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祈りと鋼

コロシアム全体が静まり返った。

真昼の太陽が氷に反射し、アリーナの中央を照らしていた。

伝令官が杖を掲げ、宣言した。

「名誉のトーナメント、最初の公式戦！

ハープの少年、ダビド！

対するは、黄金の召喚士の魔導士、ライラ・フロストベイン！」

ざわめきが観客席を駆け巡った。

誰もが信じられなかった。あの恐れられたハルトに召喚された存在が、このトーナメントに参加するとは――

コロシアムの門から現れたのは、白髪で氷のように青い瞳を持つ女。

その背には霜で編まれたマントを纏い、歩くたびに氷の足跡を残していた。

その瞳は静かだったが――どこか、人間らしさが宿っていた。

「ライラ・フロストベイン」

「クラス：エピックランク召喚。

得意分野：元素魔法および気象操作」

観客が息を呑んだ。

ダビドは彼女の前に立っていた。背にはハープ、腰には投石器。あまりにも小さく見えた。

ライラは優しげに彼を見つめた。

「君は…この戦争の意味すら知らない年齢だ」

ダビドは怯まずに答えた。

「そしてあなたは…かつて自由だったことを忘れるほど強い」

氷の光がライラの瞳を走った。

観覧席の上、ハルトが目を細めた。

「面白い…召喚体ですら、過去を覚えているとはな」

ゴングが鳴った。

ライラが手を伸ばすと、地面から氷の嵐が巻き起こった。

無数の氷の槍がダビドに向けて形成された。

ダビドはハープを奏で始めた。

その旋律は、最初は穏やかに、やがて空気の振動を操る目に見えない波となり、いくつかの槍の軌道を逸らした。

共鳴の魔法――音の一音一音が空間を揺らす。

「どんな呪文だ…？」と観客の一人の魔術師が呟いた。

「魔法じゃないさ…信仰だ」と、もう一人が答えた。

ライラは容赦なく攻めた。

氷の竜を召喚し、咆哮と共に大地を打ち砕いた。

コロシアムが震える。

ダビドは壁に叩きつけられ、ハープは粉々になった。

観客の悲鳴。

それでも、少年は立ち上がった。

「祈るのに…楽器なんていらない」

彼は石を拾い、投石器に装填し、回した。

空気が震える。

素早い動きで、その石を放った。

石は氷竜の目を貫いた。

呪文が砕け、氷の破片となって崩れ落ちた。

ライラは一歩退いた。

初めて…ためらった。

「なぜ戦うの、少年？」とライラは腕を下ろしながら尋ねた。

ダビドは苦しげに呼吸をしながら答えた。

「誰も善を信じなくなったら…この世界は滅びるから」

ライラは彼を見つめた。

ハルトとの契約で刻まれた心が、微かに揺れた。

彼女は思い出した――あの旋律。雪に覆われた草原。復讐ではなく、希望と共に彼女を呼んだ人間の声。

観覧席の上、ハルトがゆっくりと立ち上がった。

「ライラ」と彼は風に乗せるように囁いた。

「誓いを忘れるな」

ライラの瞳が再び銀色に染まる。

気温が異常なほどに低下した。

地面はコロシアムの端まで凍りつく。

「発動――グレイシャル・ドメイン（氷結領域）」

ダビドは氷の牢に包まれた。

それでも、彼は微笑んだ。

「もし信仰で氷が砕けぬなら…声で砕く」

目を閉じ、歌い始めた。

その澄んだ声が結界を突き抜け、ライラのルーンが明滅する。

一瞬――呪文が揺らいだ。

ライラは両手を掲げ、自分よりも大きな氷の槍を作り出した。

その唇が震えていた。

「許して、小さな子」

「もう許してあるよ」とダビドは穏やかに答えた。

槍が振り下ろされ、白い光の爆発がアリーナを包み込んだ。

光が消えたとき、そこにいたのは、膝をつき、薄氷に包まれたダビドだけだった。

ライラは彼の前に跪き、手を胸に当てた。

「生きている」と彼女は静かに言った。

観客は黙り込んだ。

拍手すべきか、涙すべきか、誰にもわからなかった。

伝令官が杖を掲げた。

「黄金の召喚士、ライラ・フロストベインの勝利！」

だが、勝者として名を告げられても、ライラは顔を上げなかった。

ひとしずくの氷の涙が、少年の額に落ちた。

遠くからアウレリアが見守っていた。

「……召喚体さえも、変わり始めているのね」

ハルトは目を閉じた。

「信仰と慈しみ…それは危うい。だが、必要なのかもしれない」

カオリがうなずく。

「……あの子は負けていないわ。私たちが忘れたものを、思い出させてくれた」

風が吹き抜けた。

トーナメントはまだ始まったばかり。

だが、その最初の戦いが、すでに皆の心を震わせていた――

――つづく。