「呼吸する森と誓いを破ったエルフ」
一行はエリンドールの背後へと進んだ。
木々は彼を見るように伸びているようだった…
まるで、戻ってくるはずのない誰かを見覚えているかのように。
その森は、人間の森とは似ても似つかなかった。
✔ 葉は青とエメラルドの色合いにきらめいていた。
✔ 陽光は金色の糸に分かれ、枝の間を蛇のように流れていた。
✔ 足音は響かなかった。
✔ 空気は甘く、まるで音楽のような香りを漂わせていた。
香織は不安そうに辺りを見回した。
「嫌だ…誰かに見られている気がする。」
マグノリアが彼女の首筋に触れた。
「夢の中に入り込んだみたいだ。」
オーレリアは、まるでこの場所を既に知っているかのように、全てを観察するセレネを抱きしめた。
ハルトはエリンドールを見た。
「この森…自然じゃない。」
エルフは悲しげに微笑んだ。
「そうだ。この森は本当に生きている。すべての木には記憶がある。すべてのそよ風はメッセージを運ぶ。そしてすべての根は、誰がそこを踏むのかを知っている。」
香織は唾を飲み込んだ。
「それは…不安な響きだ。」
エリンドールは歩き続けた。
「ここは私たちの領土。これが私たちエルフの本質だ。
だから、私はもうここに属していない。」
ハルトは眉をひそめた。
「教えてくれ。」
彼らは光が液体のベールのように降り注ぐ空き地に着いた。
エリンドールはそこで立ち止まった。
彼の影は光によって断片化され、まるで森が彼を受け入れようとしないかのようだった。
香織は気づいた。
「なぜ光はあなたを拒絶するのですか?」
エリンドールは喜びのない笑みを浮かべた。
「それは、私がもう森の名前を持っていないからです。
エルフにとって、それは死を意味するのです。」
マグノリアは鼻を鳴らした。
「どうしてあなたの名前を奪えるの?何をしたの?」
アストラは既に答えていた。
「彼は神聖な誓いを破ったのね?」
エルフは頷いた。
「百年前…私の幻視は始まった。
白い目をした少女と、深い青い目をした少年…まだ存在していなかった子供たちの夢を見た。
太陽と月が同じ影を向いている夢を見た。」
オーレリアは凍りついた。
「あなたは…彼らの夢を見たのですか?」
エリンドールは赤ん坊たちを見た。
「ええ。
何十年も。」
ハルトは拳を握りしめた。
「それで誓いを破ったのですか?」
エリンドールは古代の根に腰を下ろした。
「私たちエルフは未来を見ることを禁じられています。
その才能は最高位の司祭だけが持つものです。
でも私は…生まれつき持っていたのです。
私の存在は間違いでした。」
カオリは深呼吸をした。
「それで、彼らはあなたを追放したのね。」
「そうでもないわ」とエリンドールは視線を落としながら言った。「私は選択を迫られたのよ。
幻視を捨てるか…それとも、民を捨てるか。」
「それで、あなたはどちらを選んだの?」とハルトは尋ねた。
エルフは顔を上げた。
彼の緑色の瞳は深い悲しみに輝いていた。
「私は自分が見たものを信じることを選んだ。
いつかあの子供たちが現れて、私の助けを必要とするだろうと信じることを選んだ。
私は…生きることを選んだ。」
オーレリアは目に涙が浮かぶのを感じた。
「つまり…この全て…
あなたがしたこと全て…私たちの子供たちを守るためだったのね?」
エリンドールは頭を下げた。
「彼らだけじゃない。
大陸全体を。」
冷たい風が空き地を吹き抜けた。
葉がざわめいた。
根が揺れた。地面は低い音を立てた。まるで警告の唸り声のようだった。
エリンドールはすぐに立ち上がった。
「彼らは私たちを試している。」
ハルトは剣を握りしめた。
「誰だ?」
「ヴェールの精霊だ。
エルフの領土を守る、目に見えない守護者だ。
私が人間を連れてきたことを知っている…
そして、私がここにいるべきではないことも知っている。」
香織は一歩後ずさりした。
「彼らは私たちを攻撃するのだろうか?」
エリンドールは首を横に振った。
「いいえ。
でも、もし彼らを敬わなければ…
この森から消し去られるでしょう。」
マグノリアは大きく息を呑んだ。
「消す?」どうやって消すの?
エリンドールは振り返らずに答えた。
「森の記憶を消す。
あなたの名前を消す。
あなたの魂を消す。
まるでこの世界に足を踏み入れたことがなかったかのように。」
石が落ちたように、沈黙が訪れた。
オーレリアは二人の赤ん坊を強く抱きしめた。
「ハルト…本当にいいの?」
彼は深呼吸をした。
「ああ。
もしこの道が答えに繋がるなら、私は進む。」
エリンドールは彼を見て…そして初めて、希望らしきものを見せた。
「精霊の道はそれを認めてくれるだろう。
私があなたを導こう。」
彼らが前進しようとしたまさにその時、赤ん坊たちが反応した。
ルシアンは空に手を上げた。
彼の瞳の青い光は灯台のように輝いた。
セレーネは指を伸ばし、銀色の光輪を作り出し、風を和らげた。
森は…静まり返った。
エリンドールは信じられないという表情で目を開けた。
「信じられない…精霊たちが受け入れてくれた。
こんな光景は初めてだ。」
ハルトは微笑んだ。
「じゃあ、行こう。」
森全体が彼らの前に開けた…まるで運命が許してくれたかのようだった。




