英雄の屋敷への襲撃
月光が冷たく邸宅を照らしていた。
庭園からは笑い声、グラスの音楽、そして軽やかな旋律が聞こえる。
その屋敷の中──
“太陽の勇者”と称されるミナセ・カイトは、黄金のソファにもたれながら、
王国の女性三人に囲まれていた。
「この世界の女神たちに足りないのは──
本物の男ってやつだな。」
その傲慢な笑みに、女たちはうっとりと笑い返す。
その魅力と地位に、心を奪われていた。
カイトの脳裏に、かつての日本での記憶がよぎる。
皆に慕われたキャプテン。
勝者であることが、当然だった少年。
その“役割”は、今この異世界で「王冠」となった。
彼は愛想を振りまき、酒を呑み、笑い続けていた。
かつての“英雄”は──
今や、絹をまとう暴君となっていた。
邸宅の外。
魔法の槍を持った衛兵たちが警戒する中、
風が木々を揺らし、不穏な気配が静かに満ちていく。
屋根の上を、一つの影が滑るように動く。
マルガリータ──
黒い帽子が月明かりに一瞬きらめく。
「……さて、掃除の時間だ。」
彼女は屋根から跳び、腕を回す。
黒い帽子が空を切り裂き、音もなく一人の衛兵の首を落とす。
ザシュ。
断末魔すらない。
帽子はブーメランのように彼女の手に戻る。
「……完璧。」
他の衛兵たちが駆け寄るも、
マルガリータの鞭が、金属の旋風となって襲いかかる。
一撃ごとに、乾いた音と共に命が消える。
速く、正確で、容赦ない。
森の奥から、冷気の波動が走る。
オーレリアが姿を現した。
その体は月光を浴びて銀色に輝き、
髪と瞳は鋼のごとく冷たく染まっていた。
その吐息は、霧と霜の竜巻をまとっている。
「コーン・オブ・フロスト(冷気の円錐)」
氷の波が通路を吹き抜け、
槍も壁も一瞬で凍りついた。
衛兵たちは動けぬまま、蒼き結晶に覆われて崩れ落ちる。
だが、オーレリアは止まらない。
「重力反転」
手を上げて囁くと、残った衛兵たちがふわりと宙に浮く。
彼らは上も下も分からぬまま──
空に放られ、地面に叩き落とされた。
星空さえ、震えているかのようだった。
その頃──
屋敷のメインホールに続く廊下を、
フードを被ったハルトが静かに歩いていた。
その一歩一歩が、まるで「判決」のように重く響く。
一人の衛兵が襲いかかる。
ハルトは体をひねって躱し、肘打ちで沈める。
乾いた音と共に、敵は崩れ落ちた。
魔法を放とうとする兵士に対し、
ハルトは掌から金のエネルギーを展開──
《再構成されたガチャの衝撃》で魔法を押し返す。
炸裂した球体が、敵を壁に叩きつけ、
その胸にはぽっかりと穴が空いていた。
彼は静かに手を下ろし、呼吸を整える。
「運に見放された?……今は俺が、運を支配している。」
第五章:英雄の失墜
ホールの奥、
カイトが外の騒音に顔をしかめる。
グラスが落ち、女たちの悲鳴が響く。
「何が起きてる!?」
立ち上がるその瞬間──
扉が爆ぜる。
煙の中から、マルガリータが現れる。
鞭を構え、口元に笑みを浮かべて。
「こんばんは、“英雄”さん。」
その後ろから、ハルトが姿を現す。
黄金の光を宿した瞳が、フードの影に沈んでいた。
カイトは凍りつく。
「お前……生きていたのか……!?」
ハルトの口元がわずかに歪む。
「死ねと願われても、運がそうさせなかった。
でもな、お前の“運”は、もう尽きた。」
その時、天井が割れ、オーレリアが舞い降りた。
銀の身体が室内を照らし、温度が急激に下がる。
カイトは剣を抜く。
「……裏切り者め!この世界から消してやる!」
ハルトは一歩前へ。
「できるものなら──やってみろ。」
運命を決する戦いが、今、始まろうとしていた。
――つづく。
襲撃が始まった。
ハルト、オーレリア、そしてマルガリータは、自分を裏切った英雄、水瀬海斗の屋敷への初襲撃を仕掛ける。
それぞれが持ち前の力、戦略、そして溜まりに溜まった怒りを露わにする。
復讐の糸口はついに形を成した。
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