鎖と祈り
トーナメント三日目の朝、空は灰色に染まっていた。
コロシアムの鐘が雪の上に響き渡り、観客は次の戦いを心待ちにしながら席を埋めていった。
「次の対戦――!
鎖のガンナー、マグノリア!黄金の召喚士の代表!
対するは――
北方教会の祝福された巫女、セラ・フォン・エーデル!」
空気が重くなる。
一方、セラは白銀の鎧と銀のヴェールを纏って現れた。
彼女の剣は聖なる光を放ち、宙に浮かぶ十字架が守護のように回転していた。
彼女の歩みは、氷の上に光の足跡を残していく。
もう一方、マグノリアは自信に満ちた笑みを浮かべて登場。
黒のカウガールスーツは金属の縁で補強され、対照的に相手の清らかさを際立たせていた。
帽子の下からは赤く輝く瞳が覗き、腰にかけられた鎖が動くたびに音を鳴らす。
その腰には二丁のルーン銃、“双毒の蛇”が携えられていた。
観客がざわめく。
「人間の武器を持つ召喚体が……教会の選ばれし者に勝てるのか?」
ゴングが鳴る。
セラが手を掲げると、天から一筋の光が降り注いだ。
――「聖人の祝福:肉体の浄化」
マグノリアはくるりと回り、三発の弾丸を撃った。
一発は炎、一発は氷、最後は毒。
それぞれの弾が光の盾に当たり、火花を散らして弾けた。
セラが剣を掲げる。
「罪は信仰に勝てぬ!」
マグノリアが笑いながら、鎖の一本を宙に投げる。
その鎖は闇のエネルギーに包まれ、生きた蛇のように伸びる。
「じゃあ祈りましょ。――それぞれのやり方でね」
鎖は地面に打ちつけられ、聖なる剣に絡みつく。
セラは解こうとするが、マグノリアが体をひねって一気に引き抜き、剣を奪い取った。
セラが後退する。だがマグノリアはすでに目の前にいた。
至近距離から氷の弾を撃ち、セラの足元を凍らせる。
その氷が彼女の動きを封じた。
マグノリアが心臓に銃口を向けたが――動きが止まった。
その目に、初めて迷いが浮かぶ。
「私もね……信じてたの。私を壊したものを」
彼女が囁く。
「何を……?」セラがかすれた声で返す。
マグノリアは銃を下ろした。
「盲目的に仕えることが正義だと思ってた。
考えず、ただ従うことが強さだって。
でも今はわかる。強さって、選ぶことでもあるのよ」
セラは怒り、次いで恐れの眼差しで彼女を見つめた。
観客席は静まり返っていた。
マグノリアが鎖を握る。
鎖が赤い光を帯びて燃え上がる。
「ハルトは、私にもう一度チャンスをくれた。
今度は……無駄にしない」
鎖が嵐のように彼女の周囲を旋回し始める。
――「発動:チェインブレイカー・オーバードライブ」
すべての鎖が、炎、毒、氷の力を帯びて旋回し、金属の竜巻となった。
マグノリアは跳躍し、銃口を地面に向けてチャージ弾を発射。
その衝撃が地面を砕き、螺旋状の爆発が巻き起こった。
セラはその渦の中心に囚われ、結界を展開する暇もなく、魔力壁に叩きつけられた。
彼女の浮遊していた十字架が、真っ二つに砕け散る。
煙が晴れる。
マグノリアは膝をつき、荒い息を吐いていた。
セラは地に伏し、信じられないという表情で彼女を見ていた。
「あなたの……力は、冒涜的……」
「違うわ」マグノリアは武器を納めながら言う。
「これは、人間の力よ」
伝令官が杖を高く掲げた。
「勝者――黄金の召喚士代表、マグノリア!」
初めて、観客は召喚体に対し、恐れではなく――
敬意を込めて、拍手を送った。
マグノリアは帽子を取り、観覧席のハルトを見上げた。
「やっと……あなたが教えたかったこと、わかった気がする」
ハルトは上から、穏やかに頷いた。
「そうだ……その鎖はもう、縛るものじゃない。解き放つものだ」
隣にいたカオリが微笑む。
「不思議ね。戦えば戦うほど……召喚体たちは人間らしくなっていく」
アウレリアが続ける。
「だからこそ……より強くなるのかもしれないわ」
その夜、マグノリアはコロシアムの廊下でライラとカオリと再会した。
武器を磨きながら、彼女はぽつりと呟いた。
「ねえ……今日初めて、戦いの中に憎しみを感じなかった。
代わりに……目的を感じたの」
ライラが微笑む。
「それが、あなたを危険にするのよ」
カオリがうなずく。
「そして同時に……戦場で美しい存在にするの」
マグノリアは静かに笑った。
「じゃあ、やっと……この世界の一部になれたってことね」
外では強い風が吹きつけ、北方の旗が月明かりの下ではためいていた。
トーナメントは続く――
だが黄金の召喚士の召喚体たちは、もはやただの武器ではなかった。
彼らは、自らの意志を持つ魂だった。
――つづく。




