祭りのあとの、さらなる狂騒…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
昨日の「放送事故」という名の、あまりにも派手すぎる宣伝活動から一夜が明けた。佐賀県武雄市にある第2SS学園では、廊下を歩く七海和歌に向けられる視線が、昨日までとは明らかに異なっていた。それは、お嬢様への敬意というよりは、未確認飛行物体を目撃した直後のような、困惑と好奇心が混ざり合ったものである。
和歌の一人称は「わたくし」。彼女は背筋を伸ばし、周囲の喧騒を一切無視して校門を抜けた。だが、心の中は荒れ狂う有明海の荒波のようであった。
「……もう、楠木さんのせいで、わたくしの高貴なイメージが台頭する前に崩壊してしまいましたわ。どう責任を取っていただくつもりかしら」
武雄の英雄を自称する彼女にとって、この不名誉な注目は耐え難い。だが、同時に彼女のスマートフォンには、これまでとは比較にならない数の通知が届いていた。それは、MUⅡプロダクションの公式SNSへのフォロワー増と、サーガ・サーガ(SAGASAGA)内での彼女のチャンネルへの登録通知である。
一方、鹿島市の「潟ら辺」に住む鹿島幸来は、自宅の縁側で一人、デジタルデバイスを眺めていた。彼女の一人称は「わたし」。癒やしと幸運の特異点と呼ばれる彼女の元にも、楠木プロデューサーの失策が生んだ「幸運」の余波が届いていた。
「なんだか、通知が止まらないぉ。楠木さん、大丈夫かな」
幸来は、心配そうに空を見上げた。彼女の穏やかな日常は、この放送事故をきっかけに、急速に加速しようとしていた。
サーガ・サーガ(SAGASAGA)の熱狂と、初仕事の号令
人類の夢を凝縮した仮想空間、サーガ・サーガ(SAGASAGA)の第三レイヤーは、かつてないほどの同時接続数を記録していた。完成から二年目を迎えたこの世界は、昨日の一斉配信事故を「公式のサプライズイベント」だと誤解したユーザーたちによって、一種の祭り状態となっていたのである。
MUⅡプロダクションの本社スタジオに、メンバーたちが続々とログインしてくる。
「おいおいおい。あたいのゲーミングPCのファンが、見たこともない回転数で回ってるぜ。この同時接続数、あたいが昨日まで戦ってたGRAND FINALの決勝戦より多いんじゃないかだぜ」
超絶ゲーマー、山本マキが虹色に光るポーチを叩きながら現れた。一人称は「あたい」。彼女はメタツッコミ担当として、スタジオのモニターに映し出される異常な数値を冷ややかに見つめていた。
「わお! マキちゃん、幸来ちゃん、ログイン成功デース! 今日は、楠木さんから『初仕事』の連絡が来てるデース!」
フランスからの留学生エマ F. クサックが、スタジオのメインモニターを指差した。その横には、三瀬峠の土着神の末裔、三瀬かえるも不機嫌そうに鎮座している。
「あっち退くケロ。あたちの神聖なログイン時間を邪魔する奴は、三瀬峠の沼に沈めるケロ」
かえるの一人称は「あたち」。見た目は子供だが、その毒舌は今日も健在であった。そこへ、第2SS学園からのダイブを終えた和歌が、息を切らして合流した。
「皆様、お揃いですわね。それで、楠木さんはどこにいらっしゃるのかしら。わたくしのプライドをズタズタにした責任を、きっちりと追及しなければなりませんわ」
和歌の剣幕に、スタジオの空気が一瞬凍りつく。その時、スタジオの奥にある隠し扉から、一人の女性が飛び出してきた。
「お、お待たせしました! 皆様、聞いてください! 昨日の事故のおかげで、Sカンパニーから『初仕事』の予算が下りたんです! 内容は、サーガ・サーガ(SAGASAGA)内での『特産品サンプリング・パレード』です!」
楠木こころは、タブレットを抱えたまま派手に転び、そのまま和歌の足元まで滑り込んだ。
どんぶり勘定と、おっちょこちょいの奇跡
楠木こころは、MUⅡプロダクションのプロデューサーであり、おっちょこちょいな気質を持つ女性である。彼女は立ち上がると、ずれた眼鏡を直しながら、必死に企画書(の断片)を説明し始めた。
「昨日の『デジタル・ふなっこ』二百万個の誤発注……あれを逆手に取ります! サーガ・サーガ(SAGASAGA)の広場に特設ブースを作って、鹿島、武雄、三瀬の魅力をアピールしながら、希望するユーザーにデジタルクーポンを配りまくるんです!」
楠木こころの目は輝いていたが、マキの目は死んでいた。
「楠木さん……。そのクーポン、まさか『どんぶり勘定』で全ユーザー分発行したんじゃないだろうなだぜ」
「……え。あ。一人一枚だと思って、サーガ・サーガ(SAGASAGA)の全アクティブユーザー分を予約しちゃいました。まあ、足りないよりはマシですよね!」
楠木こころの言葉に、スタジオには絶望的な沈黙が流れた。だが、その沈黙を破ったのは、フランスのクサック村からログインしていた杠みよ(ゆずりは みよ)の声だった。
「楠木さん、フランスでもこのイベント、宣伝しておきました。アイリスさんも、クサック村の広場に特設ゲートを作って待っています」
「みよちゃん、なんてことを……! 世界中にあたいらの恥とクーポンを晒すつもりかだぜ」
マキが頭を抱える中、幸来が優しく微笑んだ。
「いいじゃないぉ。みんなでハッピーを届けるチャンスだぉ。わたし、鹿島の美味しいものをたくさん紹介したいぉ」
「ふ、ふん。仕方がありませんわね。わたくしも、武雄の誇りにかけて、この無謀なパレードを成功させてみせますわ。……ただし、楠木さん。後でわたくしの衣装のクリーニング代、経費で落としていただきますわよ」
和歌が扇子を広げ、メンバーたちの士気が(無理矢理に)高まっていく。
地方ののんびりした日常が、プロデューサーのドジと、メンバーたちの個性が混ざり合い、サーガ・サーガ(SAGASAGA)という仮想空間を揺るがし始めていた。彼女たちの「初仕事」は、果たして地方創生の第一歩となるのか、それともさらなる伝説的な放送事故の幕開けとなるのか。
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【MUⅡプロダクション 運営日誌より】
①本日の進捗:
・初の公式イベント「サーガ・サーガ特産品パレード」の開催が決定。
・山本マキ、パレード用のフロートの物理演算を独自に強化。
・鹿島幸来、配布用のデジタルふなっこに癒やしのエフェクトを追加。
②本日のアクシデント:
・楠木プロデューサー、クーポンの割引率を「一割」と「十割」で間違えて入力しそうになる。
・三瀬かえる、パレード用の音楽をヘヴィメタルに書き換えようとして未遂に終わる。
③楠木プロデューサーの一言:
「間違えて配ったクーポンから、新しい経済が生まれるって、Sカンパニーの誰かが言ってた気がします!」
この物語は完全にフィクションであり、実在するVtuberの知っていただく目的で執筆したコメディーラノベです(笑)「#鹿島幸来」「#やまもとゆき」「#vtuber」で検索してみてください。良かったら、応援してあげてください。
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