届かなかった光 ― 勝郎の最期
森を包む静寂は奇妙で、ほとんど不自然だった。
ハルトは勝郎の遺体をエルフの神殿へと運んだ。そこでは、女神官アストラ・ノクス、香織、そして数人の妻たちが、彼の容態を安定させようとしていた。
エルフの賢者は彼の胸に光の結晶を置いた。
「彼の魂は砕け散った…そして彼の体も…」
ハルトは震える声で答えた。
「ならば、彼を癒せ。必要なことは何でもして。」
賢者は視線を落とした。
「ハルト。神に砕かれた魂は、古代の魔法でさえも再生できない。」
ハルトは拳を握りしめた。
「試してみろ!どんな犠牲を払おうと構わない!」
香織が彼の腕を取った。
「ハルト…落ち着いて…」
しかし、彼はそっと腕を離した。
「だめ…もう二度と彼を失うわけにはいかない…」
アストラ・ノクスは、冷静かつ真剣な表情で、アストラル安定化の儀式を始めた。
「もしエクリプスの穢れを封じることができれば…もしかしたら、彼の魂は再生するまで体内に留まるかもしれない…」
手錠が円を描き、エネルギーを統合した。
水晶が振動した。
空気が明るくなった。
一瞬…
効果があったように思えた。
勝郎の胸が上がった。
かすかな生命の糸が彼の中に蘇った。
香織は涙を流しながら微笑んだ。
「息をしている…息をしている!」
しかしその時…
彼の体が激しく反り返った。
彼の口から黒い煙が噴き出した。
水晶が一つずつ爆発した。
アストラは後ずさりした。
「だめ!神の穢れはまだ体内に残っている!」
セリンドラは叫んだ。
「溶けていく!」
ハルトはカツロに飛びかかり、彼を抱きしめた。
「カツロ、待って…待って!死なないで!」
カツロの目はかろうじて1ミリ開いた。
彼の瞳孔はもはや赤くはなかった。
それはハルトが覚えている人間の瞳孔だった。
「…ハル…と…」
ハルトは震えた。
「僕はここにいる。
僕は君と一緒だ。
大丈夫だ。
君は強い。
君は生き残れる…」
カツロは痛みに顔をしかめた。
「僕は…こんなつもり…じゃ…なかった…」
ハルトは死にゆく男の額に額を寄せた。
「わかってる。
君がそんなことを思ってなかったって、わかってる。」
カツロは血を吐いた。
腕を上げようとしたが、手が震えた。
ハルトは彼の手を握った。
「大丈夫。ここにいる。」
カツロの声は途切れた。
「許して…
こんなに…
弱かったことを…」
ハルトは絶望に首を振った。
「君は弱くなかった。
今まで弱かったことは一度もなかった。」
カツロは悲しげな笑みを浮かべた。
人間の笑み。
友の笑み。
「ありがとう…そう呼んでくれて…」
彼の手は力なく動かされた。
息が詰まった。
そして頭を垂れた。
神殿全体が静まり返った。
香織は口を覆い、泣いていた。
エルフの賢者は視線を落とし、儀式の言葉を唱えた。
アストラ・ノックスは戦士の死を悼み、目を閉じた。
セリンドラは跪き、初めて涙を流した。
ハルトは泣かなかった。
泣けなかった。
彼はただ、友の亡骸を抱きしめた。
長い間。
ついに、彼はかすれた声で呟いた。
「ごめん…カツロ。
到着が遅すぎた。」
冷たい風が神殿を吹き抜けた。
そして遠くから聞こえてくる笑い声――日食の神の声が、ハルトの心の中で一瞬響いた。
「警告しておいただろう、選ばれし者よ。全てを救うことはできない。」




