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マリオネット・チルドレン

掲載日:2026/01/02

 夕暮れ時、大型都市の中に立地しているファミレス。老若男女を問わずに訪れるので店舗の中は大変賑わっている。

 喧騒に包まれているファミレスの一角。そこに3人の女子中学生の姿があった。彼女達の名前はそれぞれ環奈、美穂、真希。所謂、仲良し3人組というやつである。

 そしてまた、環奈、美穂、真希はクラスメイトであり、同じバレー部にも所属していた。しかし、彼女達の振る舞いはどこか同質的であり、顔立ちも似たり寄ったりである。

「ねぇねぇ、今度の週末、カラオケに行かない?その後で買い物もしよ?」

 週末の予定について環奈が提案する。彼女は行動力に溢れており、3人の中でもリーダー的な存在である。

「いいね、いいね!」

「あたしも賛成~」

 環奈の提案に対して美穂と真希も賛同する。お互いに趣味や嗜好が近しいためか、特に異論はなかった。

「隣のクラスの子、先輩に告白したんだけど振られたんだってさ」

「えっ、マジ!?」

「うわぁ~気の毒」

 関係のない色恋話で盛り上がる環奈と美穂と真希。女子生徒達で色恋の話は定番であり、それがこちらと関係のない第3者のものとなれば、格好のエンターテイメントであった。

「そう言えば、舞の奴、転校しちゃったよね」

 ふと、不満げな様子で言葉を漏らす環奈。今しがた話題になった舞とは彼女達とクラスメイトであり、同じバレー部員でもあった。

 しかし、環奈達は舞のことを快く思っていなかった。その理由は彼女がバレー部の顧問から評価され、さらには贔屓されていると感じたからだ。

 このため、環奈達は舞を排除しようと試みた。クラブ活動ではそれとなく邪魔をし、意図的に仲間外しを行ったことがある。時には彼女が仏事へと出かけたことも笑ったりもした。

 その後、舞は他の学校へと転校してしまった。どうやら、彼女の母親が嫌がらせに気がついたようである。幸いにも、環奈達の戯れは社会的に露見しなかったが、都合の良い遊び相手もいなくなってしまった。

「結局、舞って根性ないよね」

「そうそう、逃げ出すなんてさ」

「あはは、完全に負け犬だよね。あんなんじゃ、どこに行ってもやっていけないよ」

 この場にはいない舞のことを冷笑し、さらには侮辱する環奈達。仲の良い友達同士のお喋りであるが、その中身はまるで無味乾燥と言えた。

 その後も飲食をしながら会話に興じている環奈と美穂と真希の3人。彼女達の姿はまさしくダス・マンに他ならなかった。


 ファミレスでのお喋りが終わった後、仲間達と別れて帰宅の途に就く美穂。大勢の歩行者達、客を呼び込もうとする従業員、けばけばしい広告が街を彩っている。ある意味、高度化した資本主義社会を象徴する景色とも言えよう。

 そして、街中を歩く美穂自身、とてもつまらなそうな表情をしていた。確かに仲間達と共有する時間は楽しい。しかし、1人になってしまえば、ただ退屈だけが待ち受けている。

 不意に美穂の背中に真っ黒な人物が浮かび上がる。まるで幽霊のようにも見えるが、姿形は彼女とそっくりである。

「(クスクス……可哀そう)」

 真っ黒な女が美穂のことを冷笑する。かつてのクラスメイトの舞を冷笑したのと同様、彼女自身も幻に冷笑されているのだ。しかし、当の本人が動かされることはない。それもそのはずである。己が冷笑されていることに気がついていないのだ。

「(あはは、あんた、本当は舞のことが羨ましいんじゃないの?)」

 真っ黒な女が美穂に問い掛けてくる。実際、女の指摘は正しかった。例えば、バレーの技量は彼女よりも舞の方が上であった。嫌がらせの大元は単なる妬みからである。

 しかし、真っ黒な女からの指摘に対し、当の美穂は答えることをしない。否、まともに向かい合うことさえもしていなかった。

「(……)」

 真っ黒な女の前に1つのビジョンが映し出される。それは転校する舞がクラスメイト達に別れの挨拶を行う光景であった。

 転校する直前、舞は祖父の法事へ行っていたのだと言う。同じ頃、美穂達は遊園地で娯楽に興じていた。

 そして、法事から帰ってきた舞はどこか違って見えた。何かを乗り越えた顔をしていた。少なくとも、今の美穂にはできない顔である。

 やがて、真っ黒な女は姿を消す。しかし、女が完全に消えることはない。実存する美穂とは表裏一体の存在だからだ。

 不機嫌そうに歩き続ける美穂は思う。この世界はつまらないし、満たされない。渦巻く不平不満を解消しようと、商品と快楽の消費をひたすら続ける。

 同質的な共感と繋がりの中で生きる美穂には何もなかった。それはまさしく空虚であると言えるだろう。しかし、彼女は己が空虚であることさえも自覚していない。

 虚仮の人間関係の中、愚にもつかぬ商品で刹那的な欲求を満たし、薄っぺらな日常を過ごしていく。その様は資本主義社会におけるマリオネットに他ならなかった。


 分からない。知らない。できない。知ろうともせず、話し合おうともせず、戦おうともせず、人を冷笑することしかできない少女。

 しかし、人は何時までも今のままでいられる訳ではない。ありとあらゆるものは必然的に変わっていく。何もない空虚だからこそ、少女自身、知識や技能を習得し、精神を発達させることのできる可能性を宿している。

しかし、その一方で空虚であるが故、悪意につけ込まれ、さらには取り込まれる危険性も孕んでいる。

 未知に包まれた人生をどう生きていくのか。それは彼女自身の選択に委ねられていると言っても過言ではなかった。

皆さんお疲れ様です。

ここまで読んでいただきましてありがとうございました。

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