01:奴隷になった大切な思い人は、彼は他の男の【生きたラブドール】になっていました
【注意】
本小説は、
戦場で凍えた心に、人のぬくもりを ~戦場の恋人、ウォー・ラバー~
を読まれた前提で書かれています。
シリーズにしてありますので、リンク先から飛んでください。
「はい、皆さん。今日もお掃除、頑張りましょう」
「はい!頑張ります!!」
レムスは、自身と同じ借金奴隷達と一緒に声を上げた。
彼は現在、貴族が通う学校の掃除係として働くことになっている。
もっとも、現在の彼の立場は奴隷。
トイレ掃除等の他の掃除係がやりたくないような場所の掃除がメインとなる。
とはいえ、犯罪を起こして犯罪奴隷になった者とは違い、返済不可の借金を背負って働く借金奴隷なので、上司からの暴力や休み無しの24時間労働などは禁止されているので安心だ。
もっとも、楽な職場ではないし、やりたくない仕事なのは当たり前である。
ちなみに、ここにはリアはいない。
レムスとパーティを組んでいたリアは、背負った借金を分割して背負うことになった。
そして、国営奴隷売買市場において、高額で売られていったのだ。
ちなみに、レムスは外見しか能がない、と奴隷商人に判断されてリアとは違い安値で売られたのだった。
もしレムスが犯罪奴隷だったら変態貴族に売られたかもしれないが、借金奴隷ということで掃除係として売られたのだ。
悪くない働き先と言えるだろう。
二人がなぜ借金を背負うことになったのか。
それを説明するには、あの戦いの後の話をしなければならない。
二人はパーティを組んで、冒険者として金稼ぎをしながら旅をする……はずであった。
しかし、問題が生じた。
レムスが、戦えなくなってしまったのだ。
あの時の戦いで負った心の傷が癒えず、対人戦では矢を撃つこともできず、挙句の果てには小型草食動物の狩りでさえ撃っても外してしまうのだ。
あの戦いの前は出来たことなのに。
そんなだから、最近のレムスは店のウェイトレスをするなど、安価な仕事をするようになってしまっていた。
一方のリアは、冒険者として着々と成果を残そうとしていた。
一人でも、冒険者として冒険者ギルドの依頼を着々とこなしていったのだ。
しかし、遠くへ行ったり、数日かかる仕事をリアは受けなかった。
まだ心の傷が癒えないレムスは、夜リアと一緒ではないと眠れなくなったからだ。
だから、リアは必ずその日のうちの帰れる依頼しか受けなかったのだ。
しかも、レムスは夜のたびにリアにウォー・ラバー、つまり体の関係を求めた。
だが、それにも問題があった。
レムスはあっという間に自分だけ気持ちよくなって昇天。
気持ちよく自分だけ眠ってしまうのだ。
レムスは一度もリアをオルガズムに達せる事はおろか、勃たせる事すら出来なかった。
そんな暮らしをしつつ、二人はこのガルデリア帝国に訪れた。
リアはこの国に行くのを嫌がったが、この国は戦乱の世の中でも落ち着いた町が多いため、一休みにいいとレムスが提案したからだ。
実際、リアも戦いの日が続いていたため、王都によらない、人の少ない田舎町のみ訪れるという約束で入国した。
そして二人で暮らしていく中、何とかリアに認められたかったレムスは、焦りとお人好しな性格からあっさり詐欺師に騙されてしまう。
話を聞いたリアがすぐに詐欺に気づいたが時既に遅く、あっという間に借金奴隷に。
そして二人は別々の相手に買われ、現在にいたる。
そうしてレムスが掃除係として働いて約一月。
幸か不幸か、レムスはリアと離れる事で強制的に依存から解放されていた。
ある日。
学内が騒がしくなっていたので、レムスは先輩奴隷に声を掛けた。
「先輩。何か騒がしいですけれど、何かあったんですか?」
「ああ、なんでもクリストファー・ルーンフォールド公爵令息が今日からまた通われるらしい」
「こんなに騒がれるお方なんですか?」
「当たり前だ。公爵家の人間、さらに婚約者はこの国の第二王女だぜ。次期国王になる気はないらしいが、それでもお貴族様からすりゃ~粉掛けとくに越したことはねぇ。それに……」
「何ですか?」
