第4話:Doubt(嘘)
「……うぅ」
原付きバイクのヘルメットを被ったままの、学ラン姿の一人の男子学生が目を覚まし、起き上がる。自宅のベッドとは懸け離れた硬い床。目を凝らし辺りを見渡しても薄暗く、寝起きの視界では何も見えない。
「ここは……?」
目が慣れてくると、次第に部屋の全容が見えてくる。数十センチ角のタイルが散りばめられた床。壁面、天井も同じタイルで構成された、立方体状の部屋。窓はない。かわりに、10個の扉が怪しげに構えている。部屋には照明が無いのに、常夜灯が点いているかのように、何処からともなくぼんやりと光が差している。
―――異様な空間。
この空間を異様たらしめる最大の理由。それは大量にある扉も一因ではあるが、中央に鎮座するブラウン管テレビの存在感が、一際異彩を放っていた。
「夢……じゃねぇな。確か、バイトに行く途中だったはず」
ヘルメットを脱ぎつつ、ポケットから画面のひび割れたスマートフォンを取り出す。だが、画面は真っ暗なまま。電源が入らない。
「なんだなんだ、事故って異世界転生ってか?」
ふと、足元を何かが小突く。
「……マジかよ」
足元に寝転がるのは、隣の高校のセーラー服をまとう見知らぬ女学生。先程までの自分と同じように、すぅすぅと寝息を立てている。
そう。彼は気付いていなかっただけ。同じ環境に押し込まれたのは彼だけではない。若い男女10名が、そこにいた。
――――――
部屋に閉じ込められた一同、全員が目を覚ましたのを知ってか、部屋の中央に鎮座するブラウン管テレビが、ブン、と音を立てる。
『グッモーニン!』
陽気なBGMと共に、画面下から仮面が飛び出る。
『みなさん、こーんにちわー!この部屋の主、セブンといいます!』
明るい茶髪に不自然なほど似合わない白の仮面。その下からは赤青の縞模様の入ったオーバーオール。少しだけオーバーサイズの手袋で手を振るセブンの姿は、さながら子供向けTV番組の「歌のお姉さん」、あるいはサーカスの「道化師」を彷彿とさせる意匠の衣装。先ほど死神さんから与えられた衣装である。
―――
一部演出、参加者の反応は異なるが、ここまでは概ね予定通り。いつもと同じ展開だ。
モニタ越しに参加者へ話しかけるセブンの姿を、死神さんは見つめていた。
「今回のキャラクターも、似合ッてるゼぇ……」
死神さんは、セブンに聞こえないくらいの声で低く喉を鳴らした。
―――
『さてさて、今からみんなにやってもらうのは、嘘や矛盾を見抜くゲーム。名付けて「シミュってダウト!」!』
パパーン、と、少し時代を感じる効果音と共に、ゲームタイトルがモニタに表示される。
『クリア出来た人は元の世界へ帰してあげます。クリア出来ないと……』
ピタリと、BGMが止まる。
『……死んじゃいます』
明るい声のまま、セブンは淡々と告げる。参加者の青ざめた表情を一通り眺めると、セブンは口調を変えず続ける。
『じゃ、ルール説明ね!みんなにはそれぞれ、自分の扉の先に入ってもらいまーす!』
スポットライトもないのに、部屋の扉だけが明るく照らされる。扉にはそれぞれ、参加者の名前が書いてある。
『その部屋の中ではあるシチュエーションをシミュレーション。みんなにも与えられた役割を演じてもらいます!その途中、「嘘」や「矛盾」、それらをダウトと呼びます。そのダウトを5つ探し出すゲームです』
モニタには、どこかで見たフリー素材を組み合わせたものでルールが説明されていく。
『シチュエーションは3周まで可能!早く5つのダウトを見つけた人が勝利!上位3人にはSoVを贈呈しちゃいます!』
「間違えた場合は?」
『いわゆる「おてつき」は1回だけOK!2回目のおてつきでゲームオーバー!……さて、ルールは以上!ほかに質問がなければこのまま始めちゃうけど、用意はいいかな?』
「……ひとつ、質問いいか?」
最初に目の覚めた男子生徒が手を挙げる。
『どうぞ?』
「その『5つ』が嘘である、なんて事はないよな?」
『……なかなかいい質問だね』
セブンは、仮面の唇に人差し指を当てるジェスチャーをする。
『んふっ。私はゲームマスター。ルールには嘘はつけない、ってね』
「……わかった」
そう言うと男子生徒は自分の名前の書かれた扉にいの一番に入っていく。
『良い旅を〜!』
ポケットからわざとらしく白いハンカチを取り出し、ヒラヒラと振り見送る。
次々と、参加者が扉の向こうへと消えていく。最後の参加者が扉に入るその様子を見届けたセブンは、未だ明るく光ったままの扉を見つめ、小さく呟いた。
「ルール「には」、嘘はつけない、んだよね……」




