね。アリアナ」
やっぱりアリアナだったか。レイピアの位置は変っていないから逆の手で俺の首筋を叩いたのだろう。一撃で人の意識をかるのってすごい技術がいるってなんか聞いたけど、さすがだなあ。と場違いにも感心していきながら意識を落としていった。