「お前も見れば分かるが、その美しさは世界有数。クールで笑顔を誰にも見せないが、それもまたあのお方の美しさを引き立てるアクセントになっているんだ」
「そ、そんなに美しいお方なんですか?」
「ああ、俺も男に興味は無かったんだが、生まれて初めて一目惚れしちまったくらいだ。女房子供もいる俺がだぜ」
「そこまで……」
「まぁ、俺だけじゃねぇよ。老若男女も貴賤問わず、みんなあのお方に惚れるんだ」
ちょっとその貴族に興味がわいたレムスは、どんな顔だろうと想像ながらトイレ掃除をしていた。
そして、その日の夜。
「おいおい、大ニュース大ニュース!」
部屋に戻っていたレムスと他数人がいる部屋に、遅れてきた同室の最古参の奴隷が大興奮して入ってきた。
「ど、どうしたんですか、そんなに慌てて」
「お前ら、クリストファー様が登校されたのは知ってるだろう?」
レムス達は頷いた。
「驚け!なんとLLドールを一体連れていたんだよ!」
それを聞いたレムスの同僚達から「なんだって!」「嘘だろ!」といった阿鼻叫喚の悲鳴が上がる。
LLドール。
正しくは、リビング・ラブ・ドール。
つまり、生きた愛玩人形の事。
別に生きた人間を薬で洗脳するとか、そういったわけではない。
貴族は、自ら気に入った平民をLLドールにし、自らの傍に置くのだ。
この国発祥の制度であるが、外国で導入している国も珍しくない。
ちなみに、LLドールに選ばれる事はとても名誉な事である。
特に高位貴族のLLドールはその美しさのみならず能力も評価されるので、解任されても引く手数多。
もちろん、生涯買い主に付き添う者がほとんどだが。
ちなみに、LLドールを連れて登校する事は珍しくもなんともない。
LLドールを持っている貴族なら、常に傍に置く事は当然。
生徒どころか、教師ですらLLドールを連れている事は当たり前の光景である。
「で、どんな奴だ。そのうらやましい奴は。どこぞの豪商の子息とかか?」
「わかんねぇ。名前がアリアという事しかわからなかった。なんせクリストファー様と一緒に囲まれてたからな」
「くそ、残念だ」
「まぁ、そのうち遠くから見えるさ」
そんな話をしながら、夜はふけていった。
それから数日。
学校中がクリストファー・ルーンフォールド公爵令息(通称クリス)に注目の目を向けた。
正確には、彼のLLドール、アリアを含めて、だが。
ことに、クリストファーのアリアの扱いは騒がれることになった。
奴隷達が話していたように、彼が笑うところを見たものはいない。
もちろん、家族や婚約者に対しては笑っているのだろうが、見たものは各人以外いないし、彼らもいちいちどんなふうにクリスがどんなふうに笑うかを吹聴したりしない。
だが、現在の彼はどうだ。
アリアの肩を抱いて笑顔で話しかけ、楽しそうに笑い、その頬に口づけをする
まるで別人だ、と多くの人が思った。
もっとも、彼らはクリスの笑顔の眩しさ美しさに見とれてその場で固まってしまったが。
そんなだから、クリスを慕う貴族の嫉妬は当然LLドールへ向いた。
その理由は、見えるところでクリスがLLドールを大切に扱っているからだけではない。
LLドールの世話は、買い主である貴族本人が行うことになっている。
病気や、どうしても別行動をしなければならない時以外は、自身のメイドにすら手伝わせないのが普通だ。
それゆえに、LLドールが美しく着飾っているかは、買い主である貴族のセンスが問われる。
そしてアリアは、クリスのセンスの良さも相まって、美しく、そしていい匂いがした。
さらに、最も大事な事。
LLドールは同性でなければならない。
それは……買い主である貴族の性欲処理もLLドールの仕事だからだ。
補足しておくが、高位貴族になればなるほどLLドールを持っているものだし、LLドールを大切にできない貴族は無能扱いされる。
そして、体の関係を持つのは当たり前の事である。
むしろ持たない場合、どちらかの性機能に異常があるのでは?と言われるくらいなのだ。
ちなみに、クリスは持つのが遅れていたのだが、彼の場合は彼のお眼鏡に叶うLLドールが見つからないのだろうと思われていた、つまり例外中の例外である。
