ブラックチャラ
夜明けの光が岩の間から差し込み、
黄金の紋章が静かに輝いていた。
ハルトは、オーレリアが刻んだ召喚円の前に座っていた。
空気は張りつめ、抑えきれない力が脈打っているのを感じる。
「呼吸を整えてください」
オーレリアの声は厳しくも安定していた。
「マナを支配しようとしてはいけません。流れに身を任せるのです。」
ハルトは目を閉じた。
胸から腕へ──
見えない流れが身体を通り抜ける。
かすかだが、確かに存在していた。
「今です」
オーレリアがささやいた。
黄金の円陣が光を放ち、
符号が回転し始めた。
まるでカードがシャッフルされるように。
その力は激流のように彼を打ちつけ、
地面が揺れた。
《Heaven’s Lottery ── 人間型召喚:戦士タイプ》
眩い光の中から、ひとりの女性が現れた。
背が高く、堂々とした姿。
その存在感に、オーレリアでさえ静かに敬意を払った。
黒いチャロ風のスーツに、銀の刺繍が焚き火の光を受けてきらめく。
広いつばの帽子が、優雅な影を顔に落としている。
漆黒の長い髪が腰まで流れ、
その赤い瞳には、不屈の誇りと強さが宿っていた。
腰には銀と魔鋼で編まれた鞭。
背には、古い銃──ルーンが刻まれたカービン銃。
「──誰が私を呼んだ?」
その声は不思議な訛りが混じりつつも、旋律のように響いた。
ハルトは言葉を失いながらも答えた。
「……逢沢ハルト。僕が……君を召喚した。」
彼女は頭を少し下げ、わずかに笑った。
「私の名は、マルガリータ・アルバレス。黒衣のチャーラ。
幾多の戦に身を投じ、祖国が焼かれるまで戦った者だ。
……あんた、胸に火が必要そうだな。」
オーレリアは静かに見つめた。
「強い魂です、ご主人様。
ですが、目的なき力は、やがて腐ります。」
マルガリータは腕を組み、笑った。
「じゃあ、目的をくれな。」
それからの日々、ハルトは休まず鍛錬を続けた。
オーレリアはマナの流れを教え、
マルガリータはそれを戦いに変える術を叩き込んだ。
小さな召喚──剣、ポーション、松明──
それらですら、マナを削っていく。
練習が終わるたびに体は震えた。
だが、その目からは“壊れた少年”の影は消えていた。
そこには、新しい光──
決意が宿っていた。
ある夜、焚き火のそばで、マルガリータが口を開いた。
「訓練中、手が震えてたな。……怖かったんじゃないだろ?」
「違う。」
ハルトは炎を見つめながら言った。
「……あれは、憎しみと、誓いだ。」
マルガリータは笑みを浮かべた。
「憎しみは、壊すことも、鍛えることもできる。
どちらにするかは、鉄を握る手次第だ。」
オーレリアが優しく見つめる。
「……ご主人様は、どうするおつもりですか?」
ハルトは拳を握りしめた。
「俺は、もう“勇者”じゃない。
でも──
自分の居場所は、取り戻す。
たとえ、この世界を焼き尽くしてでも。」
その夜、ハルトは再び召喚円の前に跪いた。
自らのマナで紋章を強化し、
オーレリアに教わった新たな符号を刻み込んだ。
地面に浮かぶ魔法の地図。
ルート、地名、そして──
レイナ、サトル、アヤカ、カイト。
かつての“仲間”たちの名が示されていた。
「それぞれ、王国の一角を任されているようです。」
オーレリアが地図を見つめながら言った。
「──いいね。」
ハルトの声は低く、冷静だった。
「じゃあ……一番下から始めよう。」
マルガリータは帽子を持ち上げ、挑戦的な笑みを浮かべる。
「復讐計画かい、坊や?」
「違う。」
ハルトはきっぱりと言い放った。
「──正義の計画だ。」
焚き火の灯りが、三人の顔を照らした。
オーレリア──忠誠の象徴。
マルガリータ──戦の魂。
そしてハルト──“エラー”から、“世界の均衡を壊す異端”へと変わりつつある男。
運命は、今──回り始めた。
この章で、ハルトは二度目の召喚獣、黒キャラのマルガリータを受け取る。彼女は、その矜持に劣らぬ強靭さを持つ異界の戦士だ。
オーレリアとマルガリータと共に、ハルトは「ロイヤルガチャ」を制覇し、復讐を企てる。
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