奈落の淵に立つ帝国 禁じられた選択
空からは、終わりなき奔流のように影が降り注ぎ続けた。
香織は短く荒い息を吐いた。
血――黒く、人間の血――が彼女の鎧を覆っていた。
「宮殿に近づけるな!」
マルガリータは塔の頂上から、稲妻のような速さでリロードしながら発砲した。
「甥たちには絶対に触れさせない!」
ライラ・フロストベインは氷の閃光のように体勢を変えた。
「白、白、白…!弾薬が必要だ!」
近衛兵たちは全力を尽くして戦った。
しかし、空の裂け目は広がり続けていた。
それはまるで目…
夜明けを飲み込む目だった。
宮殿の中で、オーレリアは赤ん坊たちを胸に抱きしめていた。
彼女の翼が震えた。
「お願い…ハルト…早く…」
双子は泣いていた。
フロストレインの口のきけない妹が、短剣を手に入り口の前に立っていた。
呼吸は穏やかだったが、その目には恐怖が滲んでいた。
そして、セリンドラの使者であるヴァイラリスは、宮殿を突破しようとしていた巨大な怪物を寄せ付けないように、暗い盾を掲げていた。
「もう…これ以上は抑えられない」と、彼女は声を張り上げて言った。
影が襲いかかった。
ドカーン!
地面が揺れた。
オーレリアは必死に目を閉じた。
秘術書庫の塔の中で、アストラ・ノックスは巻物、シンボル、そして遺物を調べていた。
「裂け目…はポータルじゃない。
それは世界の傷よ」と彼女は呟いた。
突然、彼女の目は衝撃で大きく見開かれた。
彼女は壁画に、まさにそのシンボルを見つけた。
蝕の束縛の封印。
古代エルフが伝わる禁断の呪文。次元の裂け目を封じることができる。
しかし、それには代償があった。
香織は塔に飛び込んだ。
「アストラ!事態は深刻だ!今すぐに何かが必要だ!」
アストラは震える手で巻物を掴んだ。
「…方法がある。」
汗をかき、傷だらけの香織が近づいてきた。
「何だ?」
アストラは彼女の目を見つめた。
「封印には触媒が必要なんだ…生命を。
力強い生命を。」
香織は胸に凍りつくような感覚を覚えた。
「いや…言わないで…」
アストラは目を閉じた。
「ハルトか。
私たちの誰かか。
それとも…あなたか。」
香織は一歩後ずさりした。
「私に…」
アストラは首を横に振った。
「もし誰かが犠牲になるなら…それは私よ。」
香織は彼の腕を掴んだ。
「だめ!ハルトの心が張り裂けそう!彼はあなたを絶対に許さないわ!」
アストラは叫んだ。
「何かしなければ、私たちみんな死んでしまう!
赤ん坊だって!」
香織は息を荒くしながら彼を放した。
その時、轟音が街全体を揺るがした。
巨大な影は総攻撃の準備を整えていた。
外からマルガリータが叫んだ。
「こんなの我慢できないわ!!!」アストラは本を開き、両手で封印に手をかけた。
「今すぐ儀式を始めなければ。」
香織が割って入った。
「だめ!外で戦うわ。時間を稼ぐ。ハルトが来るわ。」
アストラは首を横に振った。
「香織…ハルトがいても…この亀裂は開いたままだ。敵は迫り来る。」
香織は拳を握りしめた。
「じゃあ、時間を稼いであげる。」
そして、あの忌々しい儀式は終わらないでしょう。
彼女は戦場へと駆け出した。
アストラは叫んだ。
「香織、待て!!封印を発動させなければ、どうせ皆死ぬんだぞ!」
しかし、香織は止まらなかった。
彼女は筆頭妻だった。
最初の妻だった。
必要とあらば彼のために命を捨てると誓った者だった。
香織は巨大な怪物に激突した。
香織の剣は空色に輝いた。
「私の家族には手出しできないぞ!!」
影が彼女を押し倒した。
香織は膝から崩れ落ちた。
マルガリータは銃を撃ちながら塔から飛び降りた。
「諦めるな、香織!」
ライラ、屋上から:
「近づいてる! もう止められない!」
アウレリアは宮殿の中から絶望の叫び声を上げた:
「ハルト!!」
亀裂は広がり…
まるで街を飲み込もうとする巨大な口のようだった。
アストラ・ノクスは羊皮紙を掲げた。
「許して、ハルト! 他に選択肢はない!」
そして彼女は禁断の呪文を唱え始めた。
塔が震えた。
空気が裂けた。
空が轟いた。
香織はそれを見て…心が沈んだ。
「アストラ…だめ…」
遥か彼方、ダークキングダムにて…
ハルトの胸に刻まれた黄金の印が燃え上がった。
香織。
オーレリア。
彼の子供たち。
彼の帝国。
皆が一斉に彼を呼びかけていた。
彼を取り囲む影は、何かを恐れたかのように散り散りになった。
彼の力は危険なまでに高まり始めた。
ミラージュは後ずさりした。
「は、ハルト…?」
フロストレインは呟いた。
「あの力は…普通じゃない…」
ハルトは純粋な暁のエネルギーでポータルを力ずくで開いた。
彼の瞳は二つの太陽のように輝いていた。
「誰も。
誰も私の家族に触れさせない。」
そして彼は中へと足を踏み入れた。




