プロローグ
時は2XXX年。
日本社会は、ある問題に頭を悩ませていた。
それは何か?――再犯である。
刑期を終え、刑務所から出所した元犯罪者たち。その一部が再び犯罪に手を染め、さまざまな事件を引き起こしていた。
窃盗、詐欺、傷害、殺人。
事件が報道されるたび、世間の声は厳しさを増していった。
もちろん、すべての出所者が再び犯罪を犯すわけではない。それでも、相次ぐ事件によって人々の不安は膨れ上がり、ここ最近では国民による大規模なデモが相次いでいた。
「政府は何をしているんだ!」
「これ以上、安心して暮らせない社会を放置するつもりか!」
国民の怒りは、事件を起こした元犯罪者だけでなく、再犯を防げない政府にも向けられていた。
このままではいけない。
国民の不満が高まれば、政府への信頼は失われ、政権の存続さえ危うくなりかねない。国民の団結が揺らぐこと、そして何より、自分たちの評価が下がることを恐れた政府は、対策を迫られた。
しかし、今までの対策を続けるだけでは、国民を納得させることは難しい。目に見える成果を示し、政府が再犯問題に本気で取り組んでいると印象づける必要があった。
そこで政府は、悩みに悩んだ末、ある政策を打ち出した。
その名も――『罪人たちへのQ&A』。
この政策は、刑期を終えて出所した元犯罪者を配信者とし、国民から寄せられた匿名の質問に回答させる公式配信である。
過去に犯した罪について。犯罪に至った経緯について。出所後の生活について。そして、更生や再犯について。
元犯罪者本人の口から語られる言葉を公開することで、国民の疑問や不安を解消し、犯罪や更生について考える機会を提供する。政府はそれを、再犯防止に向けた新たな取り組みとして掲げた。
だが、質問のすべてが採用されるわけではない。寄せられた質問の中から、実際に配信で取り上げるものを選ぶのは政府だった。
政府はこれを、誹謗中傷や個人情報の流出を防ぎ、配信を適切に運営するためだと説明した。
しかし、その裏には別の事情もあった。
政府にとって都合の悪い質問や、責任を追及されるような質問を取り上げなければ、国民の目を政府自身に向けさせずに済む。配信の内容を管理することで、政府は自らの立場を守ることができるのだ。
国民のための政策。再犯防止のための取り組み。
そう掲げられた新たな配信は、果たして本当にその目的を果たすのだろうか。
そして、配信者となった元犯罪者たちは、匿名の質問に何を語るのだろうか。
今日もまた、質問が寄せられる。
――『罪人たちへのQ&A』、本日の配信が始まります。