そんな彼がようやく見つけたLLドール、アリア。
常に傍に置き、誰もが見た事のない笑顔を向ける。
LLドールを大切に扱うのは当然だが、ここまで大切に扱うのは珍しい。
……もっとも、珍しいだけで溺愛する買い主はいる事はいるのだが。
そんな中、レムスが噂のアリアを見る事が出来たのは、クリスとアリアが登校を始めて約一月後の事だ。
ついに、貴族たちの嫉妬の炎が暴発したのだ。
ある一人の貴族が、アリアに勝負を申し込んだ。
こういった場合、勝負内容はLLドールの買い主であるクリスが決めるのがルールだ。
そして、その内容はLLドールが最も得意とする内容で行うことが普通である。
クリスは、剣を用いた決闘を提示した。
しかも、アリアは一人、相手は何人でもいいというルールで。
これを受けた貴族は、仲間と協力して凄腕の傭兵を何人も雇う。
そして当日。
近隣の闘技場を貸し切って、決闘は行われた。
そこにレムス含む奴隷達も呼ばれたのだ。
「でも、なんで僕達まで呼ばれたんですかね?」
「そりゃ、クリストファー様はご自慢のLLドールを見せびらかしたかったんだろ。にしてもわざわざ闘技場を貸し切ってやるかね~。相手は複数なんだろ?」
「あぁ。クリストファー様自ら一対多数を宣言したらしい。そのくらいアリアって奴を信頼しているんだろうな」
レムスの質問に気軽く答える同僚たち。
そんな中、ついに選手達が現れた。
まず現れたのは、アリアの対戦相手の傭兵達と、その雇い主の貴族たち。
「おいおい、あの傭兵、全員凄腕で有名な奴らだぜ」
「貴族の坊ちゃん方、本気かよ。言っちゃなんだが、たかがLLドールだぜ。嫉妬したからって、ここまでするかよ」
「こんな世の中だから、実力を確かめる意味もあるんだと思いますよ。ですけど、アリアという人がいくら何でも可哀そうです」
皆の反応に、アリアを哀れんだレムスが同情する。
レムスたちのような平民や奴隷はアリアに同情的だったが、貴族たちはアリアがひどい目に合うのを楽しみにしているようだった。
そうこうしているうちに、今度はクリスとアリアが現れた。
そのアリアを見て、レムスは顎が外れるくらい驚いた。
(……あれは、リア……だ……いや、違う?……違くない、あれはリアだ!!)
そう、アリアは、レムスのかけがえのない人、リアだった。
本来ならリアを見間違わないレムスが、思わず別人と思ったのは理由がある。
冒険者時代と違って、体がきれいになっていたり、髪に艶があったり、高価な服を着ているが、重要な所はそこではない。
リアは付き合いの長いレムスや今は亡き仲間の前では全くと言っていいほど笑わなかった。
リアといえば何があっても無表情。
どんな時でも冷静。
そんな彼が。
年相応の笑顔をクリスに向けている。
クリスと何かを話しながら、楽しそうに笑っている。
弓使いのレムスは目がいい。
その視力で、幸せそうに、そして楽しそうに笑うリアを見つめた。
(リア……君はそんな笑顔が出来たの?)
ショックを受けたレムスは、前のめりに倒れてしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
「な、なんとか」
同僚に支えられて立ち上がり、再び決戦の場を見る。
「しっかし見ろよ。あのアリアって奴。あんな細くてしかもまだガキじゃねぇか。あんなんで本当に強いのかね」
「あぁ。確かにかわいい子供だけど、でも強くは見えないよな」
そういう同僚達の声を聴きながら、レムスはリアを見る。
(いや、大丈夫だ。はっきり言って、リアの強さは一流なんてもんじゃない。一般的に凄腕と言われている傭兵くらい、リアの敵じゃない)
そして、その予想は的中する。
試合開始数分後。
地面にはいつくばっているのは、傭兵達。
アリアは傷一つ体につけることなく、勝敗は決まったのだった。
なぜか続編を書きたくなり出来たのが本小説です。
戦場で凍えた心に、人のぬくもりを ~戦場の恋人、ウォー・ラバー~
↑この小説、私が書いた小説の中でも一、二を争うくらい人気が無かったのに、なんで続編を書きたくなったか自分でも謎です。




